今季限りで引退を表明した片岡洋介。昨年は主将を務めるなど、精神的支柱としてチームに欠かせない存在だった。(C)SOCCER DIGEST

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「引退すると決めるのも簡単ではなかったですけど、日がたつにつれて、試合を迎えるにつれて寂しい思いはどんどん出てくる」
 
 10月12日、鳥取に所属するひとりのサッカー選手が引退を発表した。片岡洋介、35歳。センターバックやボランチの位置で相手を跳ね返し続けてきた男である。
 
 片岡は西武台高から国士舘大を経て、2005年に大宮へ加入。京都でプレーした2010年以外はオレンジのユニホームを身に纏い、キャリアを積み重ねてきた。そして、16年から鳥取に籍を移し、精神的支柱としてチームをけん引。今季は5試合しかピッチに立てていないが、引退発表後初の試合となった16日のFC東京U-23戦では全盛期を彷彿させるようなエネルギッシュなプレーを見せた。
 
 そんな片岡が引退を決断したのは3か月ほど前。理由は「自分のなかで納得がいかず、許せないプレーがあった」ことと、「自分のなかでプツンと糸が切れてしまったような瞬間があった」からだ。そこから様々な人に相談。意見を求めた先輩のなかにはGMの岡野雅行氏や強化部の吉野智行氏もいたという。
 
「いろいろ相談をしていて、辞めた先輩たちに、『いつ辞めようと思ったんですか?なんで辞めようと思ったんですか?』と聞いたんです。それを聞くというのは、自分が引退を考えて、もういいんじゃないかなという想いがあったからだと思う」
 
 しかし、片岡は何故これほどまでに人に話を聞いたのだろうか。それには理由がある。「これがという決め手ではないのですが、もしかしたら、誰かに背中を押して欲しかった」からだ。サッカー選手の引き際。いろんな理由があるが、間違いなく重い決断である。そのなかで先輩たちの言葉が、片岡の決意を固める要因となった。
 
 リーグ戦も終盤に入った。残りは7試合。今季はフル稼働できず、チームも下位に低迷している。

「こんな状況で自分は終わりたくない。最後なので、ひとつでも多く勝ちたいし、ひとつでも多くいい思いをしたい。そういう姿を見せて、結果ももう少しついてきてくれればなと思っている」
 
 だからこそ、試合に掛ける想いは誰よりも強く、先輩として後輩に見せたい姿がある。

「みんな若いので、自分が一番ユニホームを汚して、一番スライディングをしてやれば、俺もやらなきゃなと思ってくれるはず。メッシみたいなプレーはできないけど、泥臭さを見せて何かを感じてくれればいいなと思う」

 片岡洋介は自らのプレーで、チームに戦う姿勢の大切さを示すつもりだ。

取材・文 松尾祐希(サッカーダイジェストWEB)