全国大会への再挑戦を誓った名経大高蔵主将の牛尾颯太【写真:平野貴也】

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全国経験豊富な立正大淞南に0-1で敗戦も、「自分たちの特徴を出せた部分はある」

 15分間の「夢」を見た。

 全国高校総体(インターハイ)の男子サッカーが29日に宮城県で開幕。大会初出場を果たした名古屋経済大学高蔵(愛知)は、立正大淞南(島根)に0-1で敗れたものの、全国の舞台で踊るようにボールをつなぐサッカーを見せつけた。

 後半早々に先制点を奪われると、その8分後には10番を背負うMF山本蓮(3年)が2度目の警告を受けて退場。数的不利になると、インターハイや全国高校選手権でベスト4に入るなど全国の経験が豊富な相手に、上手く試合を運ばれて夢は潰えた。後半のシュート数はゼロ。課題を突き付けられた格好となった。

ただ、島井雅也監督が「結果は伴いませんでしたけど、初の全国大会で、自分たちの特徴を出せた部分はあると思います」と一定の手ごたえを示したように、初出場で自分たちの特徴を全国に見せつけられたという点では、意味のある試合となった。

見ていて面白い、密集地帯でドリブルとショートパスを駆使する連係

 試合開始から20分は緊張感もあって持ち味は出せず、後半も攻撃に転じる場面は限られた。ただ、前半20分過ぎからの15分(インターハイの試合時間は70分)は、ボールの近くに複数の選手が密集するスタイルを存分に見せつけた。

 前半18分にはボランチの牛尾颯太(3年)が際どいミドルシュートを放ち、同28分には3バックの左ストッパーを務める平井遥登(3年)がコンビネーションの中から攻撃に転じ、ドリブルで相手をするすると抜いた。GKとの1対1で放ったループシュートが決まって先制していれば……というシーンだった。

 とにかくボールの回りに人が多い攻撃スタイルで、ドリブルを始めたかと思えば、交差するように背後を走り抜ける味方にボールは移り、止まったかと思えば足技で相手を惑わせた。スカウトのために会場を訪れていた大学関係者も「何? あのチーム。面白いじゃん」と関心を寄せていた。

 密集地帯でドリブルとショートパスを駆使する連係は、見ていて面白い。現在では、このスタイルに憧れて能力のある選手が門を叩くようになりつつあるが、テクニック自慢のためのスタイルではない。

 元々は「実は、ヘタクソでも簡単にできるサッカー。距離が近づけば、ボールは遅くなるし、タッチ数も減る。難しいプレーではなく、簡単なプレーの連続になる。それに、攻守一体でボールを失った後も、すぐに取り返しに行きやすい。格上を倒すためのサッカー」(島井監督)という考え方がベースとなっている。

冬の選手権で全国再挑戦へ、新鮮な感覚や自信に通じる手ごたえを持ち帰る

 スタイルを目指す中で、技術に自信のある子たちが興味を示して入って来るようになり、多彩さが生まれたのだという。

 たった15分、されど15分だ。

 主将を務める牛尾颯太と、左アタッカーの牛尾竣太(3年)は双子。弟の竣太が「最初は緊張したけど、高蔵らしい細かいパス回しができた。股抜きとか1対1の駆け引きも通用するんだなと思ったし、相手の応援がすごくて、ああ、全国大会だと思った」と話したように、課題ばかりでなく、新鮮な感覚や自信に通じる手応えも持ち帰る大会となった。

 兄の颯太は「冬も(選手権で)また全国大会に出て、もっといろんな人に見てもらいたい。そのために、今度はもっと勝てるように成長したいと思いました」と全国大会への再挑戦を誓った。

 初戦敗退に終わった初挑戦だが、価値ある15分の夢だった。

平野貴也●文 text by Takaya Hirano