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 最初に両チームの状況を整理しよう。日本は初戦に勝利。モロッコは引き分け。最終節にスペイン戦を控えているモロッコは、この試合に勝たないとグループリーグ突破が危うくなりそうな雰囲気。他のチームに比べると、日本はポイントで抜けているので、引き分けでもまあOKという状況だろう。つまり、必要以上にリスクを冒して攻撃に出る必要はないということである。

 ──最初に前半の振り返りを。

 前半はモロッコのペースだったと思います。ただし、35分くらいからモロッコのペースが落ちました。なので、前半が終わる頃には、日本もいいイメージを持って、ハーフタイムを迎えていたんじゃないかと感じました。

 ──モロッコのペースだった要因は何でしょうか??

 日本が自分たちのアクションによって、試合に影響を与えられなかったことが大きいです。スペイン戦では高い位置からのプレスというアクションによって、試合に影響力を与えていました。モロッコ戦でも、立ち上がりはハイプレスの意志を見せた日本でしたが、モロッコが上手くプレスを回避したことで、なかなか影響力を発揮できなかったと。

 ──日本のプレスを、モロッコはどのようにして回避したのでしょうか??

 最初の手は、ボールを保持しているときにCBのラインを下げるです。日本のFWたちが、どこまで深追いしてくるかを調べるために、わざとラインを下げてボールを保持しました。この行動によって、プレスがはまらないときは、無闇にボールを奪いに来ない日本という情報を手に入れます。

 次にハルジャです。モロッコのCBの間や、横のスペースに移動することで、日本の繰り出すボールホルダーへのプレスの回避を狙いました。ハルジャがCBにおりる→SBは高いポジショニングを取る→日本のSHをひっぱる→空いたスペースでCBが試合を作るというコンボになっています。

 最後にロングパスです。ハイプレス回避の王道です。モロッコにはアムラバトというボールのキープできるCFがいたので、このロングボールもなかなか脅威でした。アムラバトは鈴木を狙い撃ちにすることで、日本のゴールを狙っていました。

 まとめると、ハルジャの動きで試合を作る選手たちの周りにスペースを作る。バラダたちのボールを引き出す動きとボールを持っている選手のアイディアが噛み合えば、ショートパスでボールを運んでいく。咬み合わないときや、それでも日本がハイプレスにきたときは前線に放り込むで、日本の狙いを上手く外していました。

 ──モロッコがボールを持つ時間が長いように感じましたが、日本もDFから攻撃を組み立てる機会が多かったように感じました。それについてはどう感じますか??

 ハイボールとショートパスを使うモロッコですが、攻守の切り替えでボールを奪うアイディアはほとんど見せませんでした。スペイン戦で日本のカウンターの破壊力を見たためか、カウンターを警戒してさっさと自陣に撤退する場面が多かったです。

 なので、日本はボールを持つことができました。日本のビルドアップのパターンはボランチの位置が重要である印象を受けました。山口蛍がCBの真ん中の位置に降りたり、扇原が徳永の位置に下りて、徳永の位置を上げたりといった変化が見られました。ボランチの選手の位置を動かすことによって、周りの選手の位置を通常の位置から動かして、ズレを発生させる狙いだと思います。

 で、そのズレた場所にボールを入れる。清武、大津、東も柔軟なポジショニングを見せていたので、モロッコの撤退した守備陣内にも侵入できそうな場面が多々有りました。ただし、日本もモロッコにカウンターをくらうのは歓迎しない状況です。なので、繋げそうな場面でもボールを蹴っ飛ばしている場面がありました。もちろん、競り勝てる選手はいないので、ここだけちょっとネガティブでしたね。

 ──モロッコは最後のクロスが合えば、、、という場面が多々ありましたが、前半の終盤から勢いが落ちたのはなぜだったんでしょうか?

 モロッコの攻撃はサイドで仕掛けを行う場面が多かったです。サイドの攻撃を担うのは、基本的にはSHとSBです。もちろん、アムラバトやバラダがサイドに流れてくることもありますが。前述のように、モロッコはハルジャを下げて、SBをあげるメカニズムをとっていました。なので、SBとSHから攻撃を上手く構築できていた。

 しかし、気が付けば、ハルジャが降りてこなくなります。理由は不明です。疲れたのかもしれません。こうなると、SBは上がるに上がれません。CBからのパスコースがないわけなので。こうなると、モロッコの攻撃がロングボールが多くなり、個人技による仕掛けが多くなります。個人技による仕掛けを考えれば、アムラバトやバラダが仕掛けた方がいい。だから、サイドに流れる。でも、中央は空でした。

 また、日本も高い位置からのプレスがはまらないのは明白だったので、中盤のラインをよりさげて対応するようになります。これがほぼ同時に起きたので、日本の守備の枚数に対して、モロッコは攻撃の枚数が足りないという状況になります。こうなれば、日本のカウンターが発動しそうなんですが、モロッコは守備の枚数を多く残していたので、そうは問屋がおろさないというやつでした。

 ──後半も序盤は似たような展開になったと思います。

 アムラバトがサイドに配置されたことで、モロッコは全体のバランスが狂っているようにも見えました。恐らくサイドから個で仕掛けることを増やしたかったのだとは思います。ただ、逆サイドに配置されたラビアドは明らかに機能不全でしたし。ときどき狭いエリアで見事なパス周りを見せていましたが、怖さは前半のほうがあったかなと。

 ──日本は前半の途中から大津を中央にしましたが。

 前プレがはまらないので、永井をCFにしてもあまり意味は無いと判断したのかもしれません。SBの裏を狙う意図もあったとは思いますが、個々のスキルの高いモロッコ相手にカウンターのように仕掛ける機会はあまりありませんでした。それよりも大津を中央でうごかすことで、日本らしいアタックを見せたかったのかもしれません。

 ──確かに前線やバイタルエリアでの選手の出入りはさらに流動的になった気がします。

 清武の存在感がましていったり、中央から大津がドリブルで仕掛けたりといい流れはあったと思います。何げに東がバランスをとって、空いたスペースを埋めているのが泣けるところです。

 ──勝たねばならないモロッコは急にハイプレスを発動するなどと徐々にバランスが悪くなっていったように感じました。

 70分には脅威だったアムラバトもいなくなりましたしね。モロッコはリスクを冒す必要があるけど、どのようにリスクを冒すのだというところで、なかなか折り合いが付かなかった印象です。ボールをキープできているから、余計にそうだったのではないかと。

 得点場面はGKのキックを跳ね返してからの清武の裏への放り込みでした。モロッコのDFラインが高いのはキーパーがロングキックを蹴るからで致し方ないところでした。この場面で空中戦に競り勝った選手が
さりげなく大仕事をしたと思います。

 ──永井についてはどう感じましたか??

 山口に通したダイレクトパスやボールタッチが少ない状態でのチャンスメイクは意外に上手いのかなと。逆にボールに触りすぎると、ああみたいな。この試合では得点を入れていなければ、いつもの永井だったと言われてしまうできだったと思います。でも、流れと関係ないところで仕事して評価を上げたのですから立派です。

 ──最後にはピンチもありましたが、何とか無失点で試合を終えました。

 権田を見ていると、止める能力がそもそものGKの本質であることを思い出させてくれます。そこそこ決定機を与えてしまっていたので、調子に乗ることなく守備の課題もしっかり話し合ってさらに良くなるのではないでしょうか。

 ■独り言

 たぶん、試合が始まって、スペインより強い!!と思った人が多いのではないかと。なので、ここを勝ちきれたのはとても大きい。自信を得られるという意味で。フル代表に選ばれた選手が急にJで活躍するというのを何度も目撃しているんだけど、そういう状態に突入すると、チームは強くなる。

 ホンジュラス戦をどうすべきかは微妙なところである。日本がハイプレスを行えなかったのはスペイン戦の疲れが残っているというのも当たり前の話なので、休ませたいところである。でも、休ませてホンジュラスに負ければ、2位抜けでブラジルである。

 ブラジルとやれるのは、CWCで欧州や南米のトップチームと当たれるくらいの貴重な経験になるので、歓迎すべきかもしれないが、1試合でも多くを考えると、微妙である。さて、せっきーはどうするか。