ボーン・ダディーズのトンコツラーメン。どの店も1杯10ポンド前後(約1600円)の価格設定だ

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今やロンドンで日本食といえば、すしでも天ぷらでもなくラーメンだ。欧州でラーメンの先進地は日本人駐在員が多く住むデュッセルドルフ、そして首都ベルリンを中心としたドイツだった。しかしここ数年、ロンドンで本格的なラーメン屋の開業が続いた結果、イギリスがドイツのお株を奪ったと言っても過言ではない。

ロンドンのラーメンは博多トンコツが中心。日本食品や本、雑貨などを扱う老舗「ジャパンセンター」が開いた「昇竜」、オーストラリア人シェフが立ち上げた「ボーン・ダディーズ」、ロンドン市内に3店舗を展開するすし屋「鶴」が立ち上げた「Tonkotsu」がこだわりのスープと自家製麺を従え、ソーホー地区でしのぎを削っている。

欧州を代表するトンコツで浮かぶのが、2011年にオープンしたパリの「なりたけ」。こちらは背脂チャッチャ系と言われる煮込んだ豚の背脂を加えた濃厚なスープが売り物の関東風トンコツ。なりたけは日本と同じ味を再現して成功したが、ロンドンの各ラーメン屋は日本のものをベースにしつつもロンドンで生まれたもの。ドーバー海峡を挟んで、味も生い立ちもパリとは違ったおいしさがここで展開されている。

昇竜は福岡出身のシェフが作る正統派博多トンコツ。細麺に真っ白なスープが今までの欧州ラーメンのイメージを覆してくれる。面白いことに昇竜は、通常のラーメン屋の他に「昇竜 エクスプレス」というセルフ式のラーメン屋も出している。こちらはスープと麺のみの素ラーメン6.9ポンド(約1100円)に、客がセルフサービス方式でトッピングの皿を選びレジで会計、テーブルで合わせて食すスタイルだ。

「ボーン・ダディーズ」のシェフは「Zuma」「NOBU」という世界的に有名な日本食レストランでシェフを務めていた経歴の持ち主。20時間かけて煮込んだスープの味は3店舗中、一番濃くてクリーミーだ。しっかりした味が好みの人はここだろう。店内もあか抜けており、ラーメン屋というより「ラーメンバー」という英語がしっくりくる感じ。オーストラリア人が作ったラーメン屋だが、日本人が食べても完全に受け入れられるクオリティに仕上がっている。

昇竜とボーン・ダディーズは、しばしば地元紙やブログでも比較されるライバル。例えば英ガーディアン紙は両店を「フード」「雰囲気」「値段価値」の3つの基準で採点しており、10点満点中、昇竜は順に「6点」「6点」「7点」、ボーン・ダディーズは「6点」「7点」「7点」が付けられている。

もちろんTonkotsuも両店に負けていない。18時間かけて作られたスープはボーン・ダディーズよりあっさりしているが、ベースはしっかりしたもの。麺も通常サイズで日本より多め。替え玉も筆者の感覚で日本と比べ約1.5倍の量がある。味・量ともに満足度は高い。店内はボーン・ダディーズが明るい内装なのに対し、Tonkotsuは落ち着いた雰囲気。カウンター席も充実し1人でも気兼ねなく入れる日本のラーメン屋の基本を押さえている。それでいてソーホーという場所柄、オシャレな雰囲気も兼ね備える。

年々、注目度の高いレストランがオープンし、「イギリスはご飯がまずい」という汚名を少しずつ返上しつつあるロンドン。今ロンドンはラーメンについては確実に欧州の味とトレンドを引っ張っている。
(加藤亨延)