どうすれば、子どもが“読書好き”になる? 藤原和博さんに聞いた

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子どもにもっと本好きになってほしいけれど、なかなか本を読まない。読んでもマンガばかり。無理に読ませたら本嫌いになってしまった……。など、わが子に読書好きになってほしいと悩んでいる親は少なくありません。

“スマホに使われない子・使いこなす子” 藤原和博校長に聞いた

そこで、東京都にて義務教育初の民間校長を務め、この春からは奈良市立一条高校の校長となる藤原和博さんに、わが子を読書好きにする秘伝をお聞きしてみました。

藤原さんは、杉並区立和田中学校での校長時代、生徒があまり来なかった学校の図書室を大改造し、利用者を10倍以上に増やしたという実績の持ち主。

昨年出版した『本を読む人だけが手にするもの』(日本実業出版社刊)では、読書がもたらすメリットとともに、これまで藤原さんが読んできた3000冊以上の本の中からおすすめの50冊が紹介されています。

「本」より「マンガ」の方が良いこともある!?

――ずばり、子どもが本好きになる方法をお聞きしたいのですが。

藤原さん:まず、それには親が本を読むことですね。本当に本が好きな子を育てたいなら、本を読んでいる姿を見せること。

自分が本を読まずスマホばっかりいじっているのに、子どもには「本を読みなさい」と言っても説得力がありません。逆に、親が本を大好きであれば、その好きという気持ちは伝染・感染していくものです。

――うちの子はマンガばかり読んでいる、という悩みも多いようですが……。

藤原さん:和田中学校の図書室でも、改造当初1500冊はマンガでした。図書室の改造については児童文学評論家の赤木かん子さんに監修をお願いしたのですが、その際議論したことで「なるほど」と思ったことがあります。

たとえば野球という分野の不動の名作といえば『バッテリー』(あさのあつこ著)があります。水泳、もしくは飛び込みなら『DIVE!!』(森絵都著)がある。そういう分野で言うと、バスケットを扱った文芸作品といえば、マンガの『SLAM DUNK』(井上雄彦著)なんです。

表現手段が小説しかなかった時代には小説に向かった人たちが、今はマンガに向かっていたり、あるいはマンガ原作者として作品を発表したりしている。今のマンガは映画のように作るので、現代はその分野で一番の文芸作品がマンガになることも十分あり得るんです。

バスケでいえば『SLAM DUNK』はもちろん、車いすバスケを扱った『リアル』もあります。障がいをもった人たちを知るのに、本を読むよりこのマンガ作品の方が理解しやすい。僕はそう思っています。

“本を読まない子”でも心配ない

――今は年間200冊以上の本を読んでいらっしゃるそうですが、学生時代はまったく読まなかったそうですね。

藤原さん:私はいわゆる学校の“課題図書”が嫌いでした。ちっともおもしろいと思えなかった。それで本が嫌いになり、大学までほとんど本を読まずに過ごしました。そんな私が今では3000冊以上の本を読み、読書術に関する本まで書いているんです(笑)。

なので、中高生の頃に本を読まない子が読書をする人にならないとは、経験上言えません。ある意味読まなくて当然。その間マンガやゲームに流れることも当たり前です。

――子どもが読まない時期は放っておけばよいでしょうか。

藤原さん:読まないのも当然な流れではありますが、強制的に読む時間を作り、習慣づけることも有効だと思っています。

最近では多くの小学校が行っていますが、和田中学校では朝の10分間に全員で必ず本を読む『朝読書』を設けていました。もちろん教師も読んでいる姿勢を見せることが必要なので、職員室にいる先生全員に、「なんでもいいので本を読んでください。読んでいる姿を生徒に見せるようにしてください」とお願いしました。

結果として、まったく読書の習慣のなかった生徒の多くが、「強制されたことで本を読むことが習慣されてすごく良かった」と3年後の卒業時に言っていました。

ですから、ある時期は強制することも大事だと思います。でもこれを親がやるのは難しい。学校という、みんなが集まるところでルールとしてやるのが正解だと思っています。

――それでは読まない時期があっても、そんなに心配はいらないと。

藤原さん:僕はそう思います。今の子どもは、やらなきゃならないことが沢山ありますから。

本の置き方だけで、子どもの興味が変わる

毎年大量の本を読む藤原さんは、読後に寄付する本を自宅に本を並べていたら、「そんな本を置いておくと読みたくなるので困る」と、受験生の長女に怒られてしまったそう。

――ということは、家で本が見えるようになっていることも効果があるんですね。その場合、本棚に背表紙だけ見せて並べるより、表紙を見せて置くほうが効果的ですか?

藤原さん:図書室でも本の数を減らし、空いたスペースに本を面出し(表紙が見えるように置くこと)しました。

人間の意識をつかむ効果が表紙にある。だから本屋は売りたい本を面出しする。その手法を自宅でもとってみてください。ただし、背表紙で並べるよりスペースが必要になります。

きれいに並べていなくても、絵本は表紙が「読んで読んで」と呼ぶから、多少乱雑になっていても子どもは見つけますよ。

親が「これ読んだら?」と言うと、特に男の子などは反発してしまう場合もあります。なので、読ませたい本は、さりげなく部屋に置いておく。
以前、私の著書を気に入ってくださった方は、息子さんになんとかこの本を読ませようと思い、5冊買って家中にばら撒いたそうです。それこそ居間だけでなくトイレにまで(笑)。まあ、そこまでしなくていいと思いますが。

――最近、子どもたちのボギャブラリーが減っていると言われていますが、読書は言葉を増やすのに効果がありますか?

藤原さん:私は33歳から本格的に本を読むようになりました。自分に毎日ノルマを課し、読んだ本が300〜500冊を超えたあたりから自分の意見を書きたくなってきたんです。

本を沢山読んだら、「頭が良くなる」とか「教養が高まる」というのはよくわかりませんが、活字のシャワーを浴び、沢山インプットされたことで、コップの水がああふれるように言葉があふれる経験をしました。

今はブログやSNSなど、自分で情報を発信する場がありますが、文章がよくないと読まれません。メールもそうです。本を読むことで、自分の文章を練り上げ、向上させることができる。本を読んだ人が勝つ。そう思います。

幼児期の“読み聞かせ”が持つ効果

――本の読み聞かせは有効でしょうか。

藤原さん:年齢によっても異なりますが、幼児の時の読み聞かせはとても効果があると思います。私は幼児期から小学校低学年まで、毎晩母に児童文学全集を読んでもらっていました。その記憶は“母の音”、“波動”として私の中に入っています。

同じ物語を何度も何度も読んでも子どもは気にならない。むしろ気に入ったストーリーを繰り返し読みたがる。大人にとって意味があるとかないとかではなく、その物語が大好きで、自分を物語の中に投入する傾向があります。

読み聞かせによって読書好きになるとは言えませんが、幼児期の読み聞かせは、これ以上ない道徳教育として有効だと思います。

子どもが夢中になる! 藤原さんおすすめ絵本5

「私も自分の3人の子どもたちに、のべ10年間、200冊以上の本を読み聞かせをしてきました。」という藤原さん。

最後に、藤原さんの3人の子どもたちが繰り返し読んだという、とっておきの5冊を教えてもらいました。
「10年間、子どもたちが飽きずに聞いてきたという実験済みの本」というお墨付きの素晴らしい本ばかりです。

■・『ぐりとぐら』

名作『ぐりとぐら』のシリーズ。のねずみの“ぐり”と“ぐら”が、大きなカステラを作ったり、ごちそうを食べたりするおいしそうな場面も印象的。リズム感のある独特の言葉まわしも人気の秘密です。

■・『ろけっとござる』(『ひとまねござる』シリーズ)

日本ではアニメ『おさるのジョージ』で知られる、こざるの“ジョージ”の物語。

「300回は読み聞かせした本です。子どもたちはジョージに自分を投影して、いたずらしたくてしょうがない気持ちを託ししていたようです。」

■・『バーバパパのいえさがし』

人間に住む家を追われたバーバパパ家族が、新しい家を探す物語。人間の都合で家を壊されるバーバパパたちともに憤慨し、応援したくなる子どもたちも多いようです。

■・『ずーっと ずっと だいすきだよ』

小学校1年生の国語の教科書にも採用されている話。ずっと一緒に過ごしてきた老犬の死が、少年の視点で語られる。「この表紙を見ただけで涙がでてしまいます」と藤原さん。

■・『おしいれのぼうけん』

保育園でいたずらをした二人が、先生に押し入れに入れられ、そこで大冒険をするというストーリー。暗闇の中でのドキドキ感で、子どもの想像力がふくらむ名作です。

これらのすばらしい物語に自分を投入してイマジネーションを豊かにする、そのもっとも効果的な方法は、絵本の読み聞かせだと話す藤原さん。

「バーバパパなど、気に入った絵本を、子どもたちはぬりえとしても遊んでいました。同じ本を2冊買って、1冊は読み聞かせ用、もう1冊は何をしてもオーケーの本と使い分けてもよいかもしれません」。

【藤原和博】 教育改革実践家。東京都初の民間校長として杉並区立和田中学校の校長を務める。元リクルート社フェロー。メディアファクトリーの創業も手がける。 2014年より佐賀県武雄市特別顧問。2016年4月より、奈良市立一条高校の校長に就任。
・『本を読む人だけが手にするもの』日本実業出版社 (2015/9/30)