ロイヤルホスト若林店(東京都世田谷区/編集部撮影)

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ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」が売り上げを伸ばしている。昨年1月から全店舗で24時間営業をやめ、営業時間は短くなっているのに、なぜ好調が続いているのか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は「思い切って商品の質を高めることで、『高くてもおいしいものを食べたい』と考える客を取り込むことに成功した」と分析する――。

■店舗数わずか220店の「ロイホ」

ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」が好調に転じた。2015年と16年の既存店売上高がそれぞれ前年割れになり苦戦していたが、17年は前年比2%増と増収となった。18年に入っても好調で、1月と5月こそ前年同月をわずかに下回ったものの、2月が6.4%増、3月が8.0%増、4月が6.1%増と大幅な増収を達成している。ロイヤルホスト(以下、ロイホ)に何が起きているのか。

すかいらーくとデニーズと並ぶ「ファミレス御三家」と呼ばれたロイホ。しかし、現在の国内店舗数は約220店と、決して多くはない。ガスト(すかいらーく運営/約1370店)やサイゼリヤ(約1080店)に大きく差をつけられ、デニーズの約370店にも及ばない状況にある。

■低価格飲食チェーンに押されて苦戦

外食産業の市場規模は、1997年の29兆円をピークに、2011年にはピーク時より2割減の約23兆円にまで縮小した。この衰退と同時進行する形で、ロイホ運営会社のロイヤルホールディングス(HD)のファミレス事業も縮小。ロイホを中心とするファミレス店舗数は、98年の377店をピークに減少が続いた。

苦戦するファミレスを横目に、猛威をふるうようになったのが低価格を武器にする飲食チェーンだ。牛丼チェーンや回転ずしチェーン、ショッピングセンターのフードコートが勢力を伸ばし、外食産業は競争が激化。ファミレス界でも、低価格のガストが台頭した。ガストは92年に低価格路線の新業態として登場し、その後次々と「すかいらーく」店舗がガストに転換していった。その結果、03年には1000店を達成し、業界内の存在感を増した。こうした状況のなかで、比較的単価が高いロイホは苦戦を強いられた。

ロイホは、不採算店の閉鎖を推し進めることで事態の打開を図った。08年から13年にかけて、一部業態転換を含め、全店舗の4分の1にあたる約80店を閉めた。また、11年に3つの地域事業会社を1つに統合し、それまでバラバラだった営業戦略を統一するなど、経営改革を進めた。

■ミシュラン星付きレストランと同じ高品質パスタを投入

11年からは、メニューの抜本的な改革を断行。「コックが作る家庭では味わえない」料理を目指した。「低価格だが味はそれなり」というイメージが定着したファミレス業界の中で、商品の品質を高める戦略に打って出たのだ。

まず11年に、「新 パスタ宣言」を打ち出し、イタリアのミシュラン星付きレストランでも使われる高品質パスタ「ヴェリーニ」を使ったパスタメニュー4品を880〜1080円(税別、以下同)で発売した。ヴェリーニはイタリア最高級の小麦粉と山の湧き水で作られたパスタ麺で、110年以上の歴史を誇る。この麺を使ったパスタは人気を博し、現在もロイホの看板メニューとして、やや高めの980〜1280円で販売されている。

■厳選した牛肉で高品質なステーキを提供

12年には、ステーキをグレードアップした。この年に発売された「熟成アンガスリブロースステーキ」(230グラム/1980円)に使われているアンガスビーフは、アメリカでのアンガスビーフの認定制度でも2割程度しか認められない厳しい品質基準をクリアした、選びぬかれた肉だ。店舗に到着するまでブロックの状態で約40日間熟成させ、店舗でカットして調理することで、うま味を逃さない工夫が施されていた。

現在もロイホのステーキメニューでは、この高品質なアンガスビーフを使用している。最もオーソドックスな「ロイヤルアンガスサーロインステーキ」(225グラム)の価格は2480円とかなり高額だ。提供時に使われる皿は、オリジナルの美濃焼ステーキ皿で、販売の力の入れ方がよくわかる。

こうした改革は功を奏し、下落傾向が続いていた客単価は増加に転じた。メニュー改革を行った11年以降、客単価は17年まで7年連続で前年を上回った。18年も1〜5月のすべての月で前年同月を上回っている。景気回復の兆しが見えるなか、「多少高くてもおいしいものを食べたい」という人たちを取り込むことに成功し、売上高の向上につながったのだ。

店舗運営面でも改革を進めた。深夜客が減ったため、深夜営業を行わない店舗を段階的に増やした。09年には全店舗の2割強にあたる65店で24時間営業を実施していたが、13年に21店にまで減らし、17年1月にはすべての店舗で取りやめた。また、11年には営業時間を短縮する方針を宣言。この年の1日あたり平均営業時間は18.5時間だったが、17年には15.5時間にまで短縮した。

■元日など年に3日程度の店休日を設ける方針

営業時間を短縮すれば、減った分の時間帯の売り上げはなくなってしまうが、浮いた経費を客数が多いランチ・ディナータイムの増員経費に充てることで、1日単位の売り上げの減少を最小限に抑える算段だった。実際、営業時間短縮による売り上げへの影響は限定的だったようで、17年の営業時間は前年から1.3時間少ない15.5時間にまで短縮したが、先述した通り、17年の既存店売上高は前年から2%増えている。

また、受動喫煙の防止の観点から、09年より一部店舗に喫煙ルームを設置して分煙化を実施した。13年11月からは全店で全席禁煙を導入。女性客や家族連れ客を中心に、タバコを嫌う人の取り込みを図った。

今年からは、元日など年に3日程度の店休日を設ける方針を打ち出している。さまざまな業種で人手不足の傾向が強まるなか、働きやすい職場にすることで人材確保につなげるほか、従業員のやる気を向上させることで来客数と客単価を上げる考えだ。ファミレス業界では異例の対応といえるだろう。

■生産性を高める実験店をオープン

ロイホ運営会社のロイヤルHDは、店舗のIT化も進めている。2020年度までの3年間で、35億円のIT投資を実施する考えだ。店員の業務負担の軽減や生産性の向上を目的に、皿洗いロボットや清掃ロボット、高機能の調理器の研究開発などを行うという。

店舗の生産性を高める実証実験も始めた。17年11月にキャッシュレスのレストラン「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」を都内にオープン。支払いをクレジットカードと電子マネーに限定し、現金の授受をなくすことで会計の手間を省く狙いがある。注文はタブレットで受け付け、注文を受ける手間も省いている。

今年3月には、新たに開業した東京ミッドタウン日比谷内に、ロボットが配膳するカフェ「Q CAFE by Royal Garden Cafe」をオープンした。一部客席では、人や障害物をセンサーで感知する配膳ロボットが商品を届ける。備え付けのタブレットや客のスマホで注文を受け付ける席もある。いずれも、店員の作業負担を減らすための施策だ。

ロイヤルHDの取り組みは、ファミレス業界の中ではいずれも先進的だ。こうした取り組みが既存店売上高の増加につながったと考えられる。また、未来に対する投資もしっかり行っている。今後のさらなる成長が期待できるのではないだろうか。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)