都内を颯爽と走る高級車を横目に、あんな車に乗っているのはどんな奴なんだろう、と思ったことはないだろうか。ポルシェ君Iを皮切りに、これまで都内の高級車オーナー7名のプロファイルを明らかにしてきた。彼らに共通していることは何か?

ハイエンドカー好きな筆者が彼らとドライブデートに行った会話から、彼らの人生観・仕事観・恋愛観を浮き彫りにしていく。「花より高級車」最終話は、アストンマーチン DB9 ヴォランテオーナーに密着する。


セレクトショップ「R&Co.」社長・アストン君(年齢不詳)

「親父は父親としては尊敬しているけど、男としてなりたいとは思えなかった。真面目で子供の為に自己犠牲まで出来るけど、不器用で遊び心が無い。そんな人でした。だから、親父に似てるって言われることが昔からコンプレックスだったんです。」

光沢のある黒々としたアストンマーチンDB9ヴォランテで表参道ヒルズ前に乗り付け、リックオウエンスのWライダースジャケットを羽織り、コンバースのスニーカーで外したファッションは、“西海岸風な力が抜けたラグジュアリー”を意識したコーディネートだそう。年齢は40歳くらいだろうか。左手首にはパテック フィリップの時計が光る。

慶應義塾大学を卒業後、プロゴルファーを目指して単身渡米。留学中に古着やスニーカーの魅力に目覚めたのをきっかけに現地で買付けをし、大阪のアメリカ村や裏原宿の小売店へ卸しの仕事を始めたのが、アストン君が経営するR&Co.(アール&コー)の原点だ。帰国後、地元和歌山県で露天商からスタートし、店舗数を拡大。現在は表参道ヒルズやヴィーナスフォートにまで店舗を展開しており、400近くのブランドを取り扱う大手セレクトショップにまで成長させた敏腕経営者だ。

アストン君をひとことで表すなら、「趣味と遊びをとことん突き詰めた生粋の仕事人」だろうか。東京カレンダーのコンセプトでもある、「忙しい人ほど、遊んでいる」を体現するような人物だ。

「仕事では、面白いか面白くないかが一番大事。『儲かる話ないですかね?』って相談されることもあるけど、儲かる話はどうでもいい話ばかり。僕は何も、儲けようと思ってやってるわけではない。」

18年間経営に従事する中、最初の6年はは借金の返済に追われていたと振り返る。完済後、これまで10年近くに渡って無借金経営になるまでモチベーションを保ち続けられたのは、単純に楽しいと思えるものを妥協することなくやってきたからだと言う。


グレていた中学時代。「慶應に入ったら1億円やる」と親に言われて・・・

こうと思ったら周りが見えなくなってしまう程集中してしまうことが自分の強みでもあり、悩みでもあったと言うアストン君だが、それを物語るエピソードがある。

中学3年生まではかなり「悪かった」ようで、両親に苦労をかけたというが、ある時「慶應に入ったら1億円やる」と言われた言葉にやる気のスイッチが入り、猛勉強の末、現役合格。1億円とまでは言わないものの、実際に大学5年間の生活費を稼ぐつもりでやったと言う。「ビリギャルみたいな感じです(笑)」と茶化す。

「親父と俺は違うんだっていう考えもあったし、人と同じであることも嫌だったんですよ。大学を卒業して一般企業に就職することは微塵も考えなかった。だからゴルファーとか、ギタリストとか、ちょっと違うことをしたかったんです。実は、一時期プロゴルファーの通訳の仕事もしてたんですよ。」

―ところでアストン君って、一体何歳なの?肌ツヤもよくて本当エネルギッシュですね・・・

「秘密!まあ、こういう性格もあって、恋愛はなかなか上手くいかないんだけどね。結婚したいよ。(笑)」と声を潜める。



【連載総括】高級車オーナーは、2パターンに分かれる!?


「自分が一番」という女性とは、ぶつかってしまう(笑)


サンローランの新作のTシャツに、コディ・サンダーソンのシルバーバングルを自然に着こなす彼の第一印象は、たしかに二子玉川にいそうな家庭的な旦那さんの典型とはかけ離れているが、それもまたアパレル業界の第一線にいる彼の魅力だろう。どんな女性がタイプなのだろうか?

「見た目で勝負していない素朴な人がいいんです。別にモデルみたいな美女を求めているわけでもなくて、綺麗になろうと努力している人に魅力を感じます。自分が一番っていう人だと、僕の性格とぶつかっちゃうから…。僕は恋愛では色々苦労してるんですよ(笑)」



―そうなんですね(笑)ところで、アストンマーチン好きで知られてるようですけど、どんなところが魅力なんですか?最近は「007 スペクター」で10台しか製造されなかったDB10が話題になりましたよね。

「エンジンをかけると、アストンマーチン車のメーターパネルには《パワー、ビューティー、ソウル》の文字が1つずつ表示されるんです。僕は、最後の『ソウル(魂)』にやられました。もちろんフェラーリとかランボルギーニも好きですよ。でも、アストンマーチン車はその3つを兼ね備えてる。洗練されたフォルムの上品さも好きです。」、と惚れ惚れした表情で語る。

今春には、一途にアストンマーチンの新車に買い替え予定だとか。DB9 GT ヴォランテかDB11で悩んでいるという。




高級車オーナーは2パターンに分かれる?


これまでアストン君を含め8名の高級車オーナーと会ったが、彼らは「持てるから持つ男」と「ステータスにこだわって持つ男」の2タイプだ。

前者にはあまりこだわりはない。後者は内装やホイールに自分の美的センスを発揮させたがる。ランボルギーニ君が「持ち運びが出来る最高級品」と言うように、どんな買い物よりもその人の価値観や美意識が顕著に現れるのが車だ。生き方や仕事にこだわりのある人ほど、車への思い入れも強い。

アストン君は力強い目線をこちらに向け、自身の信念を語ってくれた。――「心が動かなければ行動には繋がらない。」

「経営者として、何もないところに道を作っていくには、最終的に自分が責任を取るしかないという覚悟は必要です。でも、自分のテンションを高められるか、心が躍るか、感動出来るか、その感動をお客様に伝えられるかが全ての原動力なんです。」と目を輝かせる。店舗の内装も自社ブランドのデザインも一切外注はしない、と細部にまでこだわる。

「都内に住んでいるとテンションが上がることなんて段々と減っていくもんです。それでも、次のことをしないと自分のテンションを上げていけない。だからこそ、過去よりも今、今より先を見ていくんです。」と語る。

《パワー、ビューティー、ソウル》の3つを得たアストン君、今後は店舗を海外展開させるべく、いざアクセルを踏もうとハンドルを握ったところだ。


高級車は、「持てる」男を翻弄する「魅惑の女」


都内の高級車オーナーたちを全8回に渡って特集してきたが、彼らは日本社会のピラミッドの上層、いやトップに位置する人たちだと言っても過言ではない。

彼らを惹きつける高級車の魅力とは、単に移動手段としてだけでなく、そのブランド独自のデザインの美しさ、完璧を追求する技術者のプライド、ブランドのストーリー性、そしてオーナー自身の自己表現の1つとも言える。

「誰もが憧れる車に乗れる」という自尊心を支えてくれるもの、相棒のような存在、生活のスタンダードを落とさない為の持ち物のように、車と男たちの関係性もそれぞれ異なる。

しかし、彼らの物欲と独占欲を刺激し、限られた者しか手に出来ない、美しさを追求した高級品であるという点では、高級車とは、「持てる」男たちを翻弄する「魅惑の極上女」に近いのかもしれない。

その魅力に酔いしれて、彼らは今日も東京の街を疾駆する―――。




【過去にご紹介した高級車オーナーたち】

vol.1:育ちの良さは隠せない。持てる男の余裕「ポルシェ911」
vol.2:「ベンツAMG SL65」オーナーが求める極上の女像とは
vol.3:「フェラーリ 458スパイダー」オーナーが頂点を極めた先に見る景色
vol.4:「BMW M3」オーナー、M3的女子に翻弄される!?
vol.5:「ランボルギーニ ガヤルドスパイダー」オーナーが語るGACKT様的美学
vol.6:「住んでる世界が狭いよ」ポルシェのオーナーが、港区の物質主義に物申す!?
vol.7:「東京を味わい尽くしたマセラティ君、世界の大海を知らず」