右ひざの張りで5月14、15日の東北楽天戦を欠場していた荻野貴司選手が、5月16日に登録を抹消されています。西岡選手のポスティング移籍でショートにコンバートされた荻野選手ですが、ここまでまずまずの数字を残していただけにチームにとって痛い離脱です。さらにロッテはショートだけでなく先発・ファースト・ライトでも故障者が出ています。現状のロッテについて野手を中心に考えていきましょう。





1.遊撃手の収支



 ロッテ編成にとってオフシーズン最大の課題は西岡選手が抜けたショートをどう手当てするかでした。ここにアマチュア時代ショートを守っていた荻野選手をコンバート、外野はドラフトで選手層を厚くして今シーズンを乗り切る戦略だったと思われます(詳しくはポジションの現状と編成の対応〜千葉ロッテ・マリーンズをご覧ください)。





 

 この方針で30試合ほど戦ってきましたが、その内容を確認していきましょう(まだ30試合程度なので、数字を過信しすぎるのは禁物です)。最初に各ポジションの得点貢献についてです。昨年は二塁手・遊撃手(捕手)が大きな得点貢献をしましたが、今季ここまでは二塁手・捕手(右翼手)が良い成績を残しています。特に井口選手はリーグの平均的な二塁手と比べて15.3もの得点(wRAA)を上積みしている計算になります。荻野選手が担当することになった遊撃手は昨年(シーズンで42.7得点の上乗せ)から数字を落としていますが、平均的な遊撃手の攻撃力は備えており、編成が想定したと思われる、マイナスを作らないレベルとしては十分な数字です。昨年大きなマイナスを作ったセンター(シーズンで24.3得点のマイナス)は、攻撃力の向上が見られます。パ・リーグはここまで各センターの打撃レベルが高いですが、それでもマイナスを縮小できそうな内容です。

 攻撃面で誤算だったのは長距離砲として期待していたレフト・大松選手の不振です。指名打者・一塁手でも福浦・金両選手(離脱中)の調子が上がらず、パワーが求められるポジションで苦戦しています。しかし、全体でみるとオフに編成がとった戦略はここまで上手く機能しているようです。







 遊撃手についてもう少し細かく見ていきましょう。下の表はパ・リーグ遊撃手のwOBAになります。荻野選手は実績のあるソフトバンクの川崎選手と同等の貢献をしていたことになります。荻野選手の故障後は細谷・高口・高濱選手が遊撃手を務めていますが、代替選手の攻撃力が大幅に落ち込むと二塁手・捕手で積み上げた得点貢献を吐き出してしまう可能性があります。ロッテ編成の基本戦略が「遊撃手はリーグの平均レベルを維持する」ことがシーズンを戦う前提となっていたら、現在は危機的な状況といえます(おそらくシーズン中に戦略を変更することは不可能でしょう)。そういった意味でも、細谷・高口・塀内・根元・高濱選手などのうち誰かが攻撃面で結果を残さないと厳しい状況になっています。









2.外野手の再編



 故障者の多い内野手に比べて、外野手はここ数年の補強の成果が出ています。サブロー選手の故障と大松選手の不振で、現在はレフト・伊志嶺、センター・岡田、ライト清田選手と若手で外野陣を構成しています。攻撃面ではどのポジションも大きなマイナスを作らず、三人とも似通った成績を残しています。攻撃力のあるサブロー・大松両選手を欠いてもマイナスを作らない選手層は、ロッテの強みといえそうです。ただし、今季はレフト(オリックスのT−岡田選手など)・ライト(楽天の鉄平選手など)で有力打者の不振があり、ロッテにとって幸運な面もあります。そういった選手が不振から立ち直って本来の攻撃力を取り戻した場合は、一気に状況が変わることもあるだけに油断は出来ません。







 外野の補強は攻撃面だけでなく守備でも良い影響をもたらしているようです。ロッテの外野守備はここ数年12球団でもかなり悪い部類で、投手の足を引っ張っていたことが各種守備データから明らかになっています。







 上の表は今季ここまでの打球割合とDER(フィールドに飛んだ打球を処理した割合)、過去2年のゴロ処理率とフライ処理率、さらにそれぞれの年度でリーグの平均と比べたゴロ・フライを処理した数になります(±の項目)。

 まだ30試合程度ですが、ロッテは外野フライの処理が向上している可能性があります。昨年は外野フライの処理でリーグの平均に比べ18.6ものアウトを取り損ねていました。今季はこの数字を大幅に改善し、リーグで唯一7割以上のフライ処理を実現しています(若い選手の守備機会が多くなっているのが要因かもしれません)。リーグの平均的な外野陣に比べ13.1余分にアウトを取っており、余分なアウト一つ分を0.82得点とすると、10程度の失点を防いでいる計算になります。これは外野手全体で記録した攻撃面のマイナスを補うのに十分な働きとなります。もちろん30試合あまりのデータでしかなく、打球に偏りがあって良い数字が出ているだけかもしれないので注意が必要です。

 余談ですが、西岡選手のいなくなった内野陣のゴロ処理率は、ここまでリーグ平均くらいの数字を残しています。ゴロの処理割合に関しては各球団に大きな差があり、これが実力かそうでないかもう少しデータが必要になりそうです(こちらも外野フライも同様ですが)。ただ、ロッテの守備に関して内外野ともに心配するような数字が出ていないのは良いことです。





3.ペナント争い生き残りのために



 現在のロッテは先発投手と内野陣に故障者が相次いでします。シーズンを振り返ったときに、今が最も苦しい時期の可能性もあります。ペナント争いから脱落しないためにも、チーム力の維持を何とか図らねばなりません。投手では成瀬・唐川両投手が健在で、ブルペンも薮田・伊藤・内と戦える陣容です。野手も攻撃面では二塁手・捕手(あるいは右翼手)、守備面では外野手の守備が利得を作ってくれる見込みがあり、それ以外のポジションで大きなマイナスを計上しないことが肝要です。ロッテの状況を見ていると、先発投手陣と荻野選手の代わりを務める遊撃手の出来がそのカギを握っていそうです。