コケはまだまだ成長するだろう。サウール・ニゲスの伸びしろはカスティーリャの大地みたいに広大だ。アントワーヌ・グリエーズマンは世界的スターへの最後の階段に片足をかけている。大げさなシミュレーションをしない優れたCBも、若く有能なGKもいる。
 
 誰もが、このチームがさらに成長するところを見たがっている。彼らとシメオネの冒険は、ミラノでは終わらないのだ。
 
 ひとときの失望に涙したサポーターも、夏の休暇が終わる頃にはまた顔をあげて、チームに声を送るだろう。
 
 決勝の試合中、僕は記者席からシメオネの後ろ姿をずっと追っていた。
 
 南のゴール裏に陣取ったアトレティコ・サポーターが最も沸いた瞬間があった。それは試合中、シメオネが狂ったみたいに赤いゴール裏に走り、サポーターの前で何度も腕を振り上げ、彼らの声を求めた瞬間だった。
 
現地取材・文:豊福晋
 
【著者プロフィール】
豊福晋/1979年、福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、フリーで取材・執筆活動を開始。イタリア、スコットランドと拠点を移し、09年夏からはスペインのバルセロナに在住。リーガ・エスパニョーラを中心に、4か国語を操る語学力を活かして欧州フットボールシーンを幅広く、ディープに掘り下げている。独自の視点から紡ぐ、軽妙でいて深みのある筆致に定評がある。