[選者]ステーショナリーディレクター 土橋 正氏●文具展示会「ISOT」事務局を経て、土橋正事務所設立。文具ウェブマガジン「pen-info」を発行。著書に『モノが少ないと快適に働ける』、『文房具のやすみじかん』(共著)ほか。

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一口にノートと言っても、そのバリエーションはさまざま。文具の達人をナビゲーターに、「仕事に効く」アイテムを紹介します。

■発想を得るために何を選べばいいか

仕事を効率化するツールがたくさんあるなかで、わざわざノートを使うのはなぜでしょう。

私自身、デジタルツールを使いながら、アイデアを練ったり原稿の構成を考えたりする場合はノートを使っています。そうすることで、自分の頭の中にある「不確か」なものに「形」を与えることができるんです。

デジタル上で同じ作業をすることは難しい。デジタルには、決められた文字や記号を打ち込むことはできますが、まだ不確かで曖昧なイメージを満足に表現することはできません。もし「デジタルペン」の進化によって、ほとんど手書きと同じように書けるようになったとしても、線の濃淡や形の自由度などを表現するためには、今のところノートを使った作業のほうが優れているように思います。

また、デジタルでは「変換」という作業に代表されるように、頭の中にあるものを一度別のものに置き換えなければなりません。余計なアクションは、何かを発想するときに邪魔になる。その点、ノートには頭の中にあるものをダイレクトに落とし込めます。

だから今から紹介するアイテムも、主に「アイデア出し」を意識して選んでいます。文字をキレイに書くための罫線も邪魔になるので、無地のノートが中心です。しかし当然、「情報を整理するためにノートを使うことが多い」と言う人もいるでしょう。その場合は罫線で区切られて、きれいに文字を整理できるノートを選べばいい。それぞれにとっての「ベストノート」を見つけるには、「ノートに向かうときに何をしているか」を自問自答することです。

【資料の整理】

ポスタルコ●スナップパッド(A4/A5)
A4タイプがオススメ。コピー用紙や裏紙に別売りのパンチで穴を開けてセットすれば、ノート代わりに使用できる。どこに行っても用紙が補充できるので、ページが残り少ないと心配する必要もない。「合わせて書類も入れられるので、『ファイル兼ノート』として使えます」。

【見た目スッキリ】

マルマン●レポートパッド A4 アシストライン入7mm罫 P1140
最大の特徴は横罫に加えて薄い縦罫の補助線が入っているという点。角度や距離によってこの線が見え隠れするので、書くときにはガイドとして目安となり、見るときは気にならない。縦のラインに沿ってきれいに情報をまとめることができる。ノートを情報整理に使っている方にオススメ。

【スマホ収納】

リヒトラブ●SMART FITカバーノート(A5)
カバーのポケットにスマホやペンを収納し、持ち運びできるオールインワンタイプのカバーノート。カバーの素材には耐久性に優れた「コーデュラファブリック」を使用しているので、安心してビジネスバッグの中に放り込める。社内会議やカフェなど、ちょっとした移動時に便利。

【アイデア出し】

マークス●アイデア用ノート・エディット・付箋セット付(B5変型)
発想を広げやすい横型(B5変型)。ノートのドット罫は視界の邪魔にならないので、図や文字、イメージを落とし込みやすい。セットの付箋にアイデアを書いてノート上で展開することもできる。「アイデアを出すためのツールが、オールインワンのセットになっている点が面白い」。

【思考の切り替え】

新日本カレンダー●365 notebook/pro(A5/A4)
日めくりカレンダーに使われる半透明の薄い紙を使ったノート。全8種類の付属の下敷きを半透明のノートに差し込むことで、自動的に考えるモードを切り替えられる。「アイデアが浮かばないときに罫線を変えるという発想のノートは今までありませんでした」。

■「書く」行為はなぜなくならないのか

人は実体のないものを扱うことを苦手とします。頭の中をめぐるアイデアや言葉を正しく捉えることはなかなか難しいでしょう。ではどうすればいいかというと、実体のないものに形を与えてあげればいい。そのためにノートは効果を発揮するツールです。形のない仕事であっても、ノートに書き出した途端に扱いやすいものになるはずです。

内容に形を与えるだけでなく、一つの「物」としてノートが存在すること自体も、デジタルにない強みとなります。考えてみれば、デジタル上のデータは複数の情報を引っ張ってきて、限られた画面の中で交互に見なければなりません。一方で、ノートは2つあったとしても、机に並べればゆったりと眺めることができる。これはデジタル上に置き換えれば「情報専用の表示装置」を持っているということ。実は贅沢な使い方ですよね。

物として存在するメリットはそのほかにもたくさんあります。

たとえば検索性。デジタルではデータを保管していても、検索キーワードを覚えていなければ、そのデータを取り出すことさえできない。もっといえば画面の向こう側にデータが行ってしまうので、存在自体が遠くなり、忘れ去られてしまう。その点、ノートは真近に目にすることができるので、仮に忘れても思い出すことができる。また、「あのノートのあそこに書いてあった」とキーワード以外の記憶から、検索することもできます。物を通した体験として記憶に残るのです。

仕事効率を高めるのはITだけではありません。アナログのノートを使うことで解決できることもたくさんあるんです。

【持ち運びラクラク】

プラス●カ.クリエプレミアムクロスA4×1/3サイズ(215×105×6.5mm)
A4×1/3のサイズで人気を誇る「カ.クリエシリーズ」の高級ライン。万年筆のインクが滲まない中紙と、耐久性のある「紙クロス」の表紙を使用。メーカーのホームページからカ.クリエのサイズにピッタリの「TO DOリスト」や「カレンダー」の各種フォーマットをダウンロードできる。

【情報を守る】

リサーチラボノート(A4)●(写真右・エントリーモデル)(写真左・スタンダードタイプ)その他種類あり
「STAP細胞」をめぐる報道で注目された記録用ノート。いつ誰によって発明が生まれたかを証明するために、理系の学生や研究職の方を中心に使用される。ページには第三者が印鑑を押す欄があるので、法的な証拠となる記録を残す際にも使える。

【検索性バツグン】

フジカ●アクセスノートブック(A5+)
数多くのノートを試した文具王・高畑氏自身が手がけた自信作。一番のウリは、たどりつきたい情報が一目でわかる「検索性」の高さ。インデックスを設けた。また資料を貼ることを前提に、A4二つ折りサイズ(A5)より少し大きめの仕様になっている。2015年度グッドデザイン賞を受賞。

【すぐ手に取れる】

コクヨ●キャンパスノート(セミB5・40枚・A罫/その他種類あり)
日本全国で購入できる「ド定番」ノート。1975年発売以来のロングセラーで、少しずつ改良を加え現在のモデルで5代目。耐久性が高く、どのページもフラットに開く製本や、どんな筆記具とも相性がよく裏にインクが滲みにくい紙など、総合的なバランス力で秀でている。

【ストレス軽減】

コクヨ●ソフトリングノート(A5/セミB5)
2015年発売の新しいリングノート。金属リングが手に当たりストレスだった人にも使える柔らかいリングが特徴。金属リングのようにリングが曲がってページがめくりにくくなったり、リング同士が絡まったりすることもなく、スムーズにページを開くことができる。

(菅 未里=構成 澁谷高晴=撮影(商品))