大混乱! 築地市場「豊洲移転」は何が問題なのか?

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■豊洲移転問題は「公害紛争」

築地市場の豊洲新市場への移転問題は、当初移転を予定していた11月7日を前に、小池知事が移転延期を決定したことを契機に、一気に注目を集めるようになった。

小池知事は移転延期の理由として、(1)安全性への懸念、(2)巨額かつ不透明な費用の増大、(3)情報公開の不足を挙げている。このうち、(1)は言うまでもなく生鮮食料品を取り扱う豊洲新市場の敷地の土壌が汚染されており、食の安全や健康への影響が懸念されるということ、(2)は整備・移転費用がなぜそんなに大きな規模になったのか精査し、都民に説明する必要があるということ。

延期決定の発表以降、この(1)と(2)に関するものを中心にメディアでは情報が飛び交っている。毎日どころか1日に数度新しい情報がもたらされることもあり、その度に東京都をはじめ、関係者の発言や説明は二転三転。多くの国民は、一体どこに真実があるのか? と思っているのではないだろうか。

確かに、(1)及び(2)を中心に情報が飛び交っているといっても、問題の核心に迫るものがあるのかと言えば、まだそこには至っていないというのが実情であろう。どころか、豊洲移転問題は一体何が問題なのかさえもみえにくくなっているように思われる。

筆者には、整備・移転費用の大きさもさることながら、一義的には敷地の土壌汚染を巡る問題に思える。では、土壌汚染を巡る問題とは? 漠然と食の安全、健康への影響や、風評被害で豊洲市場経由の生鮮食料品が売れなくなるといった事柄が想定できそうだが、あいまいさは否めない。

土壌汚染が社会問題化し、環境省により土壌汚染対策法が立法された2003年頃、筆者は総務省に在籍し、外局である公害等調整委員会事務局で企画法規係長(政策と法令を担当)の職にあった。

公害等調整委員会(以下、「公調委」)とは、言ってみれば公害(環境)紛争を取り扱う専門の裁判所のような組織であり、実際に土壌汚染に関する紛争が持ち込まれ、解決されている。

現在、同委員会ホームページに掲載されている土壌汚染紛争の受付についての考え方 (http://www.soumu.go.jp/kouchoi/knowledge/faq/main2.q16.f_qanda_18.html) は、そうした相談や照会を数多く受けてきた筆者が整理したものだ。

筆者の理解では、豊洲新市場への移転問題は、土壌汚染を巡る公害(環境)紛争である。費用の多寡についても、土壌汚染対策を含む敷地の整備や新市場の安全対策といった点について考えれば、まさに公害(環境)紛争の争点たりうる。移転問題に関連して現在最もメディアに取り上げられているのは、まさにこれらの点である。

■健康被害が発生する「おそれがある」

では、土壌汚染を巡る公害(環境)紛争とは、一体どのようなものか。言うまでもなく、土壌汚染が原因となって、汚染した者と汚染によって被害を受けた者の間での争いである。

かつては、例えば化学工場の操業中、施設の不具合によって製造過程で使用する化学物質が流出し、周辺の土壌や地下水、河川を汚してしまった等々、現に行われている事業活動に伴って生じた土壌汚染が原因となることが多く、したがって汚染源とその範囲や影響が比較的把握しやすかった。

別の言い方をすれば、「これだけ流れてしまったので、これくらいの範囲まで浸透している可能性が高く、この程度の対策を行えば被害を無くすか、最小限に抑えることができる」、すなわち因果関係と解決策を導き出すことが比較的容易だった。

しかし、ここ十数年の土壌汚染紛争はそれとは質を異にする。現在ではなく、過去の事業活動に伴って生じた汚染が、事業活動が終了してから相当程度(多くの場合、数十年)たってから出てきたことに起因するものがほとんどとなっている(産業廃棄物の不法投棄による紛争のような、比較的因果関係がわかりやすいものもあるが)。

したがって、汚染物質は具体的に何で、範囲や濃度も含めてどの程度汚染されているのかを把握するのは容易ではなく、対策の要否や有無、その内容を確定させるのは極めて困難である。

加えて、これらを把握しきれないということは、対策が完了して数年を経た後も汚染物質の漏出といった事態もありうるということであり、その場合の対策まで予め想定しておく必要がある。

しかし、何がどう出てくるかは予想の域を出ず、予想外・想定外の事態に至る可能性も否定できない。また、工場跡地等への別施設(マンションetc)の建設等に伴って発見されるといったことが多く、そうしたものについては健康被害が現に発生しているというより、「発生するかもしれない」という蓋然性が高いものがほとんどである。

したがって、具体的な被害についても、その「おそれがある」としか言いようがない(そうした紛争についても、公調委では「おそれ」事件としてこれまでに受け付け、解決に導いてきている)。

実際、小池知事も8月31日の記者会見で次のように発言している。

「地下水のモニタリング結果をご紹介しておきたいと思います。例えば、5街区の41地点のこれまでの7回のモニタリングの結果をみてみますと、いずれも環境基準値以下となっております」

「しかし、検出値というのは、単純な経時変化というわけではございません。時間がたてば不検出になるという話ではないということであります」

「ですから、少なくとも、2年間のモニタリング結果を見届けるというのは、これは安全性の確認、そしてその説得力ということにおいては譲ることはできないと、このように考えているわけでございます」

次回、こうした豊洲問題とも通底する公害紛争の具体的な事例をいくつかみていこうと思う。(つづく)

(室伏政策研究室代表・政策コンサルタント 室伏謙一=文)