東京都交通局が運営している、上野動物園の懸垂式モノレールが消えるかもしれません。経営上は黒字ですが、過去にもあることが原因で存続問題が浮上したことがあります。なぜ維持が難しいのでしょうか。

経営上は黒字だが…

「日本初のモノレール」が存続の危機です。東京都の交通局と建設局は2019年1月23日、上野動物園(東京都台東区)のモノレールを11月1日から休止すると発表しました。


上野動物園モノレールの40形電車(2018年5月、恵 知仁撮影)。

 上野動物園モノレールは、東園と西園を約1分半で結ぶモノレールです。全長はわずか0.3km。車両は1編成(2両)だけで、予備の編成はありません。

 交通局によると、現在の車両(40形電車)は運行開始から17年が過ぎ、経年劣化が顕著に進んでいるため、法令で定められた検査の実施時期を迎える前に運行を休止することにしたといいます。休止期間中は電気自動車などによる無料の代行輸送が行われる予定です。

 これにかわる新車の導入について交通局は、「今後の車両更新またはそれに替わる方策については、都民等のご意見を伺いながら、検討」するとしています。新車の導入だけでなく「それに替わる方策」、つまり路線の廃止も含めて検討されるわけです。

 上野動物園モノレールの経営は、必ずしも厳しい状況とはいえません。交通局が公表している2017年度決算の概要によると、モノレールの経常損益は2400万円の黒字。利用者も比較的多く、国土交通省が公表している『鉄道統計年報』によると、2016年度の1日平均通過人員(輸送密度)は3290人でした。

 輸送密度はローカル線の存続、廃止を判断する指標として用いられることが多く、JR北海道は輸送密度が2000人未満の路線を「自社単独では維持するのが難しい」としていますが、上野動物園モノレールはその2000人を大きく上回っています。それでも存続の危機といえる状況になったのは、モノレール開発の歴史が深く関わっているためです。

世界最古のモノレールを参考に開発

 日本でモノレールの研究が本格化したのは、戦後すぐのことです。東京都も1950年代、路面電車に代わる交通機関としてモノレールの研究を開始。1901(明治34)年に開業した、営業路線としては世界最古であるヴッパータール(ドイツの工業都市)のモノレールを参考に研究を進めました。


ドイツのヴッパータールを走るモノレール(画像:photolibrary)。

 ヴッパータールのモノレールは、車両がぶら下がって走る「懸垂(けんすい)式」。鉄のレールの上に鉄製の車輪を置き、その部分(台車)から伸びる1本のアームが車体を支えています。東京都は、このヴッパータールのモノレールとほぼ同じ構造としつつ、車輪をゴムタイヤにして急な勾配でも走れるようにすることを考えました。

 東京都は上野動物園の敷地内に実証実験のための路線を建設し、1957(昭和32)年12月17日に開業。施設や車両は、将来の営業路線で想定される寸法の半分くらいの大きさでまとめられました。鉄道の法令に基づき開業したモノレールは、これが初めてでした。

 上野動物園モノレールは、動物園の来園者を運びながら実験を重ねます。しかし、東京の交通需要は高度経済成長によって急激に増加。本来はモノレールの整備が想定されていた地域でも、輸送力の大きい地下鉄が整備されることになりました。このため東京都はモノレールの研究を終了しましたが、上野動物園モノレールは来園者輸送という役割もあったため、引き続き運行しました。

 その後、日本では羽田空港へ向かう東京モノレールをはじめ、全国の都市でモノレールが整備されていきます。ただ、これらモノレールの多くは懸垂式の上野動物園モノレールとは異なり、軌道桁にまたがって走る跨座(こざ)式を採用。湘南モノレールと千葉モノレールは懸垂式ですが、軌道桁の内部にゴムタイヤの車輪を入れ込む構造を採用しています。上野動物園モノレールと同じ構造を採用したモノレールは、ひとつもありません。

 つまり、上野動物園モノレールは「オンリーワン」の存在で、ほかのモノレールと共通の部品を使ってコストを減らすことが難しいのです。

「オンリーワン」があだになる

 必要な車両数は1編成(2両)。わずか2両だけのために設計図を作成し、上野動物園モノレール専用の車体や部品を製造せねばなりません。そのため車両の製造費も高くつきます。

 1980(昭和55)年、施設の老朽化もあり、東京都は上野動物園モノレールの廃止を財政再建計画に盛り込みました。

 しかし、モノレールは上野動物園を象徴する乗りもので人気が高く、存続を要望する声も大きかったため、東京都は1983(昭和58)年10月にモノレールの存続を決めました。車両は日本宝くじ協会の支援を受けて更新。1985(昭和60)年4月に新型の30形電車がデビューしています。2001(平成13)年5月に営業運転を開始した現在の40形電車も、日本宝くじ協会の支援を受けて製造されました。

 その40形も、まもなく登場から18年が経過。車両の更新時期を迎えていますが、その費用は18億円かかることが判明。40形を導入したときの4倍以上に膨れあがりました。そのため、廃止も視野に入れた検討が行われることになったといえます。

 なお、18億円という金額は日本車輌製造(日本車両)が出した見積もり額(税込み)です。日本車両は東京都とともに上野動物園モノレールの開発にかかわり、開業時のH形電車から現在の40形まで製造してきました。

 交通局のモノレール担当者によると、見積もりが4倍以上になった理由は不明とのこと。

 なお、休止発表の翌日(2019年1月24日)、上野動物園モノレールは車両の故障により運休。交通局によると、走行装置内の部品が損傷しており、1月25日以降も運転を見合わせています。交通局は「(修理)作業には時間を要する」としており、再開の時期は明らかにしていません。場合によっては、このまま11月からの休止期間に入ることも考えられます。

 休止期間へ入る前に修理が完了し、モノレールが動物園の上空を走る日が再びくるのでしょうか。

いまも見られる! 上野動物園モノレールの初代車両


上野動物園モノレールの開業時に導入されたH形電車。製造元の日本車両豊川工場で保存されており、敷地外からも見られる(2017年10月、草町義和撮影)。