ここ最近、視聴率でも話題性でも勢いのあるテレビ東京だが、テレビ東京系列といえば「一部地域で見られない」というイメージがつきまとう。そのテレビ東京系列のテレビ北海道(TVh)がこの12月22日、念願の「全道ネットワーク」を完成。北海道全域で見られるようになった。

開局したのは、根室・根室花咲・羅臼・羅臼緑町・霧多布・中標津西町・夕張清水沢の7つの中継局。これらの開局によりテレビ北海道は、人口比で北海道の99.9%をカバー。1988年8月に設立されたテレビ北海道は当初「十年がかりで全道カバーを目指す」として、1989年10月に札幌圏のみで放送を開始、それから26年。計画よりも16年遅れての全道カバー達成となる。

ここで疑問なのが、広大な北海道をカバーできるほどの体制であるテレビ東京系列が、なぜ依然として仙台、静岡、新潟、広島、熊本といった地域で見られないのかということである。もちろん、一番の理由としてはそれらの地域の放送免許が無いからなのであるが、なぜ、テレビ東京系列はそれらの地域に進出しようとしないのかを元関係者などに聞いた。

テレビ局の系列とは何か


5つの民放キー局が現在、47都道府県中どれだけを系列局でカバーできているのかを見ると、以下のような状況だ。

・日本テレビ系列 29局/45県(宮崎・沖縄をのぞく)
・TBSテレビ系列 28局/45県(秋田・福井をのぞく)
・フジテレビ系列 27局/43県(青森・山梨・山口・大分をのぞく)
・テレビ朝日系列24局/40県(山梨・富山・福井・島根・鳥取・高知・宮崎をのぞく)
・テレビ東京系列 6局/14県(北海道・関東・愛知・大阪・岡山・香川・福岡・佐賀のみ)
※佐賀県と徳島県は隣県の局が見られるものとした
※クロスネット局はメインネットのみを系列とした

ケーブルテレビの区域外再送信(エリア外配信)を考慮すれば、4大キー局はほぼフルカバーできていることになる。一方で、テレビ東京系列がカバーできているのは14都道府県にとどまる。しかし、テレビ東京系列はこの6局によって「全国世帯の約7割をカバーしています」としており、「効率的なネットワーク」を売りにしている。一体何が効率的なのだろうか?実はその「効率的」という言葉に、テレビ局の「系列とは何か」が隠れている。

元関係者によると、系列とはもちろん、全国の取材網や、番組を届けるという意味合いも大きいが、その根幹にあるのは「ネットセールス番組」だそうだ。ネットセールス番組とは、キー局が一括して全国二十数局分のCM枠をスポンサー企業に販売し、製作費と電波料を受け取るもの。地方局はキー局からの番組をCMも含めてそのまま流し、「ネット保証金」というお金をキー局から受け取れる。

ネットセールス番組のスポンサーは、4大キー局に二十数局分のCM料金を支払うことで、それぞれ40県から45県、ほぼ全国で同時にCMが流れるというわけだ。一方のテレビ東京系列は6局。6局分のCM料金で全国約7割に届く。3割強では見られないものの、二十数局に比べれば6局は格段に安く、スポンサーにとって「効率的」というわけである。この効率の良さも、テレビ東京の差別化のひとつだ。

かつてはキー局の「国盗りゲーム」だった


しかし、4つのキー局が全国をカバーできるようになったのも1990年代以降の話。それ以前は全く状況が異なり、地方には2〜3局しかテレビ局が存在せず、今よりも地方局の力が強かった。

東京は5つ、地方は2〜3しかテレビ局が無いという状況は、キー局による地方局の奪い合いを生んだ。キー局はスポンサーに対して「全国隈なくCMを届けられる」ことは大きなアピールポイントであり、「地方局をわが系列に」と、キー局が国盗りゲームのように躍起になり、また、地方のテレビ局そのものだけでなく、地方局の番組枠をキー局が奪いあった。キー局による地方局の接待も多かったそうだ。

番組枠の奪い合いの結果、地方では同じテレビ局で日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日の番組が放送されることも多く、それぞれがネットセールス番組となっていた。つまり地方局は、複数のキー局からスポンサーつき、CMつき番組が次々と持ち込まれ、ローカル番組をそれほど製作せずとも番組枠は次々と埋まり、収益も潤った。

しかし、この体制に終止符が打たれる。

全国4局化政策によって起きたこと


1986年、郵政省(当時)から情報格差是正施策として「民放テレビ全国四波化」計画が出される。当初の目標であった、全47都道府県の4局化は達成できなかったものの、バブルの波に乗って、4大キー局は、ほぼ全国をカバーするに至った。

これにより、地方局を取り巻く状況は一変した。4つのキー局に対して、地方のテレビ局も4つ。地方局の番組枠もスッキリし、収益も平準化してしまう。地方局は、キー局からもらえるスポンサーつき番組が少なくなった一方で、ローカルスポンサーを開拓し、自前で番組を製作・確保することを迫られるのだが……。

地方では、少ないパイを巡って地方局の営業競争が激化。地域によっては、ラジオCMよりもテレビCMの方が安くなってしまったところも。その状況下で、ローカル番組の充実を図るのは難しい。この四波化政策は、発言力の強かった地方新聞母体の地方テレビ局を弱体化させるためだったという噂話もあるほどだ。

一方のテレビ東京は、この施策からは除外されていたが、同様にバブルに乗っかり、大阪、愛知、岡山・香川、北海道に系列局を設置。1991年TVQ九州放送(当時はTXN九州)の開局によって現在の体制となる。その後も、仙台、広島などへの系列拡大を画策してはいたのだが、地方の全国4局化が思わぬ作用をもたらす。

テレビ東京のジレンマ


キー局からスポンサーがついてくるネットセールス番組の量は決まっており、地方局がかつて、複数のキー局のネットセールス番組を放送できたということは、逆に言うと、一つのキー局のネットセールス番組では、地方局全ての放送時間を埋めるに到底足りない。かといってローカル番組を増産する資金もない。90年代後半、相次いで4局化が実現すると、地方では、番組枠に穴が空き始めた。

ちょうどその頃、かつては「番外地」と呼ばれたテレビ東京に人気番組が誕生する「開運!なんでも鑑定団」や「TVチャンピオン」などである。すると、テレビ東京系列のない地域の、他系列の地方局は、これらの番組を放送するようになる。

テレビ東京からスポンサーがついてくるということはほぼあり得ず、地方局はテレビ東京にお金を払い、番組を「購入」している。それでも、ローカル番組を製作するよりも安く、東京で高視聴率の番組ということでローカルスポンサーへの営業もしやすく、重宝されることとなった。現在では、テレビ東京においてこの他系列局などへの「番組販売収入」は、地上波全体売上の5%弱を占めている。

ここに大きなジレンマが生まれてしまった。テレビ東京の商売とは……。

放送免許をもつ14都道府県では、スポンサーからお金をもらって番組を製作し放送するという「放送局」としての商売
→テレビ東京は、系列テレビ局にお金を「払って」番組を流している(関東は自社)

残る33府県では、他系列・独立局に番組を売る「番組製作会社」としての商売
→テレビ東京は、地方テレビ局に番組を売ってお金を「もらう」商売をしている

14都道府県と33府県で、正反対のビジネスをしているのだ。

北海道は、もともと全域でテレビ東京系列が映ることになっていたが、実際には、資金の問題から中継局の建設が遅れ、26年かけてようやくそれが達成されたという話。

一方で、広島や仙台など、テレビ東京系列が存在しない33府県への進出となると、現在、地方局からお金をもらっている地域で、それを放棄したうえで、お金を払うテレビ局を、お金をかけて作るという形になってしまうのである。そもそもが、差別化として14都道府県でしか映らないことを「効率的」な「メリット」としている。また、どうしても全国隈なく放送したいというスポンサー向けには、テレビ東京系衛星テレビ局のBSジャパンという選択肢もある。このジレンマが解消されるか、余程の大きな決断がない限り、残念ながら、テレビ東京系列の拡大は難しそうだ。過去に、地デジ完全移行に合わせてテレビ東京は2007年、京都・兵庫・宮城・静岡・広島などへの進出構想を発表したことがあったが、棚上げとなっている。
(川合登志和)