おっさん」。そう聞いてR25世代が思い浮かべるのは、「面倒くさい」「時代遅れ」などのマイナスイメージばかり…。

でも、ボクらの知らないところでは、おっさんだって社会や組織を動かす大きな力となっているかもしれない。

ということで、新R25が9月にお届けする特集「すごいぜ! おっさん」では、普段はなかなか伝わらないおっさんの苦悩や魅力にスポットを当てたいと思います!



4日連続公開特集の第1回のテーマは、「おっさんとのコミュニケーション」について。

話が長い、人の話を聞かない、昔の自慢話ばかりする…。職場で接する「おっさん」に対して、そんなイメージを抱いていませんか?

事実、クラフトビールブランドの「よなよなエール」が実施した調査によると、飲み会で多く部下は「上司が話しすぎ」と感じているそう。

そんなおっさんのコミュニケーションスタイルについて、『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)の著者である岡本純子さんに話を聞いてきました!

自分の話をすると気持ちいい…おっさんの長話を助長する「快楽物質」


【岡本純子(おかもと・じゅんこ)】コミュニケーションストラテジスト。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、英ケンブリッジ大学院国際関係学修士。米MIT元客員研究員。新聞記者とPRコンサルタントとしての経験を通じて、メディアの表と裏、コーポレートコミュニケーションの奥義を極め、「伝わるコミュニケーション」のノウハウ普及で活躍中

編集部・N:
「おっさんはめんどくさい」と思ってるR25世代が多いということで、その理由をうかがいにきました。

おっさんのコミュニケーションは、なぜめんどくさく感じてしまうんでしょうか?

岡本さん:
彼らを擁護するわけじゃないけど、性別にかかわらず、自分の話をしているときの人間の脳は、食べ物やお酒、セックスで得られるのと同じ快楽物質(ドーパミン)が分泌されて活性化していると言われています。

編集部・N:
お酒やセックスと同じ快楽…! だから気持ちよくてやめられないと。



岡本さん:
あとは、日本の会社のシステムに原因があると考えられますね。

年齢とともに昇進していく構造なので、年下の人の意見を聴くことに慣れていないんですよ。

編集部・N:
古くからある企業は特にそうでしょうね。

岡本さん:
最近ではだいぶフラットになってきているとはいえ、日本の会社組織は、上に行けばいくほど年齢が上がって権力も強まる垂直型がまだまだ目立ちますからね。

そんななかで20年、30年すごしてきたおっさんたちが、いまさらフラットなコミュニケーションをとるのは至難の業なんです。



編集部・N:
脳と会社の構造上の問題…。それはあらがう余地がないですね。

岡本さん:
そうなんです。おっさんも好きでそうなっているのではない、というのは覚えておきたいです。

“組織を伸ばせる強いリーダー”は「理不尽なおっさん」であることが多い



岡本さん:
少し前、ワイドショーなどで話題になったスポーツ界のエライ人など、どうしようもないおっさんなのに、なぜか権力を掌握できる人っていますよね?

編集部・N:
たしかに、マスコミ報道を見ていると、理不尽な言動が多かったですね…

岡本さん:
にもかかわらず、大きな組織の長でいられるのはどうしてだと思います?

編集部・N:
まったく想像もつかないです。というか、こわくて想像できません。

岡本さん:
カナダの高名な犯罪心理学者によると、組織の長に立つ人には「マキャベリアン」「サイコパス」「ナルシシスト」の3要素を備えた人が多いそうなんです。

編集部・N:
「サイコパス」「ナルシシスト」は分かりますが、「マキャベリアン」とは?

岡本さん:
ルネサンス期の政治思想家、ニッコロ・マキャベリの著書『君主論』からきているもので、組織の利益のためなら手段を選ばず、非道な行為や決断をしてもいいと考える人のことです。



編集部・N:
なんとなく分かるような…

岡本さん:
そういった人は、なりふりかまわず組織の強さや利益を伸ばすことができるんですね。だからこそ“強いリーダー”として歓迎されることが多い。

ただし、内部でのコミュニケーションなどには向いていませんから、組織が崩壊してしまうリスクが高いんです。

SNSに慣れ親しんでいるR25世代は、将来「自分の話ばかりするおっさん」に!?



岡本さん:
と、ここまで「おっさん世代」のコミュニケーションの問題点を話してきましたが、逆にR25世代の若者こそ、「もっと厄介なおっさん」になる危険性を持っているんですよ。

編集部・N:
え!?

岡本さん:
いまってSNSで自分をどんどん発信していく時代ですよね。R25世代は特に、自撮り写真や自分の主張を不特定多数の人にシェアすることに抵抗がない世代だと思います。

編集部・N:
まさにそうですね。

岡本さん:
そもそも人間って自分の話をしがちで、アメリカの科学雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』の記事によると、会話の60%が自分に関することと言われています。

それがSNSになると、80%までアップするそうなんです。つまり、そういったコミュニケーションに若いうちから慣れ親しんでいると、将来的に「自分のこと話したがりなおっさん」になる可能性は高いですね。



編集部・N:
今「めんどくさい」と思っているおっさんより、さらに自分のことばかり話したがるおっさんが誕生してしまう…!

岡本さん:
おっさんが人の話を聞かず、自分の話ばかりすることで「快楽」を感じている以上に、若い人たちはSNSを通じて自己アピールをすることで、気持ち良さを感じているんです。

コミュニケーションは後天的に鍛えるしかない。聴く力を鍛えよう



編集部・N:
R25世代がそんな「面倒なおっさん」にならないためにはどうしたらいいでしょうか?

岡本さん:
当たり前ですが、コミュニケーションの基本である「聴く力」を身につけることです。

「面倒なおっさん」化を回避する以前に、聴き上手な人は好印象を与えます。

先ほど「会話の60%が自分の話」と言いましたが、アメリカのBtoB企業のセールストークを分析したところ、優秀な営業マンは「相手の話を聞く時間が57%、話している時間は43%だった」というデータが出たそうです。

編集部・N:
聴き上手だと、ビジネスにもいい影響があるんですね! その「聴く力」ってどうしたら身につくんでしょうか?

岡本さん:
難しいかもしれませんが、まずその相手に好感や興味を持つことです。

年上の上司とコミュニケーションしたいと思ったら、おっさんを「愛して」「面白がって」あげてください(笑)。少しでも苦手意識を持った時点で、コミュニケーションは止まってしまいます。

編集部・N:
相手がおっさんに限らず、苦手なタイプは避けがちです…

岡本さん:
そもそも日本人は、周りの人に自然と同質性を求めすぎてしまうところがあって、同じ日本人なのに「違う」「理解できない」と思うから腹が立つんです。外国人だったりすると、「ああ、まあ違うもんな」と思えるじゃないですか。

だから、おっさんを異文化の人だと思えば「違うのは当たり前」と割り切って受け入れられるのではないでしょうか。



岡本さん:
私が多くの人々を見てきた感覚値ですが、コミュニケーション力って才能ではなく、9割は練習と慣れで上達します。筋肉と同じで鍛えただけ身につきますから、ぜひ普段の生活から意識してみてください!

おっさんを「面倒」と感じてしまうのには、本人の意図しない多層的な原因があることがわかりました。

今は「会社のおっさんの話、めんどくせえよなあ〜」とバカにしていても、近い将来、それ以上の「めんどくさいおっさん」に自分がなっているかもしれない。

そんな事態を避けるために、今のうちから「コミュニケーション力」を鍛えておきましょう!

〈取材・文=新R25編集部/撮影=オカダマコト〉

【4日連続公開】特集「すごいぜ! おっさん」

明日公開する第2回の記事では、職場でも煙たがられがちな「中間管理職」にフォーカス。

「指示をコロコロ変える」「マウンティングしてくる」その裏には実はたくさんの要因があるのではという仮説を、産業医の大室正志さんにぶつけていきます。

中間管理職のおっさんは、AI時代に真価を発揮する!?