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●開発に13年かけたロボット掃除機
日立アプライアンスは、ロボット掃除機「minimaru(ミニマル)」を発表した。日立にとっては初めてのロボット掃除機となるが、すでに競合各社が製品を投入しており、この分野では後発となる。それだけに会見でも、「後発であることを承知で、この段階で参入した理由は?」という質問が飛んだ。果たして日立アプライアンスがこだわったのはどこだったのだろうか。

○13年かけたクオリティ

「我々は掃除機のプロ。中途半端な製品を発売するわけにはいかなかったのです」。10月17日に行われた日立アプライアンスのminimaruの記者会見。意外な事実が明らかになった。

minimaruは、日立アプライアンスにとって初めてのロボット掃除機製品だ。だが、ロボット掃除機を記者会見で取り上げたのは初めてではなかった。「実は2003年にもロボット掃除機に関する説明を行ったことがあります。しかし、その時点では技術開発を行っただけでした。実際に発売する製品を発表するのは今回が初めてになります」(日立アプライアンス・商品戦略本部ユーティリティ商品企画部 部長代理 白河浩二氏)。

今回の製品発表をさかのぼること13年前に技術発表を行っていたのだ。しかも、「13年前の時点でも、今回と同じコンセプトである狭い場所で掃除をするという説明をしていました」という。

なぜ、技術発表から製品を実際に発売するまでに13年の時間を要したのか。

会見終了後、日立アプライアンスに確認すると、返ってきたのが「我々は掃除機のプロです。中途半端な製品を発売するわけにはいかなかったのです。満足できる掃除機を開発するために、部品から開発を行い、満足できるクオリティとなったことで発売に踏み切ったのです」という発言だった。

●掃除機への不満から作った製品
確かにminimaruの製品発表の中でも、掃除機としての性能がたびたびアピールされた。本体につけられたサイドブラシによってゴミを集め、換気の流れでゴミを吸込み口へ送る。前面にはダブルかき取りブラシがついていて、ついた回転ブラシでゴミをかき上げ、その前についているかきとりブラシでカーペット上の綿ぼこりもすっきりとかき取る。取ったゴミを吸引するパワーを支えるのが、この製品のために新たに開発された「小型ハイパワーファンモーターR」だ。

○狭い場所を満足に掃除するために

minimaruの特徴は製品名とおり、小型であることだ。サイズは幅25センチ、高さ9.2センチ。製品が小型になると吸引力を支えるモーターのサイズは当然小型になる。吸引力もそれにともなって落ちてしまうことにならないために、今回、新しいファンモーターが開発された。小型、軽量でありながら高効率という新しいモーターで、「モーターの日立」とアピール。モーターの開発力に強い自信を持っていることがうかがえる。

今回、製品を発売するにあたり、日立アプライアンスではロボット掃除機購入を検討している人、すでにロボット掃除機を持っている人の両方にアンケート調査を行った。そこで明らかになったのが、購入前の人にとっても、購入後の人にとっても掃除機としての機能への不安だった。

購入前の人へのアンケートで最も多かったのが、「どの程度ごみが取れるのか」だった。複数回答であるが78%の人がこの点を不安に思っている。吸引力を強化したのは、まさにこの部分の不安を払拭することを狙ったものだ。

購入後の不満としては、同じ掃除への不満でも、「部屋の隅の掃除」が2番目に、「イスの脚周りなどの狭い場所の掃除」が3番目に、「壁際の掃除」が5番目の不満としてあがっている。購入後は、より具体的な場所への不満としてあがっている。

この具体的な場所への掃除の不満を解消するために、minimaruは小さなきょう体を実現した。直径サイズが小さいことで、これまでのロボット掃除機では届きにくかった部屋の隅に届きやすくなる。テーブルやイスの脚周りに対しても、検知機能を搭載し、その周りを周る制御機能を搭載。ロボット掃除機は掃除しにくく、ホコリもたまりやすい脚周りを掃除する。きょう体を小さくしてイスの下など狭い部分を掃除することができる上、細い脚周りを回る制御機能によってこれまでロボット掃除機には掃除することが難しかった、家具周りも掃除する機能を搭載した。

掃除をする際の動きについても、きょう体が小さい分、掃除ができる範囲が小さくなるという弱点を、素早い動きで通過回数を増やすことでカバーする。さらに毎秒250回の高速センシングによって状況を判断するminimaru AIを搭載し、周囲の状況を判断して、状況に合わせた100以上の行動パターンから最適な掃除パターンを選択する。最初はゴミのたまりやすい隅や壁際からスタートし、部屋全体を素早く、丁寧に掃除するプログラムを搭載した。

●需要を創造できるか
ゴミがきちんと取れていることを実感するために、ダストケースはゴミが見えやすい透明のケースを採用。充電時、自動的にダストケース内でゴミを圧縮する機能も搭載。約2週間分のゴミをためることができ、圧縮している分、ゴミがまとまっていて捨てやすいというメリットにもなっている。

ロボット掃除機に対する期待としては、「外出中に掃除が終わっていれば便利なので」、「掃除機をかける時間が少ない」、「体力的に掃除をすることがおっくうになってきた」など、掃除にかける手間を減らすことだ。ところが実際にロボット掃除機を導入した人は、「床に置いてあるものを片付ける」、「イスをテーブルの上にあげておく」など、ロボット掃除機を使うための準備をしているとアンケートで回答している。

minimaruが小さいきょう体で、掃除能力にこだわった開発を行ったのは、この「ロボット掃除機を使うための準備をしないでも使える」を狙ったものとなる。

ロボット掃除機市場は形成段階

果たしてこうした狙い、そして部品から新たに開発して作った掃除機としての機能がどれだけ伝わるのかがminimaruが成功するか、否かの鍵となる。イスや家具の下にも入っていって掃除することができることを狙ったきょう体の小ささは、見た目だけで伝わるが、掃除機としての強力さについては見ただけでは伝わらない。日立アプライアンスでは、「CMと店頭でのアピールを大々的に行っていくことで、機能の特性を知って貰う予定」と話している。

ロボット掃除機の市場規模は5年前に比べれば2.3倍に拡大している。今後もこの市場規模は伸びていくだろう」(日立アプライアンス 取締役 家電・環境機器事業部長 松田美智也氏)。日立アプライアンスの調べでは2015年度の市場規模は20万4000台。掃除機全体の中でロボット掃除機が占める割合は4%とまだ小さいものの、次回購入したい掃除機のタイプとしてはサイクロンタイプ、スティックタイプに次ぐ3位となっている。

こうした市場調査の声を見ると、ロボット掃除機は、買ってみたいと考える人が増えている段階で、買ってみたいと考える人の懸念、買ったものの不満に感じている機能的懸念をどれだけ解消することができるのかによって、ロボット掃除機の市場規模拡大がかかっているといえるのではないか。

ロボット掃除機市場は現段階では市場形成段階であるという実情を考えると、日立アプライアンスは競合企業からシェアを奪うことよりも、これまで機能面を検討した結果ロボット掃除機購入を思いとどまっていた人、以前、購入したことがあるが機能に満足しなかった人をどれだけ獲得できるのかがポイントとなってくる。

同社では月産5000台、市場でのシェア10%を目標として掲げている。これを実現するか否かは、機能面の特性をどれだけ多くの人に伝えていけるかにかかっているのではないだろうか。さらに、実際に利用した人が、「ロボット掃除機に感じていた不安、不満が解消できた」と納得できる製品に仕上がっているのか、まさに機能が評価されるかの勝負である。

(三浦優子)