2017年の交流戦で、広島に快勝し交流戦の最高勝率チームに決まり、ポーズをとったソフトバンク・工藤監督(写真:共同通信社)

今年も5月29日からセ・パ交流戦が始まる。交流戦は、2004年に起こった「球界再編事件」がきっかけとなってセ・パ両リーグが歩み寄り2005年に創設されたものだ。

すでにMLBでは1997年からア・ナ両リーグの交流戦「インターリーグ」が始まっているが、「交流戦」はこれを参考にしてスタートした。


この連載の一覧はこちら

交流戦は「公式戦」と同じ扱いになる。勝敗はペナントレースに加算され、投打の成績も選手の公式記録に加算される。

正真正銘の真剣勝負だ。異なるリーグのチーム、選手がこういう形で対戦するのは、かつてない画期的なことだった。

以来今季で14年、交流戦はすっかり定着した。

今年でいえば「トリプル4」の期待がかかるソフトバンクの柳田悠岐と、今や日本のエースともいうべき巨人、菅野智之の対戦。巨人の若き中軸打者に成長した岡本和真と、楽天の則本昂大、ロッテの涌井秀章などパ・リーグのそうそうたるエースとの対決など、興趣は尽きない。しかしながら、一方で両リーグの対抗戦への興味は薄れている。


こちらの表は2005年の開始以来の両リーグの勝敗だ。「パ-セ」はパ・リーグの勝数からセ・リーグの勝数を差し引いた数値を指す。

昨年までの13期で、セが勝ったのは2009年の1年だけ。あとの12期はすべてパが勝っている。僅差の年もあったが、10勝以上の大差がついた年も多い。セ・パ交流戦は、2015年から勝ったほうのリーグの6球団に、順位に応じて1000万円から100万円までの賞金を支給しているが、すべてパのチームがゲットしている。

パ・リーグが強い理由

交流戦でなぜパ・リーグが強いのか?

この問いは、すでに昨年このサイトでも提示されている。その折もいろいろな考察がなされているが、筆者は非公式戦や日本シリーズの成績も調べて、ある事実に行き当たった。


こちらは過去10年のオープン戦、日本シリーズのセ・パ勝敗だ。オープン戦は同一リーグの対戦を除き、両リーグ間の対戦のみの数字を掲載している。

オープン戦、日本シリーズともに、パ・リーグが6割近い勝率で圧勝している。

オープン戦は、シーズン開幕前のテストマッチであり、各球団は勝敗にこだわってはいないことは事実としてある。

しかし、野球の試合である限り、プレイボールがかかれば両軍が勝利へ向けて努力することに変わりはない。

いくら勝敗にこだわりなしとは言え、パがセに大きく勝ち越しているのは事実だ。

そして、日本シリーズは言うまでもなく、NPBの頂上決戦であり、両リーグの代表チームが総力でぶつかる真剣勝負だ。ここでの勝率もオープン戦とほぼ同じなのだ。

この表にはないが、オールスター戦は、2009年以降セが10勝8敗3分と勝ち越してはいる。しかしオールスター戦は交流戦の開始とともにその存在意義が薄れつつある。昔は人気のセに実力のパがぶつかり合い、火花を散らしたが、今は、スター選手が顔見世をするお祭りの色合いが強くなっている。1年に2、3試合と数も少なく、参考にはならないだろう。

交流戦だけでなく、オープン戦でも、日本シリーズでも、パ・リーグがセ・リーグに勝ち越している。

つまり、セントラル・リーグは、パシフィック・リーグよりも弱いともいえる。

交流戦の戦績と興行という二面性

交流戦の時期になると「そろそろ交流戦はいいんじゃないか」という声が聞かれる。

主にセ・リーグ側の関係者やファンからの声だ。もともと交流戦は、パ・リーグからの申し入れをセが受諾して始まったものだ。そもそもセ・リーグはその必要性を感じていなかった、という理屈だ。

しかしこうも一方的な勝敗になっている中で、負けている側が「取りやめ」を言うのは、いかがなものか。パのファンからは「そういうのは勝ってから言え」という反論の声も聞こえる。

当初、1チーム当り36試合あった交流戦が徐々に減らされて今では半分の18試合に減ったのは、試合日程などの関係もあるが、セ側から削減の要望があったためと言われている。

ただし、交流戦は興行的には成功している。

昨年、伊藤歩さんが紹介した通り(『プロ野球交流戦「廃止論」が毎年浮上する事情』2017年7月27日配信)、観客動員は通常のリーグ戦と同様か、それ以上に入っている。

そういう意味ではセ側の「交流戦廃止論」は「これ以上弱いのを世間にさらしたくない」からだと言われても仕方がない。しかしながら、さらにデータを調べて行くと、セの球団に「勝ってから言え」というのは、なかなか酷な話だということもわかる。

MLBでは1997年から両リーグのチームが対戦する「インターリーグ」が行われている。この開始から昨年までのリーグの勝敗は以下の通り。「ア-ナ」は、アメリカン・リーグの勝数からナショナル・リーグの勝数を差し引いた数値だ。


過去21期で、アメリカン・リーグがナショナル・リーグに17期勝ち越している。2004年からは、14期連続でア・リーグが勝ち越している。

MLBのインターリーグは、当初、NPBと同様、期間を決めて集中的に行われていたが、2013年に両リーグの球団数が15球団ずつになってからは、シーズンを通じてインターリーグの試合が組まれるようになった。

またNPBの交流戦と違って、相手リーグの球団とは総当たりで対戦カードが組まれるわけではなく、エリア的に近いチームを中心に恣意的に対戦が設定されている。そういうこともあって、リーグ対抗の勝敗はほとんど注目されないが、集計してみるとアメリカン・リーグが圧勝しているのである。

NPBのパシフィック・リーグ、MLBのアメリカン・リーグ、交流戦、インターリーグで圧勝しているのは、いずれも「指名打者制」のあるリーグだ。

DH制の採用によりリーグの選手育成方針が異なった

DH(Designated Hitter)と呼ばれる指名打者は1973年にMLBのアメリカン・リーグで導入され、1975年にはNPBのパシフィック・リーグでも導入された。ア、パ両リーグはともに観客が低迷し、その打開策として投手の代わりに指名打者が打席に立つ指名打者制度が導入されたのだ。

この制度が観客増に貢献したかどうかは意見が分かれるところだが、以後、ア、パ両リーグは四十数年間、DH制を維持してきた。投手が打席に立たない野球は完全に定着した。

DH制を採用しなかったナショナル・リーグ、セントラル・リーグは、伝統ある名門チームが多い「古いほうのリーグ」である。新興のアメリカン・リーグ、パシフィック・リーグへの対抗心もあって、採用しないままにここまでやってきた。

この間に両リーグの戦い方、選手育成の方向性は異なったものになった。

DH制のあるリーグが、ないリーグより強いのは、四十数年間で培われた2つのリーグの「野球の質」の差異によるものと筆者は考えている。

細かく見ても、DH制があるチームのほうが強いのは明白だ。

DH制があるチームは、「9人の打者」を整備するのが基本だ。8つの野手のポジションに加え、守らない打者も1人用意する。DHは、たとえばベテラン野手が守備に就かず打席にだけ立つ「半休」にも使える。守備がお粗末だが、打撃には見るべきものがある選手の「使いどころ」にもなる。

また、投手に打順が回ってこないことで、指揮官は純粋に「投球内容」だけを見て投手を交代させることができる。投手起用のプランがより明確になる。

DH制がないチームは「8人の打者と1人の投手」で打線を組む。また投手は、好投していても変えざるをえない状況が出来する。それが前提になる。

こうした「野球の質」の差異は、データにも表れている。

2017年のNPBのデータでいえば、準レギュラークラス以上と言える100打席以上の打者の数は、パ・リーグが92人に対し、セ・リーグは80人。投手に打席を回す分、セ・リーグのほうが1球団当り2人も少ない。

また、各リーグの完投数は、セの34回に対し、パは57回。パのほうが67%も多いのだ。

もちろん、交流戦のパの主催試合ではセ・リーグもDHを含むオーダーを組む。しかし、もともと8人の正選手しか用意していないから、にわか仕立ての経験値の低い打者を組み入れることになる。パ・リーグの打線に比べて見劣りすることが多い。

また投手もパのほうがセよりも長いイニングを投げた経験のある投手が多い分、有利だと言えよう。

もう1つ、留意すべきはこの間に両リーグで投手の分業が進んだことだ。これによって、DH制のないセ・リーグでも投手が打席に立つ機会は減った。そして、投手の打撃に対する期待感も減少した。

投手の打撃力は衰退している

NPBの資料を基に、セ・リーグの投手のトータルの打撃成績を30年前と比較する。

2017年 
1474打数147安打8本塁打65打点 750三振 打率.100
1987年
1759打数264安打9本塁打108打点 647三振 打率.150

パ・リーグと異なり、投手が常時打席に立つセ・リーグだが、それにもかかわらず投手の打撃力は衰退しているのだ。今どきのセ・リーグでは大部分の投手は、相手チームにアウトを1つ献上するためだけに打席に立っている。いわば、セは打線に穴が開いている状態で試合をしているともいえるのだ。

それでもDH制がないほうのリーグが勝ち越しているシーズンがわずかながらあるのは、両リーグの戦力が不均衡だったからだろう。

V9時代以前の巨人のように、高校、大学のトップクラスの選手をそろえ、なおかつ各球団の主力級を引き抜くような、圧倒的な大戦力の球団であれば、DH制がなくても交流戦に勝つことは可能だろう。

DH制の有無で、勝敗に明らかな差が出るのは、両リーグを通した戦力均衡が進んだ証左でもあるのだ。

筆者は個人的にはDH制は、それほど気に入っていない。

味方のチャンスで投手の打順が回る。「ああ、万事休すか!」と思いきや、打つ気満々の投手が起死回生の一打を打つ、というのは野球ならではの意外性のあるドラマだ。

最近でも、5月18日の巨人対DeNA戦では、5回表に3-3と同点に追いつかれる失点を許した巨人のエース、菅野智之はその裏に勝ち越しの本塁打を左翼に放っている。エースのプライドをかけた意地の一打は巨人ファンならずとも胸のすく見ものだった。

そういうのが見られるのなら、DH制なしもいいが、本塁から遠く離れて打席に立ち、ハエでも追うようにバットを振って無気力に三振するセの投手を見ると「誰かほかの選手に打たせてやれよ」と思ってしまう。そういう光景がめっきり増えているのだ。

DH制導入の意義

世界の野球界では、DH制の導入が進んでいる。オリンピックやWBC、WBSC(世界野球ソフトボール連盟)の国際試合ではDH制が導入されている。

韓国や台湾のプロ野球、独立リーグ、マイナーリーグ、ウィンターリーグなどでもDH制が当たり前になっている。大学野球もDH制ありが主流だ。

DH制なしに固執するのは、NPBのセ・リーグ、MLBのナ・リーグ、そして日本の高校野球、東京六大学、関西大学野球など「伝統」を標榜するリーグが多いのだ。

68年前、NPBのセ・パ両リーグは、けんか別れのように分立した。本来、パ・リーグに加盟するはずだった大阪タイガース(現阪神)が、土壇場でセ・リーグに走ったため、怒った毎日オリオンズは、別当薫、若林忠志など大阪の主力を引き抜いた。

他にも引き抜き合戦があちこちで見られ、両リーグは決定的に対立。このために分立1年目の1950年にはオールスター戦が開かれなかったくらいだ。

以後も両リーグの対立関係は続く。2009年にはセ・パ両リーグは統合され、コミッショナー事務局のもと、1つの組織となったが、それでも東日本大震災後の公式戦の開催時期をめぐってセ・パで意見が分かれるなど、今も対抗意識は強い。取材をしていても両リーグのスタンスの違い、企業文化の違いを感じることがしばしばある。

「古い方のリーグ」「伝統あるリーグ」セ・リーグにとっては、パのやり方を追随するのは沽券にかかわるのかもしれないが、「弱いからやめよう」と後ろ向きになるのは、格好悪いし健全ではない。

そろそろセントラル・リーグも、リーグ、野球界の発展のためにも、DH制の導入を考えてみてはどうだろうか?