100メートルバタフライで18歳の池江は、大会新で初優勝した【写真:Getty Images】

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大きくなった18歳の背中、池江を指導するプロトレーナー木場氏が見た進化の裏側

 競泳のパンパシ水泳(東京辰巳国際水泳場)女子100メートルバタフライで自身の持つ日本記録を更新し、国際大会初の金メダルを獲得した18歳の池江璃花子(ルネサンス亀戸)。4日間で8種目12レースを泳ぎ切り、リレーを含め、金1、銀2、銅1を獲得し、スーパー高校生は2020年東京五輪に向け、目覚ましい成長を遂げた。いったい、何が進化しているのか――。サッカー日本代表DF長友佑都(ガラタサライ)らトップアスリートへの指導で有名なプロトレーナーが進化の裏側を語ってくれた。

「池江選手に初めてトレーニング指導したのは中学3年でした。そこから3年をかけて体幹の土台作りをスタートしました。今大会でも明らかにフィジカルトレーニングの成果が出ていると思います」

 こう語ったのは池江の所属するフィットネスクラブ大手「ルネサンス」でアドバイザーを務める木場克己氏だった。独自のトレーニングメソッド「KOBA式体幹トレーニング」を開発した同氏は競技の枠を超え、池江、長友というトップアスリートから、レアル・マドリードの下部組織でプレーする「ピピ」こと中井卓大ら、育成年代の選手も指導。その手腕に対する定評は高い。

水泳選手にとっても体幹の強化は重要です。体幹が弱く、体の軸がしっかりしていないと、競技中に骨盤の位置がぶれます。すると、余計な水の抵抗を受けることになります。そうなれば、タイムも落ちますし、余分な体力消耗につながります。もう一点あります。体幹の弱い選手は背中と腰の筋肉を使って、腕を振ろうとします。これが腰痛の原因にもなります。池江選手の場合、トレーニング開始当初はお腹の部分の体幹が弱かった。プランクというメニューでその課題は一目瞭然でしたが、それも克服しました。弱点を一個一個潰すアプローチもしっかりとできていると思います」

 競泳における体幹トレーニングがもたらす効能について説明してくれた木場氏。最近、刮目するのは大きくなった18歳の背中だという。

リーチが3センチ伸びて186センチに、進化した広背筋が泳ぎにもたらすもの

「とにかく広背筋が大きくなりましたね。背中が分厚くなったというか、そこは大きな変化だと思います。手の長さ、リーチという部分も彼女は身体的な特長です。今は両手を広げて中指から中指までの長さが186センチです。腕が伸びたという成長よりも、広背筋の強化がその理由だと思います。筋肉が発達したことで、より広げることができるようになった印象です。広背筋が水をかく動作で大事な部分です。大胸筋を使って手を入水させた後、広背筋で掻きながら引き上げるイメージです。広背筋のパワーアップは水をかく際の強いパワーにつながるのです」

 広背筋とは肩甲骨の下から骨盤まで逆三角形に背中に広がる筋肉。最も面積の広い筋肉だ。両手を広げた長さが昨年の183センチと比較して成長。単純に3センチ、腕が長くなったのではなく、広背筋の強化による成果と木場氏は分析している。そして、分厚さを増した広背筋のパワーを最大限に生かすことが、体幹の土台になるという。

「池江選手の場合には体幹がしっかりしているので、広背筋に100%近いパワーを伝えられる状態だと思います。腕の振りが速くなった上、ブレもないので、水の抵抗を受けずに推進力につなげることができています。体幹の捻転力の強さと腕の遠心力が、池江選手の美しいフォームと今の強さにもつながっています」

 木場氏はこう分析している。しなやかで、力強く、美しい泳ぎこそが池江スタイル。日本記録を次々に塗り替えているシンデレラガールは中学3年からスタートした、中・長期的な肉体改造が素晴らしい仕上がり具合を見せている。

「池江選手にとって、目標は2020年の東京五輪で金メダルを獲ること。このまま順調に伸びていってもらいたいです」

 2年後に迫った自国開催の五輪で金メダルも期待される池江に、木場氏は優しい眼差しでエールを送っていた。(THE ANSWER編集部)