アリエン・ロッベン(バイエルン/オランダ代表)、クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード/ポルトガル代表)、リオネル・メッシ(バルセロナ/アルゼンチン代表)のように、アウトサイドにポジションをとるFWが多くの点をとる時代になっている。武藤嘉紀も、得点を決めるサイドアタッカーとして頭角を現してきた選手といえる。
※4月26日時点で、ロッベンはブンデスリーガで17得点。ロナウドはリーガ・エスパニョーラで39得点、メッシは36得点。

 武藤は昨シーズン、J1デビューをするとルーキーイヤーで13得点を決め、新人のシーズン最多得点記録に並ぶ結果を出した。

 彼の最大の特徴は、90分間パフォーマンスのレベルが落ちないことだろう。攻撃だけでなく、守備でも献身的にハードワークができる。そして、気持ちの上下がなく、集中力を維持できて、バランスがとれているアタッカーだ。スピードがあり、スプリントを何回も繰り返すことができるスタミナもある。

 また、FWは、喜怒哀楽を表に出して感情的になってしまう選手が多いものだが、武藤は常に冷静で、自分のリズムでプレーできている。メディアへの受け答えと同じように、プレーもスマートだ。ゴールに向かっていくアグレッシブさはあるが、ウルグアイ代表のルイス・スアレス(バルセロナ)のような荒々しい選手とはタイプが少し違う。ボールタッチが柔らかく、元フランス代表のティエリ・アンリのような雰囲気がある。

 今年はJリーグ2シーズン目で、マークが厳しくなって苦労するかと思ったが、ここまで5ゴール(7節終了時点)と、FC東京を引っ張っていく中心選手になっている。昨年よりもスケールアップしている印象だ。

 スピードと技術のレベルアップとともに、ゴールへの気持ちがさらに強くなっている。そして、DFに身体を寄せられても転ばない身体能力の高さがあり、チームで、頭ひとつ抜けた存在になりつつある。この先、ゴールをよりたくさん取っていくことで、自信を深めていけるだろう。どこまで成長していくのか楽しみだ。

 武藤は昨年9月のウルグアイ戦でA代表に初招集されたが、彼にとってこれが初の代表チームでのプレーだった。つまり、年代別代表に呼ばれた経験はなく、選手としては遅咲きといえる。ユース年代から代表に選ばれている同年代の宇佐美貴史とは対照的だ。だからこそ、もっとやらなければ生き残れないという謙虚さを持っている。

 宇佐美を目標のひとりとして追いかけてきた今の武藤の存在は、宇佐美にとって間違いなく刺激になっているはずだ。キャラクターもプレーのタイプも異なる。これまでのキャリアも違う。同世代にこうしたライバルがいることはとてもいいことだ。

 この先、互いに切磋琢磨して成長していってほしい。ふたりは、ハリルジャパンのFWのなかでとくに伸びシロのある選手だ。2トップ、または3トップの1角としての活躍に期待したい。

 最近、武藤はチェルシーへの移籍が取り沙汰されているが、アーセナルのアーセン・ベンゲル監督は以前、日本人選手が欧州リーグで活躍する可能性についてこう言っていた。

「日本人はヨーロッパのリーグで十分通用する。ただ、2、3試合連続して高いパフォーマンスを維持できる体力があるかどうかが問題だ」と。それはつまり、筋骨隆々の外国人選手と渡り合っていけるだけのタフさと身体の強さが不足しているということを意味している。

 その日本人選手のウィークポイントを克服するためには、体幹の強化はもちろんだが、同時にリカバリーとコンディショニングも重要になる。中2日、中3日のハードスケジュールのとき、屈強な重量級の外国人選手よりも、小柄な軽量級の日本人選手のほうが、ダメージを受けたあとの回復スピードが遅い。

 そのため、小柄な日本人ならではの緻密なコンディション調整を、武藤も含めて日本人選手は考えてやっていくべきと思うし、これはこれからもっと研究しなくてはいけない分野だろう。

 そして、武藤に身につけてほしい武器がある。それは、「オフ・ザ・ボールの動き」だ。ボールを受ける前の動きの質の向上、シュートを打つ前の相手DFとの駆け引きのレベルアップがあれば、ワンタッチ、ツータッチでのゴール数が増えていくはずだ。アンリもそうだったが、アタッカーは点を取ることにプレーを特化していくと、ドリブルの回数やボールタッチ数が少なくなっていくものだ。

 さらに、ファインゴールより、どんな形でも点を取ることにこだわってほしい。アマチュアであれば、華麗なゴールを決めることにこだわってもいいと思うが、プロは常に結果を求められる世界であることを忘れないでほしい。

 現在22歳の武藤のほか、ロンドン五輪世代、リオ五輪世代の若い力の台頭が、次の2018年ロシアW杯での日本代表のカギを握っている。武藤が、Jリーグはもちろん、W杯予選など国際舞台で多くのゴールを決めていくことに期待したい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro