響き渡る、身体と身体がぶつかる音。力強い四股。鉄砲。稽古の後の休息するひととき……。

相撲部屋のそんな様子を、じっと見つめる2匹の猫がいる。
東京・日本橋の荒汐部屋で飼われている2匹の猫。1匹は、モル。12歳のオス。


福岡場所のとき、部屋の内海光マネージャー(元・荒獅子)が見つけた野良猫で、そのまま「上京」。モルの名付け親は、部屋の12人の力士中、唯一の幕内力士で部屋頭の、内モンゴル出身の蒼国来。「モル」とはモンゴル語で「猫」のこと。
モルは稽古場や部屋のあちこちを移動する。荒汐親方の傍らで稽古をじっと見つめるまなざしは、もう一人の親方のようにも見える。

もう1匹がムギ。10歳のオス。



部屋の前に捨てられていたことが縁で、そのまま部屋で飼うことに。モルとは対照的に、力士たちの部屋で過ごし、そこから全く出てこない「超インドア派」。

まさに、「世界で一番相撲を見ている猫」(※本書帯より)。この2匹のネコの写真集が刊行されている。タイトルもストレートに、『荒汐部屋のモルとムギ』(リトルモア刊)。

2匹は「福の神みたいな存在」


写真は、カメラマンの池田晶紀さん率いる「ゆかい」が担当(今回参加したのは池田さん、川瀬一絵さん、池ノ谷侑花さんの3名)。デザインも手がける会社で、本書のデザインも担当した。ゆかいの皆さんに、この写真集やモルとムギについて聞いた。

相撲部屋のネコということでの印象について、こう語る。
「相撲部屋という現場にはとても幸福感があり、縁起もよく、神社にいるような気持ちになります。モルとムギはそこに住んでいるわけですから、それはもう、福の神みたいな存在で、ただのネコという感じではありませんでした」



それぞれのネコの印象を聞いた。

まずは、モル。
「モルは、威厳があり、荒汐部屋のドンという印象。フラッと部屋に現れて親方の膝の上に乗り、力士たちの稽古を見守っています。くつろぎ方もどっしりとしていて、丁寧に挨拶してからじゃないと撮らせてもらえないような雰囲気をもっていました。生半可な態度では見透かされそうで緊張しました」

いっぽうムギは、
「力士たちのお布団の間にマスコットのようにいたりして、あまり動かないです。最初はおとなしい印象でしたが、何度目からかは会うとこちらの膝に乗ってきたりして、実は甘えん坊な感じがしました。寝起きのフワフワさに、メロメロになりました」
「ムギは、地方場所で力士の皆さんが部屋にいない時には、力士の皆さんが普段使用している布団の山にずっと寄り添っているんです。みんなのことが好きなんだな、と感じました。この布団の部屋から出て来ないムギも、居心地がいいからこそインドアが定着したんだと思います」

猫に合わせた撮影スタイル


今回の撮影でのこだわりは、
「主役となるモルとムギの、目線と時間に合わせるというところです」
それぞれの性格に合わせた接し方をこころがけたという。
それだけに、写真集には、モルとムギの表情やしぐさ、そして2匹と接する力士や親方、マネージャーの、いきいきした表情や距離感が感じられる写真が満載。



本写真集では、力士たちが日々生活する部屋の中に白バックのセットを組んだ、「力士と猫のツーショット」というカットも印象的に映る。



「シンプルにポートレイト作品として、明るい『記念写真』をつくりたかったんです」

4冊の写真集が同時期に出版


モルとムギはテレビやSNSで人気に火がつき、海外からの観光客も見学に来るほどの人気になった。そんな人気ぶりもあり、他に3冊の写真集がほぼ同時期に発売されるという珍しい事態になった。ちなみに企画も撮影も本写真集が最初だったとのこと。ゆかいでは、本作の見どころをこういう。
「この写真集は、写真集でありながら相撲や力士、部屋の情報などのテキストも満載で、物語性の強いドラマがあります。ですので、いわゆる写真集としてというよりも、『荒汐部屋のモルとムギ』という一冊の本としての魅力があると思います」
海外人気も高いこともあり、テキストは英訳も掲載されている。



2匹の猫と力士たちの笑顔。どちらもカワイく映る一冊だ。
(太田サトル)

※2017年1月に、写真集出版記念の展覧会が都内で開催予定。初場所開催時期と重なるので、相撲と写真、どちらも一気に楽しめるチャンス。

荒汐部屋のモルとムギ出版記念
「猫と力士のあかるい写真展」
期間:2017年1月8日(日)〜22日(日)
場所:dragged out studio(ドラックアウトスタジオ)
東京都中央区日本橋大伝馬町15-3 内田ビル1F
TEL&FAX 03-6661-2081
mail:info@dragged.jp