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●夕張市支援を打ち出したトラストバンク
2006年初夏、耳を疑うようなニュースが駆け巡った。北海道・夕張市の財政破綻が明るみになり、マスコミが報道を過熱させたからだ。それまで、自治体が財政破綻するなど、考えてみたこともなかった。だが、それは現実となった。あれから、およそ10年……、夕張市はどうなっているのだろうか。

2016年12月7日、「北海道夕張市支援プロジェクト」と題された記者発表会が行われた。この記者発表会の主体は株式会社トラストバンクという企業だ。

この企業は「ふるさとチョイス」というウェブ媒体を運営している。ふるさとチョイスとは、「ふるさと納税」を実施している自治体の情報を網羅したサイト。ふるさと納税を利用すると、地方自治体に寄付を行うことになるが、その分、寄付した人の税金が控除される仕組みだ。さらに寄付した自治体から、その地の特産品が届く。

おもに首都圏などの大都市圏で所得を得ている住人から、税収減にあえぐ地方自治体に資金を流す制度といえるだろう。

トラストバンクの代表取締役 須永珠代氏は、地域の経済を活性化させるには「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が必要と語る。ふるさと納税は、そのうちの“カネ”を地方に送り、そして“モノ”が都市圏に動く制度として注目したという。

ただ、ふるさと納税で唯一、足りなかったのが“情報”だったと指摘する。ふるさと納税という制度が地方活性化に有効だとしても、それを知ることがなければ利用されない。

そんな想いから、ふるさとチョイスを2012年9月に立ち上げ、より一層“カネ”“モノ”の動きを活発化させたいと考えたのだろう。

事実、ふるさとチョイスを立ち上げたあと、全国に1,700以上もある自治体に、その情報を伝えたという。

○ふるさと納税を扱う最大級のサイト

立ち上げから4年が経った今、月間約1億PV、約110万人の会員を抱えるサイトに育った。しかも総務省が発表したふるさと納税額、約1,653億円のうち、ふるさとチョイスから寄付された額は約1,368億円だったという。まさに、ふるさと納税のメインポータルサイトとして機能しているといってよい。

ただ、須永氏はこうも指摘する。「ふるさと納税を利用した人は約148万人。納税者全体からみれば、3%ほどでしかありません。もっとふるさと納税を知っていただき、多くの方々に利用してもらうようにしたいです」と、今後の課題を挙げた。

●歯止めが利かない人口減少
一方、夕張市はどうか。鈴木直道 夕張市長は、「2006年に財政破綻が明るみに出たあと、2007年に財政再建団体に移行しました」と、当時の経緯を語る。財政再建団体とは、国の管理下のもと、財政再建に努めることを指定された団体のことだ。過去にこの制度を適用された自治体はあるが、現在は夕張市のみである。

2007年から財政再建団体に指定されてからというもの、夕張市は緊縮財政に取り組んできた。これにより、財政再建を着実に推進していったが、大きな問題も生じた。それは、人口の減少である。緊縮財政を続けていれば、市政サービスに手がまわらなくなる。自然、市民はそれを嫌忌し、ほかの地へと移ってしまう。

鈴木市長によれば、「破綻前の数字ですが、全盛期は約12万人の市民がおりましたが、現在では8,700人台まで人口が減少してしまっています」という。

このまま緊縮財政を続けていれば、夕張市は消滅しかねない。事実、夕張市の財政再建を検討する第三者委員会からも、その危険を指摘された。

○財政再建だけではなく市の再生を!

そこで、鈴木市長は大きく舵を切ることにした。それは「財政再建と地域再生の両立」。この方針を2016年3月に、夕張市の財政再建を管轄する高市総務大臣に報告をし、了承を得た。

現在、夕張市の自然収入(税収など)は約8億円。これでは、財政再建と地域再生を両立するには心許ない。そこで、目をつけたのが、ふるさと納税による全国からの寄付だ。

「財政破綻時、ふるさと納税は実施されていませんでしたが、現在は幸いなことにふるさと納税という寄付で、全国の方々にご支援いただいております」と、鈴木市長は感謝の念を深めている。

直近では、全国の支援者から2年連続で約2億円が寄付され、さらに2016年から開始された企業版ふるさと納税では、ニトリホールディングスが今後4年間で5億円を夕張市に寄付すると表明した。収入約8億の自治体にとって、全国支援者からの2億、企業からの5億円は何よりもありがたいだろう。

ただ、地域再生を推進するには、さらなる寄付が必要と考えたのだろうか。鈴木市長は1,300億円以上ものふるさと納税を扱う、ふるさとチョイスを運営する、トラストバンクに着目した。

●鈴木市長とトラストバンクの出会い
鈴木市長とトラストバンクの出会いは、なかなかユニークだ。トラストバンクの須永氏は、ある日、テレビで夕張市が財政再建に奮闘する番組を観たそうだ。

「夕張市の番組を観て、トラストバンクでも何かお手伝いできないものかと思いました」(須永氏)。

そんな折、鈴木市長から須永氏に「ぜひ、お目にかかりたい」という連絡が入った。番組で観た夕張市が気になっていた須永氏は、その連絡を受けた際、運命的な何かを感じたという。

そして9月28日、鈴木市長はトラストバンクを訪れ、須永氏と会談した。「通常、自治体の首長が弊社にいらっしゃる際、2〜3人の方と来社されるのが普通ですが、鈴木市長は、たったお一人で来社されました」と明かす。東京までの渡航費を少しでも節約したい鈴木市長の心情が伝わってくるようなエピソードだ。

○お礼の品を増やして市への寄付を募る

そして、トラストバンクは10月に夕張市に早速向かい、ふるさと納税について何か支援できないか視察。何しろ全国各地、10万点以上もの納税者へのお礼の品を紹介しているサイト、ふるさとチョイスを運営する同社だ。夕張市のお礼の品を提供する事業者を、それまでの夕張市農協のみから8事業者へと広げることができた。

鈴木市長によると、ふるさと納税開始初期には、現在お礼としている夕張メロンはおろか、手紙すら出していなかったそうだ。納税者から「手紙ぐらいは……」と指摘され、お礼の手紙、そして夕張メロンを届けるようになった。ただ、これからは8事業者の協力で、よりバリエーションに富んだお礼を届けられるようになる。

さて、破綻したとはいえ、夕張市には大きな財産がある。それは夕張高校だ。以前、別の取材でお会いした自治体の首長が、「高校がないので子育て世代が居着かない」とこぼしていた。

それを思い出した筆者は鈴木市長にそのことを問うと、「確かに高校があるのは財産です。ですが、手をこまねいていては、それすら無くなります」と危機感をみせた。鈴木市長によると、集まった寄付で夕張高校の“高校魅力化”を推進するそうだ。

なお、あとから知ったことだが、須永氏が観た番組はこの夕張高校の危機を報じたものだった。ぜひとも高校魅力化を推し進め、夕張市の再生のためにがんばっていただきたい。

(並木秀一)