日本の総裁選とは全く違いますね(画像はイメージです)。

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長い長いアメリカ大統領選が、11月8日に投開票を迎える。

こうも長期間にわたると、連日の報道を見るうち、日本人なら途中で飽きてしまいそうな気もするが、アメリカ人はどのように長戦に向き合うのだろうか。
記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)等の著書を持ち、大統領選をはじめとした多数の選挙取材を行うフリーランスライターの畠山理仁さん(Twitter:@hatakezo)に聞いた。

大統領選を楽しむアメリカ


「アメリカの大統領選は選挙人を選ぶ間接選挙ですが、実質的には自分で大統領を選ぶことができます。それは楽しいでしょう。また、規制が少ないのでいろいろと楽しみ方にも幅が出ます」

まず日本では「人気投票の公表の禁止」などが公職選挙法で規制されているが、アメリカの場合、基本的には自由である。そのために、選挙の盛り上がり方も大きく違うのだ。
「以前、私が大統領選の取材に行ったときには、セブン-イレブンがセルフサービスで入れるコーヒーの紙コップを青と赤の2種類用意していました。青には民主党候補の名前、赤には共和党候補の名前が書かれていました。最初は同じ数の紙コップを準備してお店に並べておき、お客さんは自分の支持する政党の紙コップでコーヒーを買っていく。売り場の紙コップが少なくなっている方の党の支持者が多いということがひと目で分かる仕組みです。そのため各党の支持者は頑張ってセブン-イレブンでコーヒーを飲むという、売上アップにもつながる取り組みをしていました」

アメリカの場合、各家庭の庭先や玄関先には自分がどの候補を応援しているかというバナー(横断幕)が飾られるそう。
「自分の車に支持する候補者の名前を大きく書いて街を走ったり、ステッカーを貼ったりすることもあります。そのためのステッカーも街中で売られています。缶バッジも売っています。候補者の旗も売っているし候補者のイラストが書かれた帽子も売っています」
日本で候補者の缶バッジや帽子を売ったとしても、買う人なんて、ネタとして以外想像もできない。
「アメリカ大統領選挙の場合、日本のように選挙カーが街中を走って叫び続けるというものではありません。野球場やスポーツのスタジアム、大学の広場などに人を集めて開く『集会』が大統領選のキャンペーンになります」

また、アメリカでは俳優やアーティストも自身の支持する候補者を明らかにして、選挙キャンペーンに参加し、選挙資金集めパーティに出席したり集会で演奏したりもするそう。
実際、スティービー・ワンダーやブルース・スプリングスティーン、ボン・ジョヴィなども大統領選の選挙キャンペーン・イベントに出ていると言う。
「そうした集会の会場周辺には候補者のTシャツやマグカップ、缶バッジ、ステッカー、人形などのグッズが売っています。公式、非公式を取り混ぜたキャンペーングッズを売る露店がいくつも出ます。Tシャツも真面目なものばかりではなく、人気映画のパロディを取り入れたもの、普段から着ていてもバカにされないようなお洒落なもの、犬用、子供用など各種あります」
日本人が聞くと、まるでひいきのプロ野球チームやサッカーチームを応援するような感覚に思える。
「また、選挙に関する情報発信もすごいです。各政党にメールアドレスを知られると、連日のようにメールが来ます。『今すぐ寄付して下さい。3ドル、10ドル、25ドル、50ドル、100ドル』とか『5ドル寄付してオバマと夕食を』とか『多額の寄付をすると特別エリアに入れます』『応援グッズを買って応援しよう』みたいなものが、すごい頻度で来ます」

立候補者をバカにしない文化


アメリカの大統領選の場合は日本と違い、選挙に立候補したり政治に関わったりしている人を基本的にはバカにしない文化があると畠山さんは言う。
「『政治の話題はタブー』と言われていますが、実際にはみんなガンガン政治のことを話しているし、選挙ボランティアや選挙運動も手伝っています。
投票所の前では民主党支持者、共和党支持者がポスターやバナーを広げながら応援をしていますし、民主党支持者と共和党支持者が立って声掛けをしたりします。まったく違う党の支持者がそんなに近くにいてケンカしないのかと聞くと、『This is United States!』と肩を組んで写真を撮れとリクエストされました。その人たち同士は知り合いでもなんでもない、そこで初めて会った人でしたが。つまり、それくらい多様性を認める社会なのです」

日本とは選挙の「楽しみ方」の幅も、接する距離感も大きく異なる大統領選。もしも日本でもここまで盛り上がるとしたら、日本では投開票後にすぐ「選挙ロス」とかいう報道が出るのだろうな……。
(田幸和歌子)