『最強世代1988 田中将大、斎藤佑樹、坂本勇人、前田健太……11人の告白』(節丸裕一著/講談社)
ライバルなのか?仲間なのか? 野球界を牽引する「1988年生まれ」11人の激白インタビュー集。

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絶対エースが抜けたシーズンに監督から“新エース”を託された男。
敵からだけでなく味方からも不安視されながら迎えた開幕戦で、球界のエースを向こうにまわしプロ初完投勝利。続く2試合目もまた相手エースに投げ勝ち、いよいよ高校時代からの因縁のライバルであり、球界No1ピッチャーを迎え撃つ……。
それ、なんて野球漫画? いいえ、今夜のプロ野球・北海道日本ハムファイターズvs.東北楽天ゴールデンイーグルス戦です。

日ハムの18番・斎藤佑樹と、楽天の、というよりも今や日本球界の18番・田中将大の投げあいが今夜、札幌ドームで実現することになった。もっとも、昨年9月10日にも両先発投手による投げあいがあり、そのときは当然というべきか楽天・田中将大が投げ勝っている。昨年までの実績や純粋な力関係を比べれば今回も田中将大がまた格の違いを見せつけてくれそうな気もするが、前回の対戦はあくまでも“序章”だとも思うのだ。シーズン終盤で順位への影響も少ない状況では斎藤佑樹の真価は発揮されないから。挑戦者の立場でこそ奮起し、逆境に立たされてこそ結果を残すのが斎藤佑樹の「持ってる力」。さらには開幕戦の勝利インタビューで「今は持ってる、ではなく、背負ってる」という新たな名言を残し、ますます背中にのしかかるプレッシャーの重さを見せつける斎藤、いやはや期待させてくれるね。
2006年の甲子園・決勝での戦いも、大会3連覇を目指していた王者・駒大苫小牧を相手に“挑戦者”の立場でぶつかり、見事に投げ勝ったのが斎藤佑樹。大学時代もキャプテンとしてチームを“背負った”最終年に見事大学日本一を成し遂げている。逆境に立ったり相手に見下されたときにこそ真価を発揮する、という意味では、今季のこれまでの2試合はまさにそんな状況が続いてきたのだ。

3月30日の埼玉西武ライオンズとの今季開幕戦。「僕は(日本ハムの開幕投手が)武田勝さんだと思っている」と発言して斎藤は眼中にないことを匂わせた西武のエース涌井を見事返り討ちにし、周囲の予想を裏切って勝利をおさめた。
4月6日の千葉ロッテマリーンズ戦。「背負っている男には勝ちたいですよ。相手がダルビッシュだったら0点に抑えないといけないから、絶望感はありますけど」と、暗に斎藤相手なら大丈夫と語ったロッテのエース成瀬に投げ勝ち、開幕2連勝を飾った。

開幕戦を投げるということは、シーズンを通して球界を代表する各チームのエースと投げあう機会が増えることを意味する。そんな相手エースに完全に格下と見られながらも結果的には勝利を掴む姿を見ると、むしろその相手の見下した姿勢こそが“斎藤佑樹の勝利フラグ”のように思えてしまう。では、田中将大には斎藤見下しの“フラグ発言”はこれまでに無かったのだろうか……と思って調べてみたらいくつか見つけてしまった。
まずは去年のオールスター前。インターネット投票による最後の一人の枠に斎藤佑樹が選ばれた際の発言……。

「選ばれたんですか? 驚きました。ところで、最後の1人はどういう方法で選出されるんですか?」

斎藤は“オールスターに選ばれるべき投手ではない”という実感がかなりこもった発言だ。
そして、『最強世代1988』という本の中でも田中将大の次のコメントを見つけた。

「この4年間は絶対埋まらないです。それは自信、というよりも積み重ねですね。」

このコメントは2011年の開幕前に語られた言葉であり、また斎藤佑樹一人に対してではなく大学からプロ入りする同世代の選手たちに向けて発せられた言葉だが、今回のここまでの流れを見るに、どうしても“斎藤佑樹の勝利フラグ”のように感じてしまう。
もちろん、田中将大にしても現在開幕から2戦勝ち星なしと、相手が斎藤だろうが誰だろうがもう負けられない状況だ。それぞれ対照的な背景を背負いながら迎える今夜の対決こそ甲子園決勝以来の真のライバル対決であり、また今シーズンの行方を大きく左右することになるのは間違いない。

『最強世代1988』の本の中では他にも、<マスコミに対して「不信感はない」と言う斎藤><マスコミに対して「不信感はある」と言い切る田中>といった具合に、2人の考え方の違いや野球への取組み方の違いがコントラスト鮮やかに描写されていてむしろ気持ちがいい。著者である節丸裕一氏はWBC決勝の実況を担当するなどの実績を持つフリーアナウンサー。選手の微妙な変化や言葉の端々に表れるプライドの揺れ具合など、アナウンサーならではの“観察力”と“言葉の選び方・抽出の仕方”が他では見られない各選手の素の表情を導きだしている。この本の中では他にも、先日ノーヒット・ノーランを達成した広島の前田健太、昨年の新人王・巨人の澤村拓一や同じく巨人・坂本勇人など、1988年生まれでこれからの野球界を引っ張ってくれるであろうプロ・アマ11人の選手へのインタビューが収められている。各人が持つ野球への信念や同世代への視点などを見比べることで、「ライバル物語」の見方がまた変わってくるのではないだろうか。

プロ野球には不思議と、数年に一度、こうした「最強世代」が発生する。
1988世代の前は「1980〜81年生まれ」の松坂世代(松坂大輔、藤川球児、杉内俊哉、和田毅、村田修一、館山昌平、森本稀哲、etc.)。さらには「1967年〜68年」生まれの桑田・清原世代(桑田真澄、清原和博、佐々木主浩、佐々岡真司、渡辺智男、田中幸雄、入来智、etc.)。古くは山本浩二、田淵幸一、衣笠祥雄、有藤通世、山崎裕之、星野仙一、池永正明を擁する「1946年〜47年」世代もある。こうした世代ごとのライバル関係や盟友関係を知っておくとプロ野球の楽しみ方がまた一段と変わってくるので、ぜひとも押さえておきたいところだ。
ちなみに、1988世代に関しては“ハンカチ世代”や“田中世代”“田中・斎藤世代”と様々な呼称があるが、今後の各選手の活躍によってどの呼び名になるかが固まって行くだろう。これに関して『最強世代1988』の中で斎藤佑樹自身のコメントが載せられていたので最後に引用したい。

「斎藤世代、田中世代、前田世代……それは人がつけるものなので、何世代であってもいいと思うんです。ただ、“ハンカチ世代”だけは違いますよね。自分だけを例えてハンカチ王子、と呼ぶのであればまだいいですが、ほかの選手がハンカチを使っていたわけでもないのに世代をモノで例えるというのは失礼だと思います」

自分の不快感は表に出さず、他者のプライドを尊重しながらやんわり否定する。さすがに「コメント力」が違うなぁ。
今夜の対戦後にどんな言葉を残してくれるのかも、勝敗以上にまた楽しみだ。
(オグマナオト)