厳寒の朝 キタキツネ(2017年3月 別海町)  (c)DAISAKU UEDA

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北海道の道東エリアは釧路湿原や知床半島など原生的な自然が多く、季節を問わず多くの観光客が訪れます。特に冬になると流氷をはじめ、寒さが作り出す自然の景色が多くの人を魅了します。

タンチョウの目覚め(2017年1月 鶴居村) (c)DAISAKU UEDA

しかし、冬に魅力が引き立つのは景色だけではありません。大自然の中、そこに生きる野生動物の姿もこの季節の北海道ならではの光景です。特に北海道の中でも気象条件の厳しい道東では、動物たちの生命の輝きを強く感じることができます。

この写真は道東の自然に魅かれ、そこに生きる動物たちを追い続けている写真家・上田大作さんによるもの。氷点下20℃の朝、陽光が大気を温め始めるとキタキツネは眠りから覚め、大きなあくびをして活動を始めました。

「霧氷は厳しく冷え込んだ朝に霧の粒子が樹木に付着して見られる自然現象です。この写真は、キラキラ輝く霧氷の林で生きるキタキツネを撮影したものです。厳寒に生きる生命の息吹きをより伝えられる一枚だと思います」。

こちらは、霧氷をまとった樹林の中、川霧に包まれ朝を迎えるタンチョウ。もっとも霧氷はいつでも起こるというものではなく、上田さんは長年の経験から前日の気象情報などを元に、霧氷が樹木に着くことを予想してこの写真を撮りました。深い山や森に入り、時には数十日間もテント泊をしながら、新しい景色や動物たちとの出合いを求めてきた上田さんならではの写真です。

「撮影にあたり技術以上に重要なのは、フィールド(撮影場所)の様子をあらかじめ想定することです。霧氷の写真も、技術的なことはレンズのセレクトと露出くらいで、大切なのは被写体である自然に興味をもって観察することだと思います」。

上田さんは山口県出身で2005年に写真家を目指して当時勤めていた会社を退職。写真家になるための修業の場として2006年に北海道に移り住みました。「自然写真を独学で始めたので、まずはじめに時間をかけて北海道の多様な自然を五感で感じ、そのリズムを学びたいと考え、できるだけ多くの時間をフィールドに身を置くことにこだわり撮影を続けています」。

上田さんは、道東で大自然が織りなす風景や野生動物などを撮影する一方、漁師、猟師など自然と深い関わりを持つ人々の営みも撮り続けています。2013 年には道東に位置する風蓮湖(ふうれんこ)を取材した、「風連湖ー冬の物語」で第4 回・田淵行男賞を受賞するなど、その作品は注目を集めています。

「生命の力強さを感じられる光景があるということを伝えたい」と語る上田さん。道東の冬に生きる野生動物を見れば、何か力をもらえるかもしれません。

【取材・文 浅野陽子 構成・有本和貴】(北海道ウォーカー・浅野陽子)