高梨晴美さん(仮名、36歳)
「課長からアサインされた仕事を、部長にすべて取り上げられた」という高梨さんとJR駅ビルの喫茶店で向き合う。話が進むうちに、こちらの微妙な雰囲気を察してか、「私、性格悪い。好き嫌いも激しい」と苦笑してみせた。今は都内で両親と3人暮らし。

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切られたら、真っ逆さまに堕ちるだけ――そんな恐怖を眼前にした、もしくはそれが現実となった3人に話を聞いた。果たして彼らは“お荷物”だったのか?

「とにかく、上司とソリが合わなかったんですよ。意地悪というか陰湿というか」――そう嘆息してみせるのは、ソフト会社SEの高梨晴美さん(仮名、36歳)。

一昨年まで所属した部署で某日、40代後半の上司に書類の不備を咎められ、会議室で1時間お説教。某日、台風の中でタクシーを使ったら、再度会議室に呼び出され、「歩いて帰れ!」。また某日、交通費を請求したら「書き方が違う」と会議室で……。

「会議室好き(苦笑)。男の人なら『いいよー』だけですむのに」

果ては「君に出す仕事はない」とトドメを刺された。仲のいい同僚に「こんなところで仕事したくない」と愚痴っていた矢先だった。

「よく『減らず口』って言われます。他人の好き嫌いは激しいし、人に好かれようとも思いません」

今の部署へ異動後、半年は平穏無事に過ぎた。「すぐに友人もでき、忙しくてもそれなりに楽しかった」という。直属の課長とはソリが合った。

ところが、翌年4月に親会社が組織編制を変え、高梨さんの属する子会社の担当者も他社から転職してきたA氏に代わった。

事実上の実務トップA氏は、「独断専行で、周囲に煙たがられるタイプ」。こちらの人事権も持つそのA氏に、どういうわけかさっそく目をつけられた。書類の“てにをは”にメールで文句をつけられたり、職場でも面と向かって「この子は嫌だ」と言われるなど、高梨さんへの攻撃はエスカレートしていった。

「社内の飲み会で、私の目を見ながら、私が以前勤めていた会社の名を挙げて、『B社の野郎が職場を汚している』と“ゴミ扱い”したんです。私に対してだけそう。きっと異分子が嫌いなんだろうなあ、と思いました」

後で、「あの人にあれこれ言われて病気になった人もいる」と、産業医が教えてくれたという。

昨年、親会社のリストラが終わり、高梨さんの職場にもそのお鉢が回ってきた。対象はヒラ社員だけのはずだったが、係長クラスの高梨さんが呼び出された。

「毎週金曜日の午後、会議室で部長、人事課長と1対2で面接。『君は生産性がないから辞めて』などと言われました」

高梨さんは突っ張った。

「プロジェクトが赤字を出した。辞めろ」

「あなた(部長)の企画なんだから、あなたが辞めればいいじゃないですか」等々、感情的なやり取りが1カ月の間続いた。

「ああ言えばこう言う。しまいには向こうが説得の言葉をなくして、『うーん……』と唸ったまま黙ってしまった。『理にかなってなければすみません』と丁寧に言ったけど、フォローになってませんよね(笑)。人事課長は、私とは目も合わせなくなりました」

リストラは免れたものの、またもや異動。「高梨には仕事を出すな」とのお触れが出て、“社内プー”状態に陥ったという。

しかし高梨さんには、高梨さんしか理解する者のいない電子機器に関する知識があった。国ごとに規格の違いがあって、理解するには複雑かつ英語力が必須。代わりの担当者が、パニックに陥って辞めたほど煩雑なものだという。

「ほかの子がわからなくて聞きにきても、『部長に許可取ってから来てください』と追い返して泣かせちゃいました。当時はやさぐれてましたからねえ」

ほどなくして休職した。現在、転職先を物色中である。

「意味なくここにいてもしょうがないですから。次が決まるまで休むことにして、心療内科で診断書を貰いました。ただの偏頭痛だから、必ずしも心療内科で診てもらう必要はないんですが、こうすれば周りは『ああ、そっち(うつ病)か』と誤解してくれるから」

あと数カ月で休職1年が経つ。強制的に退社となるという。

早く次を見つけねばならない。が、書類選考の段階で20社以上に落とされ、面接にこぎつけた5社も全部落ちた。

「私、性格悪い(苦笑)。気づかないところで上司のプライドをバッサリやっちまってたと思います」

でも、私は他人に悪口は言いますけど、陰口は言いませんよ――笑みは絶やさない。焦っているのか、開き直っているのか……。

※すべて雑誌掲載当時

(西川修一=文 初沢亜利=撮影)