自殺対策に取り組むNPO法人ライフリンクの清水康之代表は、昨年の春までNHKでディレクターを務めていた。自殺に関する取材を通して目にしてきた遺書は30通以上。その多くに、「だめなお父さんでごめんね」「仕事ができない部下ですみませんでした」などと自らを責める言葉が綴られていたという。

 清水代表は指摘する。「では、そうした人たちがなにか悪いことをしていたのかといえば、まったく逆。むしろ人一倍責任感が強く、ズルができない、真面目にコツコツと生きてきたような人たちが、自らを否定する言葉で人生を閉じていっている。過重労働やリストラ、借金の取り立てやいじめによって、『ごめんね』と言いながら自らの命を絶たなければならない状況に追い込まれていっている」

「そうして亡くなられた方々も、本当は家族と一緒に暮らしたかっただろうし、仕事も続けていきたかったはず。それなのに、本当は『生きたい』のに、自らを蔑みながら自殺に追い込まれていかなければならないだなんて、あまりに切なすぎないか」

「今も日本で自殺する人の数は一日90人に上る。私たちは、こうした現実を、もっと真剣に受け止めるべきだろう」

 98年に、日本の自殺者数を一気に8000人も押し上げたのは、40代、50代の中高年男性の自殺。97年に山一證券、北海道拓殖銀行が破たんし、日本経済に暗雲が立ち込め始めた翌年のことだ。連鎖倒産などで、多くの中小企業が経営に行き詰まり、経営者たちが「家族の生活を守るために」と生命保険を借金返済に充てようと命を絶つケースが急増したのだ。清水代表は、競争社会だから倒産、廃業は仕方がないとしても「命による精算」が止まらない現状はおかしい、と語気を強める。

「連帯保証制度などの社会的なシステムが、多くの自殺の引き金になってきたことは間違いない。あるいはサービス残業による過重労働を黙認している現状だって、どれだけ多くの人たちを自殺に追い込んでいることか」

「政府は、自殺の実態を多角的に解明し、その要因となっているものに対して総合的な対策を講じていくべき。『ごめんね』と自らを蔑みながら自殺していく人たちを少しでも減らすため、社会ができることは決して少なくないのだから」

「亡くなってしまった人たちに対して、遺された私たちにもし何かできることがあるとすれば、それはもう二度と同じようなことが起きないようにすることではないのか。亡くなられた方々の言葉を胸に深く受け止め、私たちがいま為すべきことを考えていこう。」【了】

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