台湾南部の屏東県万丹郷に2013年に完成した廟が、道教の主要神やシャカだけでなく、イエス・キリストやアラーの像を祭っているとして、偶像崇拝をとりわけ厳しく禁じるイスラム教関係者などから問題視する声が出ている。廟側の説明は「建設に際して各宗教の神像を共に拝むようにとの神からのお告げがあった」だ。華視新聞網などが報じた。

 インドや中国、さらに古代ギリシャなどでは、神像を作り拝むことが普通の行為だった。仏教は当初、シャカの像などを作ることを戒めたが、後に盛んに仏像を造り拝むようになった。インド古来の宗教や、ヘレニズムというギリシャ文明の伝搬が影響したとされている。

 絶対唯一神を信仰するユダヤ教では、いかなるものを表したものであれ「像」を作る行為そのものを禁止しており、とりわけ神像を設けることは「人知を超越して絶対の存在である神を、可視化することによって人が認知しようと試みる行為」として厳しく禁じている。

 ユダヤ教から派生したキリスト教も基本的には偶像崇拝を禁止。宗派により異なるが、十字架にかけられたイエス・キリスト、聖母マリア、その他の聖人の像については「信仰のイメージを得るための助けにするためであり、像を崇拝するのではない」といった立場だ。

 イスラム教も歴史的にはユダヤ教の系譜に属し、偶像崇拝の禁止が徹底されており、明らかな偶像ではなくとも、「偶像になりうる可能性がある」と見なされるものが否定されている。

 屏東県万丹郷に完成した同廟では、道教が主要3神とする玉清、上清、太清や仏陀だけでなく、イエス・キリストやアラーの像が祭られている。イエス・キリストやアラーの像も道教の神と同様の様式で、東アジア人と比べれば眉毛が濃かったり異国風のかぶりものをしている程度の違いだ。

 廟側は「建設に際して各宗教の神像を共に拝むようにとの神からのお告げがあった」と説明。「宗教の大融和のため」との考えだ。

 訪れた信者は中華圏で一般に行われているのと同様に、香に火をともして奉げて礼拝する。キリストやアラーの像の製作を依頼された彫刻師は「前例がなく、どのような像を作ってよいか分からない」としていったんは断ったが、結局は9カ月という異例の長い時間をかけて完成させたという。

 台湾キリスト教牧師の曾鴻志さんは「キリスト教徒は本来、偶像崇拝をしません。(万丹郷の廟に来る)信者は宗教の大融和ということを固く信じているが、なんだか丸めこまれて皆で拝んでいるようです」と話した。

 中国(中華民国)回教協会の白美玲副秘書長は、「宗教の融和には異を唱えませんが、イスラム教は偶像に反対しています。いかなる信者であれ、神の姿を見た者はいないのです。なのにどうして、アラーの像を作れるのでしょうか。口頭で言っているだけならまだよいのですが、アラーの名を刻んでいたりした場合には、取り消すように抗議することもありえます」と述べた。

 同廟がキリストやアラーの像を設けたことは、東アジア的な「大らか」な宗教意識にもとづくものであり悪意はなさそうだが、他宗教の「厳しい戒律」にかかわることだけに、台湾社会に複雑な問題を投げかけてしまったようだ。

 イスラム教を信じる台湾人は1万人台と推定される。総人口の約2300万人に占める割合は大きくないが、台北、台中、台南、高雄などの主要都市にはモスクが存在する。また近隣のインドネシアから職を求めるなどで台湾に来て長期滞在する人も多い。インドネシアはイスラム教を主要宗教とする国としては世界で最も多い約2億3800万人の人口を持つ。(編集担当:如月隼人)