「世界のアニメ市場に挑む」 ポリゴン・ピクチュアズ代表 塩田周三氏 【社長室訪問】

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『亜人』、『シドニアの騎士』、『山賊の娘ローニャ』、『トランスフォーマー プライム』……どれも世の中に大きなインパクトを与えた映像作品だ。これらの映像を手がけたのは、デジタルアニメーションスタジオ「ポリゴン・ピクチュアズ」だ。製造業出身であるという代表取締役 塩田周三氏はこれまでにも映像業界に「分業制」という考え方を持ち込むなど、経営的な観点から映像業界に対する挑戦を続けてきた。そんな塩田氏の社長室にお邪魔し、会社について、そして社長自身について話を伺った。

「残り8時間で倒産」 苦境を乗り越え社長室完成


塩田氏の社長室に足を踏み入れると、そこには額縁に入った様々な映像作品のポスター、これまで受賞してきたトロフィー、そして塩田氏の自画像まで様々なものが置かれていた。


そもそも、ポリゴン・ピクチュアズ設立は1983年。初代社長は、当時CGアーティストという肩書をもっていたクリエイティブ畑出身の河原敏文氏だった。塩田氏は1999年に製造業の世界を飛び出し、ポリゴン・ピクチュアズに入社。だが、入社してから2005年頃までポリゴン・ピクチュアズは「食うや食わずの生活」だったと語る。「映像の仕事も受注出来ず、会社の経営もいよいよという時期があった。残り8時間で投資先が見つからなければ会社がなくなるところまできていた」 そんな苦境を乗り越え、2003年に塩田氏はポリゴン・ピクチュアズの社長に就任。3年後の2006年に社長室を完成させた。現在の一つ前のオフィスからだ。「社長室があるだけでモチベーションが上がる。念願の社長室は非常に嬉しかった」と塩田氏は話す。

社長室には「戦友」からの贈り物がたくさん


改めて社長室にあるものについて話を伺うと「基本的には、会社の宣伝関係のものか頂き物」と意外にこだわりは少ない。金色の額縁に入れられたカラフルな自画像は、塩田氏が社長に就任してから開かれている全社パーティーで社員の一人がライブ・ペインティングしたものだ。

またデスク脇にはレコードが飾られている。2011年、ポリゴン・ピクチュアズの手がけた『トランスフォーマー・プライム』がエミー賞受賞という快挙を成し遂げた際、作品を共に作り上げたアメリカ人作家から贈られた物。

これ以外にも他の作品で一緒だった監督からの贈り物がいくつか飾られていた。デスク横の棚には「Decision」という文字の書かれたプレートがある。幼少期、塩田氏が海外に住んでいた時からの幼馴染だという副社長とは年に一度プレゼント交換を行っている。 「大きな岐路に立った時にこれを」というメッセージと共にもらったという。



創業時から代々続くオフィスへのこだわり


ポリゴン・ピクチュアズのオフィス環境についても話を伺った。創業時代からポリゴン・ピクチュアズではオフィスに気合を入れ、何かしら趣向を凝らす文化が続いているそうで、現オフィスではワンフロア制を採用。過去に「日本のクリエイターにとって良い環境を」と某雑誌の取材でも語っている塩田氏は、これにより社員の効率・クリエイティビティ促進を目指す。「でも、やっぱりかっこいいオフィスがいい(笑)」と素直な気持ちも語る。



「クリエイティブの位置付けを変えることが私のミッション」


塩田氏は雑誌のインタビューや講演会等、様々な場面で「クリエイティブ」というキーワードを口にしている。そこまで強烈に「クリエイティブ」にこだわる理由とは何なのか、改めて聞いてみると「日本での『クリエイティブ』の捉えられ方・位置付けを正していくことが自分のミッションだと考えている」と塩田氏は答える。
「クリエイティブ」というと、日本では偏った見方をされ異質に捉えられる一方で、免罪符的な意味で使われてしまうこともある現状を塩田氏は課題だと考える。「どんなビジネスでもクリエイティビティは必要」といい、「クリエイティビティとは結局のところ『問題解決』。差別化を作り出すため、何かを発案していく活動。ポリゴン・ピクチュアズの場合は、その題材がアニメーションだというだけ。それが自動車でも製鉄所でも関係はない」と仕事への自身の考えを語ってくれた。これには、幼少期に塩田氏が海外在住経験で得たという「Be Different(個性的であれ)」というマインドの影響があるのかもしれない。



「VRは面白い。だが技術だけでは完成しない」


今、映像業界で気になる分野はあるか、尋ねてみた。「VR分野が面白い。ただVR技術だけでは(コンテンツとして)完結しない。我々はリニアな物語が得意であり、その活かし方が何かあるはず。探求しないといけない」とその熱い思いを語った。「VR分野でも会社として何か面白い取り組みをしていく。バーチャルアイドルの企画もリリースするなど動き始めているが、やはりアニメーション領域から広がっていくはず」 映像業界の今後を見据え、既に動き出しているようだ。


また直近では、10月30日には「アニメーションマスタークラス 2016」というタイトルで、実践に学ぶVRコンテンツ制作を講座形式で発信していくなど、積極的に最先端の技術を紹介している。

「世界のアニメマーケットで覇権を握る」


最後に、Netflix、Hulu、Amazonなど近年日本でも急速に浸透し始めている動画配信サービスによって、日本の映像業界が今後どのようになっていくのか、塩田氏の考えを聞いた。「(動画配信サービスが出てきた結果)『どこの作品』というのが分からなくなってきた。Netflixなどは8100万人にも映像が配信されるサービスであり、これは大きなチャンス」と意気込む。


日本アニメの予算は世界と比べて規模が小さいため、いずれは世界のアニメマーケットへのリーチから逆算した予算感になることを願っているという。「日本だけが、大人にもあらゆる年齢層にも、様々な市場向けにアニメを作っている。これが日本の強みなのだから、まだ誰も市場として捉えてない層を狙っていくべき。その市場において覇者になり、世界のアニメマーケットの規模で作品を作ることも全然可能だと考えている。そういったジャンルで自分たちが尖兵となり、覇権を握りたい」 



塩田氏が見据えているのは、世界のアニメ市場だ。

関連情報
【アニメーションマスタークラス 2016 「実践に学ぶ VR コンテンツ制作」】
●開催日:10 月 30 日(日) 10:30 〜 16:30 予定
●開催場所:日本科学未来館 7 階 会議室 2
http://www.miraikan.jst.go.jp/guide/route/
●参加費:18,000 円/1 名
●お申込み方法:下記 URL より WEB にて受け付けております。
<アニメーションマスタークラス 2016 お申込みフォーム>
https://pro.form-mailer.jp/fms/6667c836108256
※定員になり次第、締め切らせていただきます。