新しい米大統領はどちらに決まるでしょうか?

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いよいよ11月8日に投開票が行われるアメリカ大統領選。

4年ごとに行われ、民主・共和両党の候補者を1人に絞り込む「予備選挙」と、両党の候補者から大統領を決める「本選挙」の二段階で構成されるというのが超ざっくりの流れだ。

しかし、連日の報道を見ながら、「え、大統領選、まだやっているの?」などと思ったことのある人もいるのではないだろうか。

そもそもなぜアメリカ大統領選はなぜこんなに長期にわたって行われるのか。アメリカ大統領選をはじめ、様々な選挙取材を精力的に行い、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)等の著書を持つフリーランスライターの畠山理仁さん(Twitter:@hatakezo)に聞いたところ、「逆に、日本ほど選挙を楽しめない国はないんじゃないでしょうか。他の国はとても選挙を楽しんでいます」という回答があった。

多くの国では選挙活動期間は設定されていない


「日本人が選挙を楽しめない理由の一つとして考えられるのは、日本の公職選挙法です。選挙を公正に行なうためのものですが、これが選挙運動をかなり厳しく規制しているからです。一番わかりやすいのが、選挙運動ができる期間の違いです。日本は選挙運動をできる期間がとても短い。衆議院議員選挙でも12日間ですし、最も選挙期間が長くなる参議院議員選挙と都道府県知事の選挙でも17日間しかありません。それどころか町議会議員、村議会議員の選挙になると、たった5日間しかありません」

一方、アメリカをはじめ、多くの外国では特別な活動期間は設定されていないと言う。そのため、2016年のアメリカ大統領選挙には、2010年から立候補表明していた人もいたそう。だから、一年中大統領選をやっているような状況になるということだ。
「個人的には、そもそも税金の使い道を決める人たちを2週間前後の短い期間で決めろという日本の制度のほうが乱暴だと思います。日本では選挙期間中にできることもかなり厳しいです。戸別訪問は禁止、ビラなどの文書にも制限があります」

大統領候補者によるテレビ討論会の意義


また、法律で規定されているわけではないものの、日本のメディアは選挙期間中の報道にかなり神経質になっていると畠山さんは言う。
「たとえば告示後は特定候補者の顔やタスキ、看板等を映さないなど、『公平性』『中立性』を担保しようと気を遣っています。しかし、有権者が候補者の情報を最も必要としている時期に、候補者の情報が世の中に流通しないというおかしな状態になっています。これでは投票率が上がらないのは当たり前だと思います」
アメリカの場合は、メディアが民主党、共和党、どちらの候補を支持するかを表明することも珍しくないそう。

対して、日本の場合は、選挙期間になればなるほど候補者の情報がなくなる。また、政見放送の放送時間も、マニアしか見ないような深夜か早朝が大半である。そのために、日本のような短期決戦では知名度が重要な要素になるので、タレント候補が乱立するのだとか。
ところで、アメリカ大統領選では長期戦で候補者同士が何度も顔を合わせ、テレビ討論会なども行われる。「ショーの共演者」のような意識になってしまうことはないのだろうか。
「アメリカにも緑の党やリバタリアン党など、いろいろな政党がありますが、基本的には二大政党制で共和党と民主党の二者択一です。どちらも『自分が大統領になる』という意識でやっているので、相手候補と仲良しになるということはまずないでしょう。また、候補者同士が何度も顔を合わせることで、弱点を探ったり、弱点を突いたりして、相手候補との違いを際立たせていきます。そうしたことが有権者の判断材料になるからです」

大統領が代わるとホワイトハウスのスタッフも入れ替わる


実際には「ショーの共演者になる」ことも事実だが、大統領候補は候補者一人の意思で動いているわけではないそうだ。
「スピーチライターや広報戦略を担当するスタッフなど、選挙戦はたくさんのスタッフが支えています。なぜこんなにスタッフが多いかというと、アメリカの場合、大統領が代わると、ホワイトハウスのスタッフもごっそり入れ替わるからです。つまり自分が政権に入れるかどうかがかかっているのです」

日本の場合、霞が関の役人が代わることはない。しかし、アメリカの場合は大統領が代わればホワイトハウスのスタッフが3千人代わると言われているそう。だから“本気度が違う”のだ。
「アメリカ大統領選の場合、日本ではあまり報じられないので馴染みが薄いかもしれませんが、キャンペーンは副大統領候補と一緒にやっています。応援バナーは大統領候補と副大統領候補の名前がセットで書かれているので、共演者という意識を持つとしたら副大統領候補だと思います」

大統領選を長期間行なうメリット・デメリット


今回は、非常に支持率の低い者同士の大統領選となってしまったが、長期にわたって行うメリット・デメリットはどんなところだろうか。
「メリットは、選挙が長期間に渡るため、大統領候補の人となりが明らかになることです。クリントンのメール問題やトランプの女性問題など、大きなスキャンダルも出ますが、そのときにどう対応するかも含めて国民が決めるわけです。アメリカ大統領は核のボタンも持つわけですから、実際に権力を持つ前に危機管理能力、危機対応能力を知ることができるのです」

スタート時には多数の人が立候補するが、長い選挙戦が続くことで、支持者や選挙資金の寄付を集められない人たちは淘汰されていく。
しかし、日本のように選挙期間が短いと、候補者の資質をチェックする時間がとれない。そのため、「当選してからスキャンダルが出て辞任」ということが起きるのだと言う。
「デメリットは、それほどないような気がしますが、あえて言うならば、長い選挙戦では必ずどちらも痛いところを突かれる。大統領就任までに傷だらけになるということでしょうか。逆に言えば、長い選挙戦を戦えない人は大統領にはなれないということです。支持率が低い者同士の大統領選とはいえ、他にいなかったのだから仕方がないでしょう」

長い長い大統領選の結果がどのように下されるのか、まずは注目だ。
(田幸和歌子)