狭山清陵vs瀬谷
この日は、午後からは雨の予報が出ていたということもあり、可能な限り早く始めようという意識もあったようだ。神奈川県横浜市の瀬谷は、7時半には狭山清陵に到着していた。「せっかくの遠征試合なんだから、やはり予定していた試合はきちんとこなしたい」という平野太一監督の思いもあったのだろう。早い到着に狭山清陵も対応して、9時前にはプレーボールとなった。
2試合と、間で“ランチゲーム”と称した控え選手たちによって5イニングの試合も行われ、限られた時間を貪欲に消化していきながらの1日だったが、天気の方も、そんな思いが通じたのか午後3時過ぎまでは何とか持ってくれたことで、予定していた試合を消化することが出来た。「ウチは、明日試合を入れていないんで、今日流れたら、ちょっと厳しいかなと思っていたのですけれども、よかった」と、狭山清陵の遠山巧監督は、とにかくこの時期で、試合が流れずにすんだこと、そして、チーム状況としてもいろいろトライしてみたいこともやれたということに対してまずは安堵していた。そして、その中で2週間後の大会を見据えて、自分たちの課題の最終チェックと、今、何をしていくのかということの確認をしていた。
瀬谷の平野太一監督は、「高校野球の監督は、選手が入部してきた時から1000日間一緒に過ごして付き合うことになります。その1000日の間にどれだけ自分の思いを伝えられるのか」ということに賭けて、自身のこだわりも伝えていこうという意識である。そんな平野監督のこだわりっている表れの一つとしてユニフォームがある。
瀬谷のユニフォームは白地にストライプが入っていて胸文字はローマ字で“SEYA”の4文字。これは東都大学野球連盟の雄・亜細亜大に酷似したものだがそこにはワケがある。というのも、平野監督は大学を出て縁もゆかりもなかった神奈川県で高校野球を教えたいという熱い思いで採用試験を突破して単身赴任してきた。 そして、瀬谷に赴任して野球部を任された折に、自分が最も理想とするチームということで、亜細亜大をイメージした。だから、その亜細亜大に似たユニフォームにして、その意識を作っていこうと目指したのだ。図らずも、別府鶴見丘出身の平野監督にとって、亜細亜大の生田勉監督は大分県出身で同郷の野球人としての先輩でもあった。だから、自分の思いとユニフォームも似たものにしたいという意図を伝え、生田監督も快く承諾してくれたという。以来、生田監督との交流も続いており、以降さまざまな野球のエッセンスを吸収している。
対する狭山清陵の遠山巧監督も、自分自身のさまざまな思いを込めて、チーム作りをしている。初任校の川口青陵でも実績を作り、次に赴任した南稜では春季県大会で優勝して関東大会に進出して周囲を驚かせた。そして新たに、狭山清陵でも、自分の思いを繋ぎながら理想のチームを作り上げようとしている。 そんな両校の対戦はこのところ毎年この時期に行われている。
狭山清陵・伊藤琢馬君ほぼ公式戦を意識した試合となった1試合目、狭山清陵は家城(やしろ)君、瀬谷は左腕の廣瀬君の先発で始まったが、初回に狭山清陵は先頭の清水君が遊撃内野安打で出るとバントで進み、四死球で満塁として5番武藤君の犠飛で先制する。そして瀬谷は3回に反撃する。この回、一死から1番木本君が安打で出るとすかさず二塁盗塁。続く松下君の一打は右前へポトリと落ちたが二走の木本君は好走よくホームを陥れて同点とした。
試合はここからお互いに投手が持ち味を出して投手戦となっていった。廣瀬君は回を追うごとに自分のリズムを作っていく尻上がりに調子を上げていき、結局9回を投げ切って初回のみの1安打1失点という好投。この時期に、これだけの投球が出来たことは大いに自信にしていっていいのではないだろうか。
家城君は初回と2回は二塁打を浴びるなど走者を背中に背負っていたがそこから粘り強さを示していった。低めへの制球がよく、無四球というのも評価されていいだろう。さらに、狭山清陵は7回からは伊藤琢馬君がリリーフして、8回は二死満塁、9回は一死一三塁というピンチを作りながらもそこからはしっかりと堪えて無失点。試合も、引分けという形になった。2週間後に控えた本番を意識して、この日はそれぞれの応援テーマを流したり、狭山清陵は控えの選手やマネージャーたちは、観戦に訪れていた父母なども巻き込んで、応援パターンの練習も行っていた。こうしたシミュレーションも意識を高めていく要素となる。「学校全体が、野球部を意識してくれることは嬉しいし、今年は初戦が日曜日なので、多くの人が応援に足を運んでくれそうなのでうれしい」と、女子マネージャーたちも思いを語っていた。
この時期は、来月の夏本番を見据えながらもその後の夏以降の新チームの構想もある程度イメージしていくたきでもある。瀬谷もそんな展望も含めて、2試合目では2年生の橋本君と平野監督が期待しているという1年生の小林巧君の継投で挑んだ。小林君は6回からマウンドに立ったが2巡目となった8回につかまって、高橋君のタイムリー二塁打などで2点リードをひっくり返された。1年生でもあり、こうして、高校野球の洗礼を浴びていくことで、また経験値を積み上げていき成長していくことも大事だということであろう。 途中ぽつぽつと降っては来たものの、何とか予定通りに試合をこなせるように、天候も持ったのは、それぞれの来月の本番へ賭ける思いが通じたということでもった。
毎年交流のあるこのチームは、試合後は瀬谷の選手は遠山監督に、狭山清陵の選手は平野監督に、それぞれ試合を通じて気がついたことのアドバイスを求めていた。相手の視点からの気づきというのも大事な要素である。こうした交流を持てることもまた、高校野球の素晴らしさと言ってもいいものだ。
(取材・写真=手束 仁)
