15人のタイポグラファーが選んだ「お気に入りの文字」

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タイポグラファー15人に、彼らのお気に入りの文字を聞いてみた。日々情熱と愛をもって文字の芸術と向き合う彼らの言葉に耳を傾ければ、普段眺めていた文字も違って見えるはず。

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2/15チャンク・ディーゼル(別名、チャールズ・アンダーマック)は、ミネアポリスを拠点とするタイプファンドリー「Chank Font」の生みの親だ。お気に入りの作品のひとつは、「Adrianna Demibold」書体の大文字の「M」だと言う。

「とてもシンプルな文字に見えるけれど、この文字が、単純なサンセリフ書体を、ほかのすべてのサンセリフ書体から差別化してくれているところが好きなんです。この「M」の側面は、よりリラックスした姿勢を反映するため少しだけ傾斜している。でもほかの「M」はどれも、ほとんど常にまっすぐで、緊張しているようにも見えます。真ん中の部分は、ベースラインまで伸びていて、特別なサポートを提供しているんです。また、わたしはこの「M」がとても幅広なところも気に入っています。まさに「M」のあるべき姿のようです。いくつかの「M」は、ほかの文字のように幅を狭くしようと、お腹に吸い付いていますが、この「M」は余分な幅に自信をもち、ほかの文字よりも幅広であることを誇りに思っているのです」

IMAGE COURTESY OF CHANK DIESEL

3/15タイプデザイン集団Village Typeの共同創設者であるチェスター・ジェンキンスは、大型アリーナ、バークレイズ・センターのために「Brooklyn Sport」と「Sport Stencil」書体を作成した。

2007年、Pentagramのマイケル・ビーラットは、アトランティック・ヤードの再開発プロジェクトで使用する書体シリーズをデザインするために、ジェンキンスを雇った。「(設計を手がけている)フランク・ゲーリーがつくった完成予想図の記憶をもとにスケッチしました」とジェンキンスは言う。プロジェクトのなかで最初に完成したのは、アリーナの「Sport」フォントの通常版(Brooklyn Sport)とステンシル版(Sport Stencil)だった。

「スペースが狭くて、何のごまかしも効かない、書体の最も重い部分をステンシルにする挑戦が特に楽しかったです。ステンシルは、スタイルではなく機能性のためだった。「Sport Stencil」の全文字のうち、わたしのお気に入りは「k」です。ほとんどの部分では、わたしは字形の非ステンシルデザインにこだわったりましたが、鏡面写しになった三角形を作成するため、傾斜した筆遣いを微調整しました。ちょっと細かいところですが、ここに幸せを感じるのです」

IMAGE COURTESY OF CHESTER JENKINS

4/15Terminal Designのディレクター、ジェームズ・モンタルバーノは、「ClearviewHwy」「Choice Sans」「Kinnney」などをはじめとする数十の書体をデザインしてきた。

描画に関して言えば、モンタルバーノお気に入りのラテン文字は、2つのくぼみがある小文字の「g」だ。「わたしは『g』のこの形に惹かれていて、描くのが難しいと感じたことはありません」と彼は言う。「文字の耳の部分が下のくぼみとバランスをとらないといけないところ、そして耳の部分自身が注目され過ぎないように抑制されなければいけないというところが大好きです」

IMAGE COURTESY OF JAMES MONTALBAN

5/15ア・クワストは、「Chwast Artone」(1965年)「Chwast Buffalo」(1978年)、「Beastial Bold」(1980)などの古典的な見出し書体をデザインした。

「わたしは『A』が大好きです」とクワストは言う。この文字は、1960年代のグラフィックデザインの象徴となっている『Artone Ink』用にクワストが作成したアイデンティティの礎である。「人からは、これがインクの一滴を思い出させると言われてきました。すべての文字が大きな底部をもっているそのスタイルは、アール・ヌーヴォーであり、アルファベットが最初に登場したときは非常に人気があったのです」

IMAGE COURTESY OF SEYMOUR CHWAST

6/15タイプファンドリー、Hoefler&Co.の創設者兼ディレクターのジョナサン・ホフラーは、『ニューヨーク・タイムズ』からグッゲンハイム美術館まで、出版物や施設などさまざまな用途のために書体をデザインしてきた。

「新しい書体を描くとき、またはH&Co社でデザイナーと開発を行うとき、好きな瞬間は常にアンパサンド(&)を考えているときです。これは常に冒険なんです。最も保守的な書体でさえ、気まぐれなアンパサンドのひとつかふたつに聖域を設けています。3つかもしれません。わたしはそれを過剰に描くことで知られているんです」と、彼は話す。
PHOTOGRAPH COURTESY OF H&CO

7/15イラスト、書体制作、レタリング、アイコンデザインなどを手がけるダニエル・ペラビンは、「Anna」「Tiki」「Hi Fi」など十数個の見出し書体をデザインしてきた。

「わたしは、文字をスタイルではなく、人間に力を与える方法として考えています」と彼は言う。「砂中に書かれたルーン文字から、地下鉄の階段の上にあるピクセルまで、すべての文字の具象化は、わたしたちが前進するのを助けてくれました。まだお気に入りと言えるものはありませんが、コンテンツを質を高め補強する、装飾的で新しい書体をいちばん評価します。1800年代後半から1950年代半ばまでの字体は、わたしにとって最大のインスピレーションをくれるものですが、ウィーン分離派以降のすべてのデザイナー同様、わたしはこれまで存在していなかった形をつくっているふりをするのが好きです」

IMAGE COURTESY OF DANIEL PELAVIN

8/15同名のスタジオ、Mark Simonsonの創設者のマーク・サイモンソンは、「Coquette、Felt Tip」シリーズ、「Proxima Nova」など数十のフォントをデザインしてきた。彼の好きな文字は「S」と、セリフ(訳註:文字の端にある小さな飾り)付きの「E」だ。

「セリフ付きの『E』は、暇なときに何度も何度も描いてしまう文字です。基本的な形は、単に水平方向と垂直方向のストロークで、そのほかにもあらゆるセリフの形で遊べる。文字はわたしにとって、いろいろな表情をもつ顔のようなものです。大文字の『E』は右に向かっていて、深刻な、かつ威厳のある表情をしています。また、『E』は英語やほかの多くの言語のなかで最も一般的な文字でもあるので、この文字の見え方は、書体全体の見た目に大きな影響を与えます」

「『S』は最も美しい文字であり、うまく描くのがいちばん難しい文字のひとつです。形相的にみると、この文字は『E』の対極にあります。通常『S』はすべてが曲線で、直線がないのです。とてもシンプルな外見をしています。コンパスを使えば描けるじゃないか(2つのつながった円だ)と思う人もいるかもしれませんが、それでは正しく見えません。最も幾何学的に見える『S』でさえ、そうした方法では描けないのです。『E』と同様、この文字は右に向いています。その表情は遥遠で、かつ優雅であり、いくつかのスタイルでは、長く流れる髪をもっているように見えます」。上に表示されているのは、それぞれサイモンソンの「Bookmania」と「Kinescope」書体で書かれた「E」と「S」の文字だ。

IMAGE COURTESY OF MARK SIMONSO

9/15ソフィー・エリノア・ブラウンは、オーストラリア出身のカスタムレタリング・アーティストであり書体デザイナーだ。「ほかの熱心なデザイナー同様、わたしもアンパサンドに惹かれています。『Q』のように、その汎用性がわたしを惹き付けるのです。謙虚なラテン合字として始まったこの文字は、いまや大きく異なる数多の構造を通して表現さ​​れています。このような文字はほかになく、そのためアンパサンドが楽しく遊び心満載なものになるのです。ユーモアのセンスがない、字体復元中毒のわたしは、アンパサンドで言葉遊びをすることに熱を入れました。例えば、『yes-we-can-persand』、『rubber-band-persand』、『cyan-persand』、『amper-santorini』などなど……。」

IMAGE COURTESY OF SOPHIE ELINOR BROWN

10/15ピーター・ビラックは、オランダのタイプファンドリー、Typothequeを設立した。彼の多くの書体のうちでもよく知られているのは「Fedra」だ。ビラックのお気に入りの文字は、彼が現在開発している書体になかにあると言う。この「AE」は、Typothequeが今年後半に完全公開を予定している「Uni Grotesk」というデジタル書体からのものだ。「これは、1930年代の『Czech grotesk』の発展型で、いまのところわたしがいちばん好きな文字ですね」

IMAGE COURTESY OF TYPOTHEQUE

11/15タイプファンドリー、Hoefler & Co.で長年デザイナーをしてきたサラ・ソスコルネは、「Sentinel」「Chronicle」「Tungsten」のフォントデザインを手がけてきた。「基本的なアルファベット以外にも、別の楽しみがこのなかにはあります。描くのが大好きな文字はエスツェット(ß)、ドイツ語の鋭いエスです」と彼女は言う。

「この文字は、ほかのラテン語の小文字よりも広い空間を占めるので、非常に広々しているように感じるかもしれません。しかし、その空間内ではいろいろなことが起こらなくてはいけません。また、この文字は十分な非対称性があります。すなわち、ベースラインから直線で立ち上がり、fの左半分に似たような形をとり、それからずっと、fがこれまでとったこともないような空間を使って、盛大に右に向かって伸びる。そして、もっとユニークな右側では、丸いふくらんだり、角ばったり、つながってみたり、またはそれらを組み合わせた形など、無数の形状をとる可能性があります。いまのところ、わたしのお気に入りは連続型、すなわち一連のターンと宙返りを含むしなやかなカスケードです。相互に流れる緊張のバランスをとるのにかなりの規律を必要として、これがこの文字をラテンアルファベットのなかで最もジェットコースターに近いものにしているのです。読む、描くの両方の面で」

上は、H&Coのライブラリで見つけた10個のエスツェットの例だ。

IMAGE COURTESY OF H&CO

12/15Monotypeの元クリエイティヴディレクター兼アーキヴィストだった、書体デザイナーのダン・ラティガン(別名ウルトラスパーキー)は、自分の袖にはお気に入りの文字を入ったものを着る代わりに、腕に消えない入れ墨を彫っている。

彼の左三頭筋にある「z」を見てみよう。これは、1972年にLetrasetが発表した、フランソワ・ボルターナの表示スクリプト「Stilla」由来だ。ラティガンは、これを彼がこれまでに出会ったなかで「最も魅惑的な『z』」と呼ぶ。

「『Stilla』は、大胆な活気と繊細な細部をもつアルファベットで、一度に2または3つ以上の単語に使うのは非常に難しいことがあります。わたしにとっては、すべての字形のうち「z」(と、同様に大文字の「Z」)が、異彩を放つ文字です。豊富なエネルギーとコントラスト、細かくも完全なストロークが非常に完璧なバランスを保っている。「Stilla」のほかの文字の一部は妥協のように感じることがあるが、『z』は傑作です。」 ダン・ラティガン

IMAGE COURTESY OF DAN RHATIGAN

13/15ブラジル生まれのタイポグラファー兼グラフィックデザイナー、ヨマル・アウグストは、「Global Heavy」という書体をデザインした。彼のお気に入りは、大文字の「R」だ。「縦、横、対角線と、丸い形を組み合わせた、大文字ファミリーのほぼ全DNAを有していて、信じられないほどの力をもっています」と彼は言う。上に示したのは、アウグストの「わたしの地図のすべて(All About My Maps)」プロジェクトからのレイヤー付きの「R」だ。

IMAGE COURTESY OF YOMAR AUGUSTO

14/15マイケル・ドレは、カスタムレター作家兼書体デザイナーで、Alphabet Soup Type Founders創設者でもある。彼は、「Power Station」「Dynascript」「Metroscript」などの書体をデザインした。「わたしはいままで、アンパサンドが群を抜いて面白い文字だと思ってきました。まるでわたしたちが自由に創造することができる白紙のように、アンパサンドのねじれや曲線は、ほぼ無限のデザインの多様性を可能にするのです。しかも、読みやすさは特に問題になったことがないようです」

IMAGE COURTESY OF MICHAEL DORET

15/15ザビエル・デュプレは、フランス生まれの書体デザイナー。彼は「FontFont」と「Emigre」のオリジナルを作成した。東南アジアを拠点とする彼は、カンボジアのクメール語書体もデザインしている。

デュプレは、「ITC Mendoza Roman」を20世紀で最も美しいフランス語書体だと考えており、お気に入りは小文字の「a」だ。「強いインパクトがあり、バランスがとれています。輪郭の外側部分は非常に男性的かつ攻撃的で、左部分に濃い膨らみがあり地面にまっすぐ深く足を下ろしているけれど、角はなく、すべて丸みを帯び、女性的で、閉じた輪郭は非常に打ち解けた様子です。」ホセ・メンドーサとアルメイダは、1990年にこの書体をデザインした。「傑作です」とデュプレは言う。

IMAGE COURTESY OF JOSÉ MENDOZA Y ALMEIDA

「好きな色は何色?」「鉛筆・ペン・ブラシは何を使ってる?」という質問に次いで、アーティストが聞かれる最も陳腐な質問は何だろうか? わたしは、好きな字の形を聞かれたら、書体デザイナーは退屈するだろうと予想していた。

しかし、それは間違っていた。書体やレタリングのアーティストたちは、特定の文字を描くことを楽しむだけでなく、自分の好みについて話すことも楽しんでいるようだ。

書体、レタリング、そしてカリグラフィーのデザイナー15人に、自分の好きな字形(自分の作品か他人の作品かは問わない)と、なぜその字形に惹かれたのかを説明してもらった。彼らの答えは、文字をつくるという繊細な芸術に対する楽しい洞察を与えてくれ、またタイポグラフィー好きは書体の話をするのも大好きなのだと確信させてくれた。

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