宇佐美のドリブルは果たして効果的だったか。本田がパスを要求する場面で出せなかったのは反省点だろう。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

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 ホームで5-0とスコア上ではシリアを圧倒した日本。これでグループEの1位を確定し、堂々の首位通過となったわけだが、シリア戦の試合内容がパーフェクトだったわけでは決してない。結果的に無失点で乗り切ったとはいえ、シリアに決定機を3回も与えた点は看過できないだろう。

 果たして、最終予選に向けて浮き彫りになった日本の課題とは? ここでは、アタッキングサード(相手ゴール側のゾーン)、ミドルサード(真ん中のゾーン)、ディフェンディングサード(自陣ゴール側のゾーン)に分けて検証してみる。まずは、アタッキングサードだ。

【W杯アジア2次予選第8戦・PHOTOハイライト】 日本 5-0 シリア(2016年3月29日)

 なによりポジティブに映ったのは、連動した攻撃だ。抜け出した長谷部の折り返しに岡崎が合わせた8分の絶好機、本田と岡崎の連係から最後は酒井高が左足でフィニッシュした26分の決定機に代表されるように、何度か1〜2タッチでテンポよくつないでシュートに結び付けた点は評価できる。事実、前半30分までのチームの出来を、ハリルホジッチ監督も「スペクタクル」と表現していた。

 90分間を通してハイレベルな攻撃が出来たかと言われれば疑問符が付くが、それでも最終局面で岡崎にクロスが合うシーンもアジア2次予選のスタート当初よりは明らかに増えた。岡崎にゴールこそなかったが、このアタッカーを終着点にするという意図が見えたのはひとつの収穫だろう。

 そして、香川の活躍も最終予選に向けて明るい材料になるだろう。左サイドからのクロスでオウンゴール(先制点)を誘発し、さらに2得点・1アシストと香川が複数のゴールに絡めたのは、味方を活かし、自分も活かされる関係が成り立っていたからとの見方もできる。

 実際、トップ下の香川やCFの岡崎は「攻撃面では良い距離感でやれた」と話しており、右SBの酒井高も「練習どおり」とコメント。ハリルホジッチ監督がメンバー発表の席で求めた「グラウンダーのパスでスピーディに崩す」攻撃を選手たちはピッチ上で実践したわけだが、それも“中央から右サイド”に限ってではなかったか。

 左サイドは、宇佐美がブレーキになった印象だ。確かに、前半から高い位置でキープして軽やかに敵を抜くシーンもあった。しかし、長友や香川とのコンビネーションはと言えば、そこまで良くなかった。叩くべきところで叩き、落とすべきところで落とし、チャンスにつなげていた右サイドの本田や酒井高に比べて、宇佐美は球離れが悪かったように見えた。

 左サイドで宇佐美がキープした局面で、逆サイドの本田がエリア内で手を上げてパスを要求していたシーンは一度や二度ではなかった。また左SBの長友やトップ下の香川が深い位置に走り込んでもパスを出さず、そのまま相手に潰されるミスもあった。

 ハリルホジッチ監督は、メンバー発表の席で「宇佐美は我慢して使い続ける」と明言した。しかし、4-3-3をメインに最終予選を戦うのであれば、左ウイングは宇佐美にこだわらず、テストを重ねるべきか。

 ちなみに──。セットプレーに目を向ければ、直接ゴールを狙える位置でFKを奪えていないのは不安材料だろう。
 
 山口は守備面で明らかに効いていた。カウンターを食らいそうになった24分の局面では相手を上手くスピードダウンさせてピンチの芽を摘むなど、地味ながらも重要な仕事をこなしていた。試合の分岐点のひとつが、その山口の負傷退場(鼻骨骨折、および左眼窩底骨折)だった。

 やや守備的だった山口に代わって長谷部とボランチを組んだのは、攻撃色の強い原口だった。ヘルタ・ベルリンではサイドが主戦場の原口にハリルホジッチ監督は真ん中のポジションを任せた(昨年6月のシンガポール戦でもボランチで試した)わけだが、以降の試合はだいぶオープンな展開になった。

 ボールテクニックに優れ、縦への推進力がある原口の投入で攻撃は厚みを増した。彼がミドルゾーンでタメを作ってくれるおかげで、DFもオーバーラップしやすくなり、中央からこじ開けるシーンも前半以上に目立った。実際、ハリルホジッチ監督も、原口の攻撃面での活躍を次のように評している。

「彼が入ってからかなりのことをもたらしてくれました。特にオフェンス面ですね。そして、最後(後半のアディショナルタイム)に(ヘディングで)ゴールまで決めた」

 原口投入以降に、4ゴール。そう捉えれば、彼が攻撃面に与えたメリットは計り知れないかもしれない。ただし──。手放しで原口の活躍を称賛できない部分もある。

 それは言うまでもなく、守備面だ。

 事実、日本がシリアに決定機を与えたのは、山口の負傷退場後だ。62分にポストを叩いたM・アルマワスのミドルは、“原口サイド”から打たれている。それ以降もカウンターを食らったのは、中盤でスペースを与え過ぎていたからに他ならない。

 その原因を長谷部のポジショニングと見るか、原口のセカンドボールへの意識の低さととるかは見解が分かれるところだが、いずれにしても60分過ぎ以降は中盤の守備はかなりルーズだった。

 チームの攻撃力が高まるぶん、守備力が下がる──。原口のボランチ起用は、いわば“諸刃の剣”か。

 結果的に無失点で乗り切ったシリア戦では良いところが目立ち、最後の最後でゴールを決めた点も加味し、原口の個人採点は及第点以上の「6.5」としている。

 しかし、相手のランクが確実に上がるアジア最終予選で原口の使いどころを仮に間違えれば、チームが混乱する可能性はありそうだ。
 
 シリアに何度かカウンターを食らいながら無失点で抑えられたのは、山口、長谷部を含む守備ブロックの頑張りがあったからだろう。

 なかでも素晴らしかったのは、GKの西川だ。83分、86分と立て続けに好セーブでピンチを凌ぎ、文字どおり完封勝利の立役者となった。

 また身体を張ったという意味では、終盤の長谷部のブロックも称賛に値した。空中戦で相手に競り勝っていた吉田と森重の両CBも、エリア内でのディフェンスについては悪い出来ではなかった。

 しかし、一度ならず危険な位置からシュートを打たれた点で、最終ラインがバタついた印象もある。吉田もミックスゾーンでは次のように反省していた。

「後半に関しては評価できる部分は少ないですね、無失点で抑えたところだけじゃないかなと思います。ラインコントロールにしても、リスクマネジメントにしても、カウンターに対する守備にしても、あまりに雑な部分が多かったし、僕も含めてイージーなミスが多かった。

ボランチやSBをコントロールしながら、もっとリスクを減らしていかないと、レベルが高くなる最終予選ではチャンスを作られたら失点してしまう。そこは今日まったくできなかったので、満足できていません」

 リスクマネジメントの部分で、日本が課題を残したのは確かだ。吉田は続ける。

「なるべくハセさん(長谷部)は上がりすぎないようにと、SBも(酒井)高徳とかにも抑えて抑えてと言っていたんですけど、結局最後に大きいチャンスを何度も作られて、相手が撥ね返したボールがさぼっていた選手のところに入って、ひたすらカウンターを受ける崩しい時間帯が続いた。ああいうのは避けなきゃいけないですね」

 この日の日本は守備の局面で、シリアの拙いプレーに助けられたシーンが多々あった。シリアの選手が勝手に自滅して、日本ボールになる。そうした“ラッキー”が数え切れないほどあったのだ。

 日本が守り切ったというよりは、シリアのプレー精度が低かったから無失点で乗り切れたとの見方もできるわけで、ディフェンディングサードについては少なからず課題が浮き彫りになった一戦だった。

取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)
 

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