「自殺の多くは社会的に追い詰められた死であり、防げる死である」と語る清水康之さん

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自殺大国ニッポン─。日本の自殺者は、7年連続で3万人を超す状態が続いている。しかし、国を中心とした社会的な対策は十分に進んでいない。そうした現状を受け、遺族支援や社会啓発などの自殺対策に取り組むNPO法人も誕生してきた。なぜ社会的な取り組みが必要なのか。NPO法人ライフリンクの代表として、自殺対策推進へ精力的な活動を続ける清水康之さんに聞いた。

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 日本では、自殺に対して、個人的な信条や価値観に基づいて命を絶つものという考え方があるため、「なぜ自ら勝手に死んでいく人たちを止める必要があるのか」という議論があるという。しかし、清水代表は、日本の場合、自殺の多くが、社会的に「追い詰められた死」であり、「避けられる死(avoidable death)」であると訴える。

 「個人的な人生観で命を絶つ人も確かにいる。だが、日本では、社会的に追い詰められた末に亡くなっていく人が非常に多い。年間自殺者は、1997年までは2万人台前半で推移してきたが、98年には一気に8000人増えて3万人を超えた。これは、急に人々の人生観が変わって自殺者が急増したのではなく、社会的な背景が要因としてあってのこと」

 「しかも、そうした追い詰められた末の自殺は避けられる死でもある。自殺の原因が、リストラ、借金、いじめなど社会的な要因にある場合は、それらの問題を解決するか、そこに社会的な対策を立てることで確実に減らすことができる」

 行政側にも、そうした認識は広がりつつある。厚生労働相の私的諮問機関「自殺防止対策有識者懇談会」は2002年に「日本人の自殺は追い詰められた末の死であり、社会的対策が必要」と提言。また、WHO(世界保健機構)も「自殺は防ぐことができる公衆衛生上の問題だ」と明言している。

 海外には、先進的な取り組みをしている国もあり、例えばフィンランドでは、1986年から国を挙げて総合的な自殺対策を行い、10年間かけて自殺者数をピーク時から約30%減らした。

 清水代表は力を込める。「自殺の多くが、社会的に追い詰められた末の死であり、また避けられる死であることも、つまり分かっている。それなのに、これまではそうした自殺を防ぐための総合的な対策が取られて来なかった。自殺は個人のこころの問題であるとして、社会的な対策が見過ごされてきたのである。日本で7年連続年間自殺者数が3万人を超えているというのは、ある意味その必然的な結果。国民の生命、安全を守ることが最低限の仕事であるはずなのに、国はそれを怠ってきたと言われても仕方がないだろう」

 「これまでは民間のボランティアが自殺対策の最前線で活動してきたが、もうとっくに限界を超えている。本当に自殺を防ごうとするならば、政府が音頭をとって国を挙げてその対策に取り組むべきだ。避けられる死を、社会として見て見ぬ振りをし続けるのか。それとも社会全体で防ごうとするのか。自殺は、私たちの社会における命のあり方をも問うているのだと思う」

 ◇このインタビュー連載では、日本の自殺防止対策の最前線で活動するNPO法人「ライフリンク」代表の清水康之さんに、日本の自殺対策の現状や必要な取り組みについて、10回にわたって語ってもらう。【了】

清水 康之(しみず・やすゆき)
1972年2月11日 東京生まれ

 1988年、日本の高校を中退。同年に単身渡米。 90年、シアトル郊外のレイク・ワシントン高校を卒業。 91年には東欧諸国や旧ソ連を一人旅する。 97年、NHKに報道局ディレクターとして入局。「クローズアップ現代」などを担当。自殺で親を亡くした子供(自死遺児)や、オウム真理教信者の親らを取材。2004年3月に退職。同10月にNPO法人「ライフリンク」を立ち上げ、代表に就任。民間団体や行政機関、マスコミや国会議員、そして作家、クリエーターらとの幅広い人脈を活かして、自殺対策の「つなぎ役」として精力的に活動している。

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