率直な語り口で、リンゴ・スターは78歳の現在も多忙を極める理由、ホワイト・アルバムのリマスターのおかげで、50年前に作ったビートルズの楽曲が今でも新鮮に聞こえる理由を語ってくれた。

現在リンゴ・スターは全盛期を楽しんでいる。もうすぐ傘寿を迎えるビートルズのドラマーには、生きるスピードを緩める気はまったくないようだ。天啓ともいえる新たなスーパーデラックス版ホワイト・アルバムのおかげで、彼の伝説に勢いがついている。ジャイルズ・マーティンが1968年の傑作に新たに施した革新的なミックスで、ファンはリンゴの演奏の新たな風味を味わうことができるのだ。そう、ついに「ロング・ロング・ロング/Long, Long, Long」でロックするリンゴのドラムを聞くことができる。そして、これを聞くと、彼の熱狂的なファンが昔から信じていた通り、リンゴはまさしくビートルズの心臓部だったと気付くのである。

しかし、今でもリンゴは前進し続けている。「想い出のフォトグラフ/Photograph」を歌った78歳のおしゃれでお茶目な紳士は、大型の豪華写真集『Another Day in The Life(原題)』を出版した。この写真集は世界各地をまわるリンゴの冒険を記録したもので、時代はビートルズ時代にまで遡る。彼の言葉を借りると「自分で撮った写真と手に入れた写真」ということだ(リンゴが『ハード・デイズ・ナイト』で言ったように、本から学ぶことができる)。この写真集の序文を描いているのがデヴィッド・リンチで、リンチはこの本を「書籍の形をしたリンゴイズム」と呼ぶ。またリンゴ自身の手によるユニークなコメンタリーもある。例えば、『アビイ・ロード』の有名なジャケットについての思い出は、「僕たちはスタジオの椅子に座って『ジャケット写真が必要だよな。ハワイに行こうぜ。エジプトに行こうぜ。ああ、もう、面倒だ。前の通りでも渡るか』と考えていた」だ。

また、彼は長く続けているオール・スター・バンドの30周年を記念するツアーを発表したばかりでもある。現在のオール・スター・バンドは、これまでのTOTOのスティーヴ・ルカサー、メン・アット・ワークのコリン・ヘイ、サンタナのグレッグ・ローリーに加え、アヴェレージ・ホワイト・バンドのヘイミッシュ・スチュアートが新たに加わっている。また、最近、リンゴはイギリスのバッキンガム宮殿に立ち寄ってナイト爵を授かった。リンゴ卿の誕生だ。

そして、他のみんな同様、リンゴもリマスタリングされたホワイト・アルバムを楽しんでいる。この最新バージョンは、収録曲が新たにステレオと5.1サラウンド・サウンドでミックスされており、加えて未発表音源を集めたCDが4枚ついている(通常の「ヘルター・スケルター」でリンゴの指にマメが出来ると思っているそこのあなた、この曲の13分バージョンをぜひ聞いてほしい)。ハードな日々を過ごしているナイトが、ローリングストーン誌にドラミング、ダンス、写真、ビートル時代の思い出、ホワイト・アルバムの再発見について語ってくれた。

―新しい写真集とツアーの発表、おめでとうございます。最近は本当に忙しくしていますね。

最近の俺の仕事はツアーになっているね。3月の日本ツアーからこのツアーが始まって、夏にアメリカをまわる。俺には時間がたくさんあるから、とにかく演奏したいんだよ。もちろん、ドラマーだからソロでツアーをすることは無理だ。俺がギタリストだったら、フォークシンガーになって毎日どこかにでかけてプレイしていたはずさ。

―ライブの醍醐味の一つが、あなたがいつも披露する最高のダンスです。

ああ、俺は最高だよ。ダンスがかなり上手いって自覚もあるよ。俺の身体にはリズムが刻まれているから。

―若さを保ち、常に活動的でいられる秘訣はなんですか?

そうだな、活動的でいることが若さを保つと思うね。運動もするよ。トレーナーがついている。ステージでは元気いっぱいだ。食事はベジタリアン食で、ブロッコリーは毎食必ず食べている。そんなふうに、自分にとって良いと思うことはすべてやっているんだ。あと、こうやって動き続けられる体力がある幸運にも恵まれているようだ。

―書籍やアートを通じて、あなたは異なる方法でファンと交流しているように思うのですが。

ああ、俺はみんなと交流しようとしているよ。それ以外にも正当な理由があるんだ。(書籍やアートの収益は)俺の慈善団体Lotus Foundationに寄付されることになっている。今回の新しい本は、コンピュータでいたずら書きをしたり、写真を見たりしたのが発端だ。そんなふうに無為に時間を過ごしているうちに「よし、本を作るぞ」って。だから写真集にしたんだ。この作業の間にツアーの準備をして、その作業の最中にゲストハウスにある小さなスタジオにこもってレコードを作っているんだよ。

―私たちもあなたと同じだけの体力と気力がほしいですね。

何がすごいかって、先週、俺はタコマにいた。ジョー・ウォルシュがVetsAidというチャリティをやっていて、ジェイムス・テイラー、ドン・ヘンリー、女の子バンドのハイムを招待していた。俺も友達に「ちょっとした手伝い」をしたくて、ピョンピョン飛び跳ね始めた。そしたら、みんながステージに来てくれたのさ。それがフィナーレだったものだから、みんなもピョンピョン跳ねてくれてね。あれは本当に素晴らしい光景だった。みんなが一斉に飛び跳ねているんだから……もちろん音楽に合わせてね。だって、俺たちはミュージシャンだもの。

―あなたには人を巻き込むパワーがありますよね。書籍『Another Day in The Life(原題)』ではビートルズ時代の思い出がたくさん述べられています。当時の思い出を振り返るのはどんな感じでしたか?

う〜ん、正直に言うと、思い出すには写真が必要なんだ。写真を見て、「うわー、この日はなんて大変な日だったんだ」とか、「大変な週だ」とか、「おや、これはバハマかどこかだな」とか。写真が記憶を引き出してくれる。そして、その一方で、他の思い出も浮かんでくる。俺が写真に収めたビーチに流れ着いたブーツとかね。あのブーツの光景は本当にシュールだった。この本はいろんなものが詰まっているよ。ポールが俺を指さしている写真とか、俺がピースサインを作っている写真とか。パリで撮影した1枚は傑作さ。これには霧の中のエッフェル塔も写っているんだ。

―かつての写真を見て、昔を振り返るのは幸せなことですか?

うん、幸せだ。楽しいもの。俺たちはプレイするのが大好きな4人の若造だった。4人でいい音楽も作った。それが今でも続いているのさ、新しいホワイト・アルバムでね。これは現実のものとは思えないほどだが、とても気に入っている。だってリマスタリンスされたおかげで、ドラム・サウンドが本当によく聞こえるから。

―新しいミックスであなたの音がラウドでクリアなせいで、みんな、あなたのプレイに新しい要素を発見していますよ。

ジャイルズにボーナスあげなきゃな(笑)。

―「ロング・ロング・ロング/Long, Long, Long」のあなたのドラミングにはびっくりです。

俺のお気に入りは「ヤー・ブルース/Yer Blues」だ。あれはEMIの巨大なスタジオじゃなくて、3メートル四方の小さなブースで録ったから。あのときの俺たちはバンドに戻った感じだった。クラブでプレイする無名のバンドにね。

でも「ロング・ロング・ロング」は、オリヴィア(・ハリソン、ジョージの妻)にもこれを話したんだけど、以前の「ロング・ロング・ロング」はアルバムに収録された地味な1曲にすぎなかった。でも今回のリマスターでセンセーショナルなサウンドになっているのさ。本当に美しいし、とても感動する。俺たちがあの曲を作った当時にこんなサウンドは作れなかったと思うよ。

―この曲では、あなたとジョージしかいなくて、お互いに楽器で会話している感じです。

ああ、それがあのときに俺がプレイしたものだよ。わかるだろう? 俺はシンガーに合わせてプレイするし、いつもそうやってドラムを演奏してきた。もしジョージが歌うなら、彼と一緒に演奏するだけ。でも、そこで俺の感情が動かされたら、それが演奏に反映される。歌が入っていない部分にそれが顕著だ。あの曲は本当に美しく立ち上がってくれたよ。俺たち全員がジャイルズに感謝しないとな。新しいバージョンには本当にたくさんの情報が詰まっている。人によっては「もう、どうしてアルバムとして普通にリリースしないんだ?」って思うかもしれないけど、これが新しいリリースの仕方なのさ。

―「ヤー・ブルース」がお気に入りと言いましたが、この曲でのあなたのドラミングは完全にモンスター級です。

俺はモンスターだよ。でも俺たち全員がモンスターさ。だって境界が一切ないから。聞いて分かる通り、ジョンの歌声が再びラウドになっているし、俺のマイクかアンプマイクが拾った古い声も聞こえてくる。そんなふうにすべてが繋がっているのさ。

―あなたが提供するビートがシンガーを刺激しまくっている印象を受けました。

ああ、シンガーは俺のプレイスタイルが大好きだね。俺は連中の声をかき消すことはないから。

―「ドント・レット・ミー・ダウン/Dont Let Me Down」をレコーディング中にジョンが最高の言葉を残しましたよね。あなたのドラムのイントロでジョンが「叫ぶ気力を引き出す勇気をくれ」と言っていました。あなたが私たちにしてくれているのが、まさしくこれで、私たちはあなたに勇気をもらっています。

それができていると嬉しいね。でも、俺がいなくなったら、君は自分の力で叫ばないとダメだよ。