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text:Mark Tisshaw(マーク・ティショー)

もくじ

ー 「ミッションE」 19年の公開めどに
ー 気になる911のEV化について
ー ミッションE、判明している数値情報
ー ミッションEのさらに次のEVは?
ー CEO、オリバー・ブルーメへのQ&A
ー デザイン責任者ミヒャエル・マウアーへのQ&A

「ミッションE」 19年の公開めどに

ポルシェは、2020年からの生産を目指している、4ドアボディを持つスポーツ・サルーンのプロトタイプで、初の走行テストを成功させた。

このコードネーム「J1」と呼ばれる完成度の高いプロトタイプは、2015年のフランクフルト・モーターショーで、ポルシェ・ミッションEコンセプトとしてプレビューしたもの。ポルシェ初のEV専用モデルとなり、5番目のモデルラインとして発売される予定だ。

パッケージングの理由で、他の自動車メーカーは最初に手がけるEVのボディタイプをSUVとすることが多い。しかしポルシェは、環境負荷を減らすことと同時に、EV技術による優れたパフォーマンスを示す目的で、低いボディタイプを選択した。

ポルシェ開発部門の責任者、ミヒャエル・シュタイナーによれば、好意的に受け止められているミッションEコンセプトに非常に近似した状態で、量産モデルの設計は完了しているとのこと。根幹部分の開発は終わり、完全なボディを架装した生産型プロトタイプでのテストが開始されているのだ。

仕上がった生産モデルは2019年に公開され、2020年にはデリバリーが開始される見込み。価格は約£100,000(1497万円)となっている。

これは、パナメーラ4 E-ハイブリッド(£81,141)と、パナメーラ・ターボS E-ハイブリッド(£137,140)の間をとった価格だ。また、ポルシェ911とパナメーラの中間に位置するモデルになる。

ミッションEの生産モデルには、まだ正式な名前は付けられていないが、ポルシェ取締役会会長のオリバー・ブルーメによると、コンセプトカーとは異なる名前になるようだ。

ポルシェのEV技術を用いて、全く新しい「4ドア・スポーツカー」モデルを生み出すことで、ポルシェブランドをより多くの顧客へ届けることを目指している、と関係者は話している。

気になる911のEV化について

シュタイナーは「これは本当にスポーティなクルマです。低重心で、路面に近い位置に座る4シーターですね。EVであっても、典型的なポルシェです」と語る。

ミッションEは、ポルシェの全車種をEV化するための第1歩であり、フォルクスワーゲン・グループは2030年までにすべてのモデルにおいて、EVバージョンをリリースすることを目指している。

一方ポルシェは、911をEV化する計画は今のところ持っていないようだ。理由は、十分な航続距離を確保できる大きなバッテリーは、床下にレイアウトする以外の方法がないため。全高が高くなり、目の肥えたひとからは、スポーツカーとしては見てもらえなくなるからだ。

2018年に発表を計画している次期型の911では、プラグイン・ハイブリッド・システムの搭載も準備されている。ただし、車体的には搭載可能であっても、いつからプラグイン・ハイブリッドの911を販売するかは決定していない。ミッションEの発表が先となりそうだ。

シュタイナーは、EVにスポーツカーのような走行性能を持たせようとすると、重量増加という難しい問題が発生すると話す。

「ミッションEのボディサイズは、スポーツカーのパフォーマンスと、十分な容量のバッテリーを搭載できるスペースを両立できる、スイートスポットなのです」

J1アーキテクチャはポルシェ独自の開発によるもので、VWグループ内で開発されている他のEVプラットフォームとは異なる。

アウディはC-BEVと呼ばれるアーキテクチャを開発しており、来年発表されるSUV、e-トロンに初めて用いられる。

J1のバッテリー搭載位置は非常に低く、一方でC-BEVの方が車高の高いSUV向きなのだろう。このふたつのプラットフォームは、共通するリチウムイオン・バッテリー技術を用いている。

ミッションE、判明している数値情報

J1アーキテクチャは数年後に発表となる、ベントレー初のEVにも用いられる計画で、サイズは別として、スタイリングに関しては、スピード6eコンセプトの流れを感じさせるモデルとなる。スピード6eは、より短い2ドアのスポーツカーだ。

4ドアのボディで、燃焼機関を持たない純粋なEVとなるミッションEは、既存モデルをEV化する際に起きるパッケージングの問題とは無縁だ。

コンセプトカーでは、前後の車軸に1台ずつ、計2台のモーターを備え、床下のリチウムイオン・バッテリーの電力で、608psの最高出力と87.3kg-mの最大トルクを発生させる。

そのため4輪駆動で、主にフロントホイールが加速を担い、ハンドリング面をリアホイールが担っている。トルクベクタリング制御もすべての車輪で機能する。

コンセプトカーの車重は2000kg以上もあるが、0-100km/hの加速は3.5秒、0-200km/h加速は12秒以下が見込まれている。ポルシェのEV技術は、何よりもパフォーマンスに重点が置かれているため、独自開発となっているのだろう。

ドイツ・ツッフェンハウゼンのエンジニアリング・センターでは、新しいモデルに備えて拡張されており、ポルシェは生産を開始する年に、20000台のミッションEを販売する計画でいる。

そして、何種類かの最高出力と足まわりのセッティングを持たせたミッションEを提供する予定だ。ブルーメによれば、「スポーティで高性能なバージョンや、最高出力を抑えたものなど、何段階かのパフォーマンス・レベルを持たせる予定です」とのこと。

またポルシェは、ドライブトレインや自律運転機能など、主要システムの無線通信によるアップデートにも対応した、最新の技術を導入する計画だ。つまり、モーターの最高出力も、遠隔で増強させることが可能となる。

ミッションEのさらに次のEVは?

800Vの急速充電システムにも対応しており、バッテリー容量の80%の充電に要する時間は15分。ポルシェはこの技術に関して日立と共同開発していることを認めており、ベルリンに最近オープンしたオフィスに、2台のDC800Vの急速充電器を整備し、テストを始めている。

急速充電に必要な時間が短いこともあり、ポルシェはミッションEに過剰な航続距離を持たせることは考えていないようだ。500kmを目標にしていると、シュタイナーは話していたが、不足ない距離だと思う。

距離を伸ばすにはバッテリーを増やす必要があり、重量も増加してしまう。航続距離は、充電時間を短くすることで補完が可能で、ポルシェは顧客とともに、最適な航続距離の設定を図っているところだという。

「日常的には短距離しか運転せず、たまに長距離ドライブをするようなひとの場合、航続距離と充電に要する時間のコストは、どの程度なのでしょう?」とシュタイナーは問う。

さらにポルシェは、リチウムイオン・バッテリーより軽量でコンパクトな、電解質が固形のソリッド・ステート・バッテリーの搭載も検討している。

このバッテリーは、EVスポーツカーの実現も十分可能な技術だが、量産までにはあと数年はかかる。プロトタイプのボクスターでテストを行った際、操縦性も良く、重量とラップタイムとの関係は明確だった。

スタイリングに関しては、ポルシェのデザイン責任者、ミヒャエル・マウアーが「美しいクルマです」と生産型のミッションEに対して表現している。

「EVは、デザイン上の可能性を大きくしてくれます。ただ今のところ、EVに必要なコンポーネントは大きすぎます。ボンネットから金属の塊のエンジンを外しても、バッテリーパックを積まないといけません」

「大きなエンジンが消えて、さらにバッテリーも十分に小さくなれば、デザイナーの自由度は増していくことになります」と、一般的なEVに関して彼は説明する。

ミッションEのさらに次のEVに関して、ポルシェはSUVを計画している。

シュタイナーは「ポルシェにとってもSUV人気はメリットがあります」と話すが、続けて、「わたしたちは、ブランドの中核に非常に近いモデルから、EV化の戦略を立てています」と語る。

「911とパナメーラの中間に位置する、非常にスポーティなクルマが誕生します。SUVセグメントが大きく成長していることは理解していますが、それに同調するのではなく、本当のポルシェらしいコンセプトの提示が必要なのです。われわれは、それが間もなくリリースする、ミッションEであると確信しています」とも。

CEO、オリバー・ブルーメへのQ&A

ポルシェが拡大し続ける必要性とは?

「販売台数の拡大は、ポルシェにとってさほど重要ではありません。ここ数年間は、良好な成長を遂げていますが、生産台数よりも顧客からのニーズの方が重要だと考えています。健全な成長率は年間5%ですが、ポルシェが巨大ブランドになることはないでしょう」

「(今後のモデル拡大に関して)顧客からのさまざまなセグメントに対するニーズを分析しています。そして、マカンが生まれました。次は純粋なEVが登場します。ポルシェにとって、これが次の新しいセグメントへのステップとなります」

ポルシェのEVのターゲットとは?

「さまざまな顧客像を想定しています。アーリーアダプターと呼ばれる、積極的に新しいものに興味を持つ層や、将来を見据えたポルシェ・ファンのひとびと」

「初年度は20000台を見込んでいますが、ツッフェンハウゼンの工場はフレキシブルなので、それ以上の生産も可能です」

911のEVの登場はいつになるでしょうか?

「ポルシェ911に関しては、今後10〜15年間は、ガソリン・エンジンを搭載するでしょう。エンジンの次に、つなぎ役としてプラグイン・ハイブリッドを導入し、その後、完全なEVへとシフトします」

「次期型のコンセプトモデルの911には、プラグイン・ハイブリッドを搭載していますが、それを市販モデルに導入するかは決定していません。911はポルシェのビジネスの中心的な存在で、純粋なスポーツカーである必要があります。顧客がEVの911を求める時に合わせて、準備を進めています」

プラグイン・ハイブリッドは今後さらに増えますか?

「パナメーラのプラグイン・ハイブリッドでは、非常によいフィードバックを得ています。システム最高出力700psで、V8エンジンを搭載していますが、われわれの予想よりも顧客の反応も販売台数も優れたものでした」

「これは、非常にスポーティでハイ・パフォーマンスなポルシェを提供することが、正しい方向性だということを示しています。われわれはル・マンへプラグイン・ハイブリッドで参戦し、3年連続で優勝を収めており、この流れを汲む製品として、信頼性も極めて高いものになっています」

デザイン責任者ミヒャエル・マウアーへのQ&A

クルマのパッケージング全体を左右するエンジンが無くなることで、EVなら真っ白なカンバスにクルマをデザインできるという認識がある。しかし、ポルシェのデザイン責任者ミヒャエル・マウアーはそれを否定する。

「アーキテクチャを構成するパッケージングに関しては、確かに自由が生まれます。しかし、乗員の空間やラゲッジスペース、法規などの要素でアーキテクチャの70%が決まってしまっていて、デザイナーが自由にできる部分は30%程です」

パナメーラやカイエン、マカンなど、ポルシェが新しいセグメントのモデルを発表する際、臆することなくポルシェ911からインスピレーションを受けたスタイリングが与えられてきた。

ミッションEコンセプトでも、フロント周りではオリジナリティの高いスタイリングだが、サイドやリアに関しては、4シーター・4ドアのポルシェ911にも見える。EVとなっても、このスタイリングは受け継がれるのだろうか?

「純粋なスタイリング面では、内包する技術を視覚化させたデザイン言語で、表現しなければなりませんね。顧客の望みがわかる、水晶玉があれば良いのですが……」

「カイエンや911をデザインする際、新しいモデルとしてだけでなく、新しいポルシェだともわかる必要があります。またEVの場合、新技術の搭載が見てわかるように、新しいデザインを与えていく必要もあります」

「顧客は、新しいデザイン要素を自身で消化する時間が必要です。余りに未来を描いても、理解してもらえません。20〜30年先のデザインが、見慣れている範囲です」

「実際のマーケットでは、かなり先のデザインに挑戦している企業(BMW)もありますが、そうでない企業もあります。顧客は、クルマを愛してはいますが、それはブランド全体を含めてのこと。多くのひとが、EVのポルシェを美しいと感じて購入していただくと思いますが、それはポルシェ・ブランドだからでもあります。EVであると同時に、ポルシェだと認知できなければなりません。そのバランスが重要なのです」