どの飲料にも、テイスティングの工程がある。そのうち、ミネラルウォーターの製造工程でも「官能検査」というものが行われているのだ。

「官能検査」とは、いわゆる、水を目や鼻や舌で、異常がないかどうかを検査するものだ。しかしこの官能検査、素人からすれば、いったい目や鼻や舌で何をどのように確かめているのか気になるところである。

また、この水のエキスパートは、官能検査を行うために日々どのような努力をしているのだろうか。もちろん、風邪で鼻がつまったりなんかしたら、官能検査の仕事は大変な支障が出るのではないかと素人なりに心配になる。

そんなわくわくを胸に、サントリーで実際にミネラルウォーターの官能検査を行っている水のエキスパートに聞いてみた。

水のエキスパートが行う「官能検査」の実態


今回、話を聞いたのは、サントリー天然水 南アルプス白州工場 品質保証部門 技師長である米山 徹さん。現在、工場でミネラルウォーターの官能検査を行っているという。この官能検査は、認定された優秀な者しか行えないそうだ。

「官能検査は、一年に一度、自社で設けた基準による『優秀官能検査員選出テスト』に合格した資格取得者(1年毎に更新)のみが担当しています。かすかなフレーバーを付けた数種類の水をかぎ分けて嗅覚を鍛える訓練などを行ったうえで試験に臨み、優秀な者だけが『官能検査員』として資格を取得できます」

選ばれし者だけが行える「官能検査」。具体的に、どのような項目を、どの部位で、どんな風に確かめているのだろうか。

「官能検査員は、品質保証(安心・安全)のため、必ず2名以上で、鼻・舌・目など五感を駆使し、前回生産した天然水を比較基準にして、原水や出荷前の製品の『味』や『匂い』、『外観』を検査します。味わいは、『口当たり』→『喉ごし』→『余韻』と丁寧に確認していきます」

この官能検査、米山さんによれば、時間帯や環境も重要だという。

「官能検査を行う時間は、わずかな異常でも察知できるよう、最も五感の敏感な午前中に集中して行います。
また、検査を行う環境も重要な要素です。純粋に香りの検査ができるように、検査室は、無臭の環境を維持するため、水道の設備を配しておらず、空調(湿度・温度)管理を徹底しています」

官能検査のために日頃から気をつけていること



ミネラルウォーターづくりには欠かせない米山さんの仕事。その微小な変化も見逃せない立場上、目や鼻や舌の不具合にはきっと注意していることだろう。
そこで米山さんに、官能検査を行うために日頃から気をつけていることを聞いてみた。

●外乱となるような余計な香りをつけない
手洗い後のすすぎを念入りに実施、匂いの出る香水・化粧は不可など

●臭いの感度を高く保つ
臭いの強いものや刺激物は食べない、体調を整えるなど

「風邪や体調不良だと著しく官能能力がダウンするため、とにかく健康状態に保つ必要があります。官能検査は毎日行うので、試験に1回合格すればそれで良いというわけではありません。体調を含めて合格レベルを日々維持することが求められます」

毎日、合格レベルを維持するのは、さぞかし大変なことだろう。官能検査員は、もともと体が強いことはもちろん、健康管理能力も求められそうな仕事である。縁の下の力持ち的存在でありながら、魅力ある仕事に感じた。
(石原亜香利)

取材協力/サントリープロダクツ(株)
サントリー天然水 南アルプス白州工場
品質保証部門 技師長 米山 徹さん