チャンピオンズリーグ(CL)決勝。リバプールが、レアル・マドリーに先制点を許すも、その4分後(後半10分)、サディオ・マネのゴールで同点に追いつくと、R・マドリーのサポーターは沈黙。舞台となったキエフの「オリンピスキ」は、番狂わせが起きるのではないかとの期待に包まれた。両軍の戦力を分析すれば、「R・マドリー2-0勝利」でも控え目過ぎる予想で、前半31分、リバプールのエース、モハメド・サラーが故障退場したことを加味すれば、後半10分の段階での1-1というスコアは、リバプールの大善戦、R・マドリーの大苦戦を意味していた。

 しかもR・マドリーの先制ゴールは、リバプールGKのケアレスミス。3連覇を狙う王者は、よいサッカーができていなかった。その流れが一変したのは、同点とされた6分後、ジダン監督が行った、布陣変更を伴うイスコとガレス・ベイルの交代だった。

 それまでR・マドリーが用いていた中盤ダイヤモンド型4-4-2は、相手の出方次第で4-3-1-2にもなれば4-1-3-2にもなる。ザックリと言えば、守備的にもなれば攻撃的にもなるが、相手が3FWで臨んでると前者になりがちだ。そのダイヤモンドは両サイドを押されると潰れやすい。1-3の関係になりやすい。マイボールに転じても、サイド攻撃を仕掛けにくくなる。

 リバプールはバリバリの4-3-3サッカーだ。R・マドリーは後半16分まで、そのリバプールに上手くハメられた状態にあった。守備的サッカーに陥ったと言うより、潜在能力が十分発揮されにくい、非効率的サッカーに陥っていた。

 中盤ダイヤモンド型4-4-2は、けっして流行の布陣ではない。守備的サッカーが衰退したことに加え、3FWのチームとの対戦で非効率性が露わになりやすいことも拍車を掛ける。

 かつては守備的なサッカーは、慎重なサッカーを意味していた。勝ちに行くためのひとつの手段として捉えられていた。いいサッカーをしても勝てるわけではないとは、いまでも日本でよく使われている常套句だが、そうした見方は、旧態依然とした考え方になっている。守備的サッカーは慎重なサッカーという以上に、非効率的サッカーに陥っているからだ。

 後半16分まで非効率的なサッカーに陥っていたR・マドリーだが、選手交代を伴う4-3-3への変更を機にその状態から脱出。効率性を回復した。その後、生まれた2ゴールは、1つはベイルの神がかり的なバイシクルシュートで、もう一つは相手GKのキャッチミス。結果だけを見ると、効率的か非効率的は関係なさそうに見える。しかし、決勝ゴールとなったベイルのバイシクルは、サイドの深い位置にマルセロ(左SB)が、侵入したことに起因する。

 マルセロがなぜ高い位置にポジションを取ることができたかと言えば、その直前に同サイドの前方で左ウイング、クリスティアーノ・ロナウドがボールを受けていたからだ。C・ロナウドは中央にカットインを試みるも、無理せず背後のカゼミーロに戻す。そのボールをマルセロが受けたのだ。リバプールのディフェンダーはC・ロナウドの動きに釣られていたため、マルセロはほぼフリー。余裕を持ってプレーできる状態にあった。

 中盤ダイヤモンド型4-4-2の時にはできにくかったお膳立てだ。ベイルのスーパーゴールは、4-3-3への布陣変更が生んだ産物になる。

「36.4%のゴールはサイドから生まれる」。これは6月6日に発売される僕の著書のタイトルだ。クロスを上げた後、3プレー以内にゴールが決まったのが36.4%という意味だが、これは日本代表歴代6チーム(54試合分)のデータに基づき弾き出された裏付けのある数値だ。
 
 コーナキック、フリーキックのセットプレーやクロスが絡まないサイド攻撃から生まれたゴールもちろん除いてある。実際はそれ以上の数値になるに違いないが、ベイルのバイシクルもこれに該当する。