小売業界にあって群を抜く業績を上げ続けているドンキホーテホールディングスとニトリホールディングス。連続の増収増益記録はそれぞれ29期と31期と、まさに絶好調を維持し続けています。何が両社の「力の源」となっているのでしょうか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが自身の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』で、ドンキ、ニトリそれぞれの商品構成や売り場展開などを詳細に分析し、業績好調の理由を探っています。

業績好調のドンキとニトリの相違点と共通点とは

上場前から数えて29期連続の増収・営業増益を達成中のドンキホーテホールディングスと、31期連続の増収・営業増益を達成中のニトリホールディングス。競争が激しい小売業界の中でも絶好調といえる2社だ。両社は他の小売り企業と何が違うのか。解剖してみたい。

まずは直近の通期業績を見てみよう。売上高は、ドンキ(2018年6月期)が9,415億円、ニトリ(18年2月期)が5,720億円だった。ドンキの方が6割強高い。一方、本業の儲けを示す営業利益はニトリの方が高く、ドンキの515億円に対してニトリは933億円と1.8倍稼いでいる。営業利益が売上高に占める割合を示す売上高営業利益率は、ニトリが16.3%、ドンキが5.5%で、両社とも例年並みだった。ニトリの営業利益率は驚異的といえ、ドンキは悪くはない数値といえるだろう。

ニトリが高い利益率を誇るのは、一般的に利益率が高いとされるプライベートブランド(PB)の比率が高いことが大きな要因となっている。ニトリは商品の約9割がPBだ。ニトリは製造から小売りまでを一貫して行う製造小売り(SPA)モデルを採用しているため、中間コストを省くことができ、低価格ながらも利益率が高いPBを開発することができる。

しかも、ニトリのSPAはただのSPAではない。物流網までも自社で抱えたSPAだ。ほとんどのSPA企業は物流に関してはアウトソーシングしており、ニトリ型のSPAはほとんど見られない。ニトリは物流をアウトソーシングする必要がなく、その分コストを抑えることができる。高い利益率の傾向があるSPAの中でもニトリの利益率は群を抜いて高いが、それは、物流網までも自社で抱えていることが大きいだろう。SPAは一般的に「製造小売業」と呼ばれるが、ニトリは自社のSPAを「製造“物流”小売業」と呼んでいるほどだ。

ドンキを支える「スポット商品」と「コトの消費」

ドンキの利益率が高いのはどのような理由によるのだろうか。ドンキはニトリほどPBの割合は高くはなく、約1割にとどまる。一方で、「スポット商品」と呼ばれる、メーカーや卸が出荷できずに抱え込んでいる余剰商品や季節外れの商品を安値で多数仕入れて販売しており、これが利益の源泉となっている。スポット商品が全体に占める割合は約4割にもなるという。

ドンキは食品を安値で売り出して集客を図り、利益率の高い非食品を買ってもらうことで利益を確保する戦略を採っている。このことは、食品売上高が全体に占める割合が食品粗利益のそれより大きく上回っていることからもわかる。17年6月期の前者は35.7%だったが、後者は24.0%にすぎなかった。つまり、粗利益を削る形で低価格を実現し、それにより販売数が伸びて売上高が大きくなっているのだ。

ドンキが支持されているのは安さだけではない。他にはないドンキ独特の売り場もそうだ。商品を所狭しと並べる「圧縮陳列」の手法を用いて作られたドンキの売り場はまるでジャングルのようで、客はジャングルを冒険するかのような体験を味わいながら買い物を楽しむことができる。現代の消費者は「モノの消費」よりも「コトの消費」を好むと言われているが、ドンキの売り場は“ジャングル体験”というコトの消費を提供しているといえ、このことが支持される大きな要因となっている。

店によって売り場構成が大きく異なるのもドンキの特徴であり強みとなっている。ドンキは「個店経営」を標榜し、顧客の属性などに合った売り場づくりを個店ごとに行なっている。例えば、若者の女性が多ければ低価格の化粧品の売り場を拡充させたり、外国人観光客が多ければお土産用の菓子を充実させたりする。こういった売り場づくりを実践しているので、店によって売り場構成が大きく異なるようになる。そして店に個性が生まれる。二つとして同じ店はないのだ。

ドンキは個店経営を実現するため、店長など店舗従業員に大胆な権限委譲を行なっている。商品の仕入れや値付け、陳列などの業務を本部従業員ではなく店舗従業員が担っているのだ。こういった業務は、一般的な小売りチェーンでは本部従業員が行うことが少なくないが、ドンキは大胆にも店舗従業員に権限を委譲している。やりがいのある業務のため、これにより店舗従業員のモチベーションが向上する。また、売り場の個性がより一層強まるため、面白みのある売り場の構築に一役買っている面もある。

他を凌駕するニトリのトータルコーディネート

一方、ニトリの売り場はドンキとは大きく異なる。ドンキの売り場が異端派とすれば、ニトリの売り場は正統派だ。ドンキの売り場は異端であるがゆえ、おそらく好き嫌いが大きく分かれるだろう。一方、ニトリの売り場は正統派だけあって、わかりやすい形で整然と商品が陳列されており、多くの人が好むと思われる売り場となっている。

ニトリの売り場は正統派であるがゆえに差別化が難しい。ただ、そうした中でも売り場の見せ方が上手いように思う。商品カテゴリー別で展開する売り場とトータルコーディネートで展開する売り場を適切な割合・構成で展開している。

特にトータルコーディネートで展開する売り場は競合を凌駕しているのではないか。これは、PBの割合が高いことに起因している面がある。メーカー製品の場合、コーディネートを意識せずに作られる傾向があり、そういった製品群しかない場合、統一感のあるコーディネート提案が難しい。一方、ニトリは自社企画でPBを作っており、コーディネートを意識して製品の企画と製造ができるため、統一感を持たせた製品群で売り場を構築することができ、統一感のあるコーディネート提案が可能となる。

例えば、木製の家具を多く多用したコーディネート案「ナチュラル」や、“和”の要素がある家具を多く用いた「ジャパニーズモダン」といった複数のコーディネート案をニトリは開発し、売り場などで提案している。客は示されたコーディネート案に従って商品を購入すれば、統一感のある部屋にすることができるのだ。これは、コーディネート案の開発と製品の企画・開発を自社だけでできるニトリならではといえるだろう。

ドンキとニトリはどちらも業績が好調だが、それを実現する力の源にはかなり違いがある。一方で、他社が簡単には真似できないノウハウを持っているという点では共通している。ニトリの製造物流小売業のビジネスモデルやドンキの売り場構築のノウハウは他に見ることはできず、真似することも簡単ではない。まさに「差別化」とはこれらのことを言うのだろう。これらの差別化が保たれる限り、両社の快進撃はまだまだ続きそうだ。

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