「妖怪ウォッチ」をはじめ、ヒットを飛ばし続けるレベルファイブの日野晃博社長(筆者撮影)

小中学生を中心に、ゲーム、アニメ、コミックなど、異なるメディアにまたがるキャラクター、世界観を構築し、各ジャンルでヒットを飛ばす――。近年、クロスメディアの手法・事例は数多くあるが、福岡に拠点を持つレベルファイブは、ゲームソフト開発を起点にオリジナルコンテンツを横展開することで独自の地位を築いている。

たとえば「ディズニー」というブランドから生み出されるコンテンツ、あるいは「任天堂」というブランドから生まれるコンテンツが、それぞれどういうものか想像できるように、また期待に応えるものであるように、レベルファイブの生み出す制作物には一貫性があるが、特徴的なのは日本のアニメ作品に多い“製作委員会”制度を採用しながらも、世界観を崩さずに複数の事業ジャンルに展開できていることだ。

現在放映されている新作だけでも『レイトンミステリー探偵社〜カトリーのナゾトキファイル』『イナズマイレブン アレスの天秤』『妖怪ウォッチ シャドウサイド』『スナックワールド 大冒険セレクション』と4作品がテレビ放映中。そのいずれもが、レベルファイブが生み出したゲームのキャラクター、ストーリー、世界観から生まれている作品である。

「製作委員会」という日本独自の仕組み


フジテレビ系列で毎週日曜朝8時30分から放送中の『レイトンミステリー探偵社〜カトリーのナゾトキファイル』(写真:©LEVEL-5/レイトンミステリー探偵社)

アニメやゲームのキャラクター、世界観を用いたコンテンツの制作費を映像、音楽、ゲーム、玩具、コミック、小説といった異なるメディアにまたがった多様な企業が出資してする「製作委員会」という仕組みがある。

日本で映像作品を制作する際に採用されるこの制度について、ハリウッドの映画スタジオ幹部に「ハリウッドでも似たような枠組みはあるのか?」と尋ねたことがある。

ひとつの知財を中心に、競合しない企業同士がおカネを出し合って制作費を捻出し、出資した各社がそれぞれの事業領域で、その知財を元にした商品やサービスを展開する仕組みだが、尋ねたハリウッド映画会社幹部は別のとらえ方をした。

認知度の高いキャラクターを用いた映画を中心に、プロモーションを集中投下するタイミングで多様なメディアに展開するメディアミックスは、ハリウッドでもいくつかトライアルがある。たとえば、大コケしたものの企画製作時から、複数メディアへの横展開を計画的に推し進めたソニー・ピクチャーズの『ゴーストバスターズ』などの例がある。

しかし、いくら映画のプロモーションで大きな投資をするからと、そこからの横展開を期待して別メディアの商品を開発しても、結局は映画がコケれば“取らぬ狸の皮算用”となる。

彼らにとって、製作委員会制度は各ジャンルの専門家が「○○のジャンルで成功するには……」とさまざまな意見を寄せ、よりよい成功事例を作っていくための前向きな仕組みだととらえたようで、実に興味深いと話していた。出資するからには、それぞれのジャンルで主体的に投資する知財の価値を守り、育てるだろうと考えたようだ。

しかし現実は複雑だ。製作委員会制による知財開発には、多くの成功事例と同じように多くの失敗例がある。失敗の最も大きな理由として耳にするのが、リーダーシップの不在だ。横断的にキャラクターやストーリー、世界観といった作品の根幹をなす部分について、スムーズな協業が進まない場合がある。

ゲームとアニメでは投資金額が異なる

アニメ作品を原作にしてゲームを開発するといった場合、それぞれの制作にかかる投資金額の違いが大きいことも理由のひとつだろう。

ゲーム制作には最低でも数十億円規模の投資が必要になる。ところが、キッズ向けアニメ制作は(内容にもよるが)30分もの1本当たり1000〜1300万円程度、放送枠の確保に毎月2500万円程度がかかると仮定しても、1クール13話の構成でおおよそ2億円から2億6000万円ほどの費用で済む。

仮にアニメ制作にゲーム会社が投資したとしても、ヒットする保証がなければ投資リスクが大きいだけで、バランスの取れた枠組みとはなりにくい。結果、製作委員会には投資はするものの、ヒット後しかゲーム開発を開始できず、完成する頃には作品人気が下火になってしまうというケースもある。

それ以外のジャンルも含め、各メディアでの事業展開を考えるステークホルダーの思惑はそれぞれ異なり、異なるメディアに対して一貫した戦略を進めにくい。

ところが、レベルファイブのかかわるクロスメディアコンテンツには、そうした混乱が見られない。統一された世界観やキャラクターイメージを損ねない商品展開はもちろん、レベルファイブの本業であるゲーム開発をアニメ放映にキッチリ合わせ込み、タイミングを合わせて事業展開している。

こうした異なるジャンルのメディアを、スケジュールも含めてきっちりと管理しながら制作する力は、この業界でもトップクラスであることは間違いない。

では、どのようなオペレーションをもって、こうしたコンテンツ開発に取り組めているのか。同社創業者で社長を務め、またレベルファイブが持つ各種キャラクターあるいはその世界観を生み出してきた日野晃博氏に話を聞いた。

「“どこからどこまでかかわっているんですか?”と言われると、ゲーム、アニメだけでなく、玩具など、ありとあらゆるジャンルの制作を見ています」

多くのメディアにまたがった幅広い事業を展開しながらも、統一された世界観を決して逸脱しない。キャラクターたちが長期にわたって生き生きと活躍する。そんな一貫性のある制作を、多くのステークホルダーがかかわる委員会制度の下でどのように業務を進めているのかを質問すると、日野社長はそう話した。

ゲーム業界で知らぬ者はいない日野氏だが、もともとは8ビットパソコン時代、ゲームソフト会社が多く起業していた福岡のゲームソフト会社でプログラマーとしてキャリアをスタート。1998年に独立。ゲーム開発会社「レベルファイブ」を創業すると、製作プロデュース、原作・ゲームデザインと3役をこなした自社タイトル『ダーククラウド』を2000年にヒットさせた。

それ以降、ゲームの企画、シナリオ、プロデュースを通じて、レベルファイブが開発するゲームの世界観を構築していたが、同社にとって大きな転機となったのが2006年のパブリッシャー事業参入である。自社で開発したゲーム『レイトン教授と不思議な町』を翌年にヒットさせ、その後、現在までシリーズ化が続くばかりか、冒頭でも述べたようにアニメ化まで展開している。

『イナズマイレブン』が最初だった

しかし、日野氏が大きくその手腕を異種メデイアへの展開でも発揮しはじめたのは、ゲーム発売、アニメ放映、コミック化をタイミングを合わせた2008年の『イナズマイレブン』が最初だった。

「制作体制は委員会方式で、ステークホルダーがおカネを出し合って作ります。各ジャンルに展開する商品やサービスは、それぞれのリスクで展開しますが、私は総合プロデューサーとして、すべてのジャンルにかかわり品質管理をしています。

まず原作者として、数十ページにわたる原作を作り、そこに背景やコンセプトを乗せていくことで、ひとつの世界観を作る。ジャンルごとの商品開発の細かなところまでかかわり、原作が持つコンセプトや世界観に添ったものなのか、矛盾が起きないかなど、自分の責任において品質管理をしています」

レイトン教授シリーズでコンテンツクリエーターとしての評価を上げ、日野氏とレベルファイブの制作力がゲーム世界だけにとどまらないことがイナズマイレブンで証明されると、『ダンボール戦機』『妖怪ウォッチ』では玩具メーカーとコラボレーションすることで、“ひとつのゲーム世界”を出発点とし、さらに大きな経済圏を作ることに成功している。

強い意思を持って世界の構築を行った本人が、ゲーム、アニメ、コミック、玩具、あるいはノベライズ(小説化)など、すべてにかかわる。たとえば「玩具ならば、どのような玩具なのか、パッケージはどういったデザインなのか。新しいキャラクターを投入するなら、そのキャラクターの髪の毛のデザインやはね方、色に至るまで原作者の責任として品質管理に参加します」(日野社長)。

多忙を極めるが「ゲームを中心にした世界構築、コンテンツ制作が大好きなんですよ。半分以上、自分の趣味とも言えます。でも、だからこそエネルギーを注ぎ込めるし、責任を持って自らの考えを伝えることができた」と日野社長。

しかし、現在に至るまでの道は必ずしもの平坦ではなかったようだ。

ゲームの世界で成功していたからといって、アニメの世界では成功者ではなかった。単純に“こうあるべきだ”と旗を振ったところで、異業種のクリエーターたちが思ったとおりに動いてくれるわけではないからだ。

協業を進めるうちに信頼を得ていった

「アニメ制作のスタッフにも、きちんとリーダーとして認められ、信頼関係を構築しなければなりませんでした。しかしイナズマイレブンの制作の中で、ゲームサイドの人間としてアニメ制作スタッフにお願いして入れてもらった要素が、最終的にゲーム世界とつながったり、より世界観を広げていく結果を生み出すなど、協業を進めていくうちに“こういうことを言っていたのか”と、少しずつ信頼を得ていきました。

異なるメディアですから、別ジャンルのクリエーターの発想は時に“突飛”に思えるものです。しかし、そんな価値観の異なるジャンルのアイデアを、ゲーム、アニメ、コミック、映画といった形にまとめ上げることで信頼をしてもらえるようになったのです。最初は誰もが実績を持っていません。しかし、異なるジャンルであっても委員会に参加するかぎりには責任を持って制作にかかわる。それを何年も続けてきた結果です」(日野社長)

すなわち、委員会制度においても出資してゲーム領域への展開するだけにとどまらず、そもそものコンテンツの原点からクリエーティブの中心にかかわり、作品が展開する全事業領域に積極的に参加する。“口先で介入”するのではなく、制作の中心に切り込んで結果を出す。レベルファイブ、そして日野社長のユニークさは、委員会制度にあっても隅から隅まで気を配らせていく部分にあるのだろう。

さて、そんな日野社長はスマートフォンの普及、それに伴う映像作品やコミックスの楽しまれ方の変化をどう見ているのだろうか。

レベルファイブが得意とする小中学生向けゲームは、主に携帯ゲーム機が市場の中心にあるが、スマートフォン向けゲーム市場の成長は当然無視できない。またスマートフォン向けゲームは、アプリマーケットの中でランキングが固定化しやすく、新作のユーザー獲得コストが高く定着率も低いという特徴があるからだ。

2011年にはDeNAと提携、2017年にはゲーム・スマホ向けアプリ開発子会社「LEVEL5 comcept」を設立しているが、今後の市場を日野社長はどう予測するのか――。


スマホアプリ『妖怪ウォッチ ワールド』の画面(写真:©GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved. ©LEVEL-5 Inc.)

「私たちの作品を楽しんでくれているのは、主に小中学生たちです。一方でスマホ向けゲーム市場の中心にいるのは大人たち。具体的にはスマートフォンでのアプリ内課金を、自分の裁量でできる人たちです。

そうした意味では、新しい挑戦という面もありますが、すでに成功事例もいくつか作っていますし、ガンホー・オンライン・エンターテイメントと共同開発した『妖怪ウォッチ ワールド』など、スマートフォン向けアプリを得意とするパートナーとの提携例もあります。自分たちは無理に上位を狙っていくというよりも、自分たちができることを、各ステージごとにしっかり取り組んでいきます。その結果、品質を上げてヒットしているアプリも多くあります」(日野社長)

子どもたちにもネット配信は広がっていく

レベルファイブの“クロスメディア”展開は、夕方の放送枠を確保したアニメ放送との連動が主だ。しかし、今後という意味ではスマートフォンやタブレット、あるいはテレビ向けも含め、映像配信サービスの利用が、小中学生向けでも広がっていく可能性が高い。放送時間枠にとらわれないネット配信の特徴は、大人向けだけでなく子ども向けコンテンツでも歓迎されると考えられる。


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「子どもたちがテレビではなく、ネットを通じて映像を楽しむ世界は、もう目の前に来ていると思います。しかし現実には、まだテレビのほうがいい面もある。私たちとしては、現実にそういう状況になってきた段階で、テレビ放送枠なのか、ネット配信なのか、あるいはその両方なのかと、その時々で判断をしていくことになります。音楽の世界では、オンデマンドで曲を楽しむのが当たり前のことになっていますが、映像作品も遠くないうちにそうなるでしょう」(日野社長)

もっとも、当面はテレビ放送を軸にした枠組みを維持する。放送枠に対しては、各局が見逃し視聴サービスをネットで提供しているからだ。ネット配信については、同一シリーズの旧作や関連作品を映像配信サービスで視聴可能にすることで、新作をプロモートするといった現在のやり方が、まだ当面は主流になるととらえているようだ。