チャーハン、野菜炒めが10倍おいしく! 料理別「水分コントロール」のポイント

写真拡大

簡単な料理のはずなのに、なんだか思った通りの仕上がりにならない…。そんなことはありませんか? 私自身、失敗の原因をよく考えてみると、食品に含まれる「水分」の調整に問題があった、という経験が多くあります。

この記事の完全版を見る【動画・画像付き】

そこで今回は、料理における「水分コントロール」に着目。ちょっぴり科学的な視点から、水分の調整に大きく関わってくる「浸透圧」の作用と「デンプン」の性質について取り上げてみたいと思います。

水分のコントロール方法がわかれば、いつも作っていたあの料理を、よりおいしく仕上げられるかもしれませんよ!

では、まず始めに、「浸透圧」についてお話していきましょう。

■浸透圧とは?

簡単に言うと、「薄い細胞膜(半透膜)を隔てて濃度の異なる2つの液体があるとき、濃度の薄いものから濃いものへと移動しようとする力(その際に生じる圧力)」のことです。2つの液体は、最終的には同じ濃度になろうとし、また密閉されている容器の中では、この圧力は高まります。

調理の中では、浸透圧の働きを利用したものがたくさんあります。そして、それに大きく関わっている調味料として知られているのが「塩」(と「砂糖」)。野菜に塩をふって水分を引き出し、しんなりとさせる方法は、この作用の代表例です。

また、逆に、「キャベツの千切りやちぎったレタスを冷水にさらし、シャキッとさせる」という方法があります。これは、次のような仕組みによるものです。

1)外の液体(冷水)よりも、野菜の細胞内の液体濃度の方が高いため、水分が野菜の細胞の中に入ってくる。
2)野菜の細胞が水分で膨張し、組織が冷水によって緊張するため、張りが出て、シャキッとした歯触りになる。

「でも、水につけておいたら、ビタミンCが溶け出すのでは…?」

そうなのです。ここで注意したいのは、「あまり長い間、水に漬けておいてはいけない」、ということ。時間が経って吸水の限界がくると、今度は外の液体と同じ濃度になろうとして組織の液体が外に移動し、野菜に含まれる水溶性ビタミンが溶けだしてしまうのです。

ちなみに、キャベツの千切りの場合、水にさらす時間は、氷水であれば1分ほどでよいようです。冷たい水でないと、なかなかシャキッとしないとか…。
▽キャベツの千切り おいしくシャキッとさせるコツ(日本経済新聞社)

ところで、キュウリの酢の物など、食材を調味料で和えた後、長い時間置いておくと水っぽくなってしまうことがあります。これも浸透圧によるもので、中と外とが同じ濃度になろうとするため、時間が経つにつれてどんどん水分が外に出てくるのです。

「食べる直前に調味料で和える」とレシピに書かれていることがあるのは、適度な水分にコントロールするためなのですね。 

では次に、浸透圧と同様、水分調節に影響を与える「デンプン」の性質について、見ていきましょう。

■デンプンの性質

ごはんやイモ類、麺類には「デンプン」が含まれています。このデンプンは、水分を加えて熱することで水に溶けて粘りが生まれ、「糊(のり)」状に変化します。これを「糊化(アルファ化)」と言います。

デンプンの分子は、何百というブドウ糖の分子が堅く結合して鎖のようにつながっていますが、糊化するとこの結合が崩れ、デンプンの分子の隙間に水の分子が入り込み、膨張します。

一度糊化したデンプンは、放置しておくと次第に粘りを失っていき、生のときの状態に戻ります。これを「老化(ベータ化)」と言います。

このデンプンの性質を知っておくと、「なるほど」と理解できる調理の手順がたくさんあります。

例えば、すし飯。
炊き上がった後、「熱いうちにすし酢を加える」のは、ごはんの中のデンプンが膨張し、水分を吸収しやすい状態になっているからです。ごはんが冷めてしまうと、どんどん膨らみがなくなり、調味料が染み込まなくなってしまいます。従って、熱いうちにすし酢を加え、しゃもじでよく混ぜながら味を含ませるのです。

さらに付け加えると、砂糖には水分を吸収する働きがあり、デンプンの老化を防止する、という働きもあります。(すし飯が冷めても硬くなりづらいのはそのためです)

また、片栗粉はジャガイモのデンプンから作られており、汁やスープにとろみをつけるために使われますが、これも、デンプンが水とともに加熱され、「糊化」することで粘りが生まれる性質を利用したものです。

しかし、水溶き片栗粉を汁やスープに加える際、煮立った状態で入れると、急激に糊化してそこだけ固まり、ダマになってしまいます。「いったん火を止め、片栗粉を加える」ようにするのは、なめらかに仕上げるためなのですね。

また、逆に片栗粉を加えたまま加熱し続けていると、デンプンの分子の鎖が壊れて粘りがなくなり、せっかくのとろみが失われてしまいます。そこで、片栗粉を入れたら「ひと煮立ちさせ、火を止める」ようにします。(片栗粉を加える際は、汁やスープをかき混ぜながら入れるようにしましょう)

では、以上のことを念頭に、定番メニューにおける「水分コントロール」のポイントを見ていきましょう。

■炊き込みごはん

【×】調味料を入れた水の中に米を入れて炊く。
⇒米によく吸水させてから(30分〜1時間)、炊く直前に調味料を加える。

生の米は乾燥した状態なので、水につけると水分を速やかに吸収していきますが、調味料を加えた水の中に生米を入れると、調味料中の塩分が米の吸水を妨げ、そのまま炊くと硬いごはんになってしまいます。調味料は炊く直前に加えるのがベターです。(そのとき、液体として加える調味料分の水分を減らします)

■焼き魚

【×】焼く直前に塩をふる。
⇒まず、塩をふって20〜30分ほど置き、魚の水分を引き出します。魚の身を締めることでうま味が逃げださず、生臭みもとれます。

※白身の魚は水分や臭みが少ないので、塩をふるのは焼く直前でOK

■野菜炒め

【×】調味料を入れて炒める。
⇒塩分によって野菜の水分が出てきてしまうため、調味料は最後に入れる。

野菜は加熱によって繊維が壊れることでも水分が出るので、強火&短時間で一気に炒めるのがポイント。加熱ムラができないよう材料は少なめにし、調味料も一度に入れられるように全部混ぜたものを手元に準備しておくと、炒める時間を短縮できます。

■チャーハン

【×】冷めたごはんを使う。
⇒硬めに炊いたごはんや、冷凍ごはんをレンジで温め直したものを使う。

冷たいごはんはデンプンが老化し、ほぐれにくく、鍋にくっついたまま糊化することで、ダマや焦げつきの原因にもなります。

キャベツやレタスなど水分の多い野菜は少なめにし、「調理の最後に入れてさっと炒める」ようにしましょう。また、「炒める前に、ごはんを溶き卵と混ぜておく」のもひとつの方法。ごはんの1粒1粒が卵にコーティングされ、パラリとした仕上がりに。

■チキンライス(スパゲティナポリタン)

【×】ごはん(麺)を炒め、ケチャップを入れて仕上げる。
⇒ケチャップを入れた後、ごはん(麺)を加える。

ごはん(麺)を加えてからケチャップを入れると、ごはん(麺)がケチャップの水分を吸収し、ベタベタした仕上がりになってしまいます。「調味料を先に入れて水分を飛ばす」のがポイントです。糊化したところに味が染み込んでいくため、チャーハン同様、硬めの温かいごはん(麺)を使います。

いかがでしたか?
理屈がわかれば、よりよい方法で料理を作れるような気がしますよね? 

ここに挙げたものは、ほんの一例なのですが、今日からちょっとだけ「水分」にも注意を向けて、料理に生かしてみてくださいね。

【参考】
『新装版「こつ」の科学 調理の疑問に答える』杉田浩一著(柴田書店)
『料理は科学でうまくなる』平成暮らしの研究会[編](河出書房新社)

・砂糖の性質(国立大学法人大阪教育大学)