涙を流すとスッキリする!? 喜怒哀楽とストレスの関係とは?




感動して流した涙、悲しくて流した涙など、涙といってもいろいろな種類があります。涙を流すとストレス解消になると聞いたことがありますが、タマネギを切っているときに流した涙でもストレスの解消になるのでしょうか。また、ほかの感情ではどうなのでしょうか? 今回は、同志社大学心理学部 余語真夫先生と内山伊知郎先生に、喜怒哀楽などの感情とストレスの発散度についてうかがいました。



■涙で体のことがわかる?



まずは、涙とストレスの発散度は関係しているのか、余語先生にうかがいました。



「赤くないのでなかなか実感がないと思いますが、涙は赤い色(赤血球)が取り除かれた透明な血液です。ですから、血液検査で体のことがわかるように、涙を分析することで、さまざまな心身機能の状態が推測できると思います。



生化学者のウィリアム・フレイ二世は、感情的緊張で分泌された化学物質を体外に排出する役割が涙にあるという仮説をつくり、悲しい泣ける映画を視聴中に収集した涙と、タマネギの皮むき中に収集した涙の成分を比較する実験を行っています。



その結果、映画視聴中の涙には、タマネギの皮むき中の涙より、タンパク質が多く含まれるということを発見しました。そのことから、感情と涙の成分が関係しているということがわかっています」



――それでは、悲しい気持ちや、感動して流す涙のほうが、ストレスの解消につながるのですか?



「悲しみやつらいときには、涙を流して泣くだけでなく、鼻水も増え、鼻腔部と咽頭部の粘膜の表面の潤いが増します。



粘液中には免疫グロブリンAという免疫物質が含まれ、ウイルスなど有害物質が体内に侵入するのを防いでくれるという作用があると思います。



ただ、こうした仕組みの全容はまだ解明されていません。涙があふれてきたらあふれさせておくのが、ストレス解消という意味では良いのではないでしょうか」



■自分にあった「楽しみかた」が重要



続いて、内山先生に「喜び」や「楽しむ」ことについてうかがいました。



「そもそもストレスとは、心に圧力がかかっている状態です。これは悪いことのように思われますが、人間はストレスがないと伸びきってしまうので、ある程度のストレスや緊張感は大事なんです。



ただし、『怒り』や『悲しみ』という感情は『自らの権利が侵されそうになる』ことや、『消失感』から生じます。このようなネガティブなストレスは、できるだけ感じないほうでしょう。



逆に『楽しい』ことは、免疫力が上がるなど健康にもいい影響を与えてくれますね」



――例えば悲しいときに、顔だけでも笑ってみることは、ストレスの解消につながりますか?



「心理学の理論によると、表情がその感情を生むという知見もあります。ネガティブなストレス下でも、笑うことでストレスが多少解消するかもしれません。



ストレス解消法として重要なのは、その人に合っているかということです。例えば、『楽しむ』ことがストレスの解消にいいとしても、一人で楽しむことが好きな人に、大人数で楽しむことを強制したらストレスになりますよね。



このように、『楽しむ』ことや『笑う』ことはいいことですが、人それぞれに合った方法を選択しなければ、ストレスをさらに増やす結果になってしまうと思います」



――私は普段、外に出ることが少ないのですが、たまに散歩などをすると気持ちよく、すごく心が楽になります。



「そうですよね。私もストレスの解消法として、散歩はとてもおすすめします。ただ、これも先ほどと同じですが、いつも外で働いている人に、休日まで外に無理やりつれていくのはストレスです。やはり、それぞれに合ったストレスの解消法を見つけることが重要ではないでしょうか」



■「怒り」では問題は解決しない



――「怒り」についてお二人におうかがいします。

怒ることでもストレスの解消になることはあるのですか?



余語先生「そもそも、怒りを常に経験していることは、健康上よくないと考えられます(高血圧,心臓血管系への負担増など)。また、怒りを発散するために、無難なもの(サンドバッグ,枕など)を殴り続けることを推奨する人もいるようですが、一般的にはそのようなことをしても怒りは消失しません」



内山先生「怒りによってストレスが発散されることもありますが、状況が変わらなければかえってストレスが増すこともあるでしょう。怒りが生じる問題を解決する姿勢が大切です」



――それでは、ネガティブな感情は抑え込んだほうがいいのですか?



余語先生「通常、ネガティブな感情そのものよりも、それを抑え込む努力のほうがストレスです。ネガティブな感情を感じないようにするために、飲酒したり、違法ドラッグに依存したり、リスキーな性行為にふけったり、暴走行為や危険な行為を実行している人々もいます。



確かにそうした行為はネガティブ感情から私たちを解放してくれますが、その効果は一時的なものでしかありません」



■しかってくれる人もストレスを感じている



――誰かに怒られたり、しかられたりすることはストレスにつながると思うのですが、誰かを怒ったり、しかったりすることでも、ストレスにつながりますか?



余語先生「人は相手に非がなくても、一方的に怒ったりしかりつけたり攻撃したりすることもあります(DVや児童虐待、高齢者虐待、ホームレス虐待など)。これらのいずれの場合も、強いストレス反応が生じるでしょう。



一方で人は、親が子どもに、上司が部下に、教師が生徒になど、その相手のことを思い、怒り、しかることもあります。



この場合の怒りは、相手を破滅させるための攻撃ではなく、相手を思っての攻撃です。したがって、自分本位の怒りの場合よりも、相手を思いやっての怒りの場合には相当なストレスが生じます。



自分は相手を思いやってしかっているのに、相手は攻撃されたと考えて報復してくることさえあります。したがって、相手のことを思って怒ったりしかったりするのは、一種の知能戦と考え、冷静に実行するのが賢明でしょう」



内山先生「相手に対して怒ることを我慢すればストレスになるでしょうが、怒った相手の対応によっては、さらにストレスが増すこともあると思いますね」



――最後に、喜怒哀楽のうち、一番ストレスが解消されると思う感情について教えてください。



余語先生「ストレス状態を打破するには、懸案事項は棚上げし、まずは自分が楽しいと思えること、好きなことに没頭するのが良いでしょう。つまり、喜怒哀楽の『喜』と『楽』を感じるようなものごとに集中することです」



内山先生「ポジティブな感情はストレスが発散されます。ネガティブな感情は表出されても、周囲の応答によって、さらにストレスとなることがありますから、状況によるのではないでしょうか」



泣くことや、怒ることなども、状況や方法によっては確かにストレスの発散になるようです。しかし、ネガティブな発散方法だと、つい、つられて過去の悲しいできごとや、感情などが思い出されることも。



やはり、ストレスを発散するには、自分なりの方法で楽しむことが一番。何か悩みがあったとしても、一度それらをすっかりと忘れ、笑ったり、楽しんだりすることが大事なようです。



(OFFICE-SANGA 梅田丸子)