途中出場で得点に絡んだ安田<br>【photo by Kiminori SAWADA】

写真拡大

 東アジア選手権初日、岡田ジャパンは北朝鮮に1−1で引き分けた。引き分けてしまったというべきだろう。不甲斐ない戦いをしたことは間違いない。

 怪我人が多く、ベストとは言い難いメンバーだった。これは事実。言い訳の材料はなきにしもあらずとはいえ、試合内容の悪さは問題視されるべきである。

 開始6分、チョン・テセにクリーンシュートをぶち込まれ、先制点を浴びたにもかかわらず、その悔しさというのが、見る側に伝わってこない。まるで時間稼ぎをするように、バックラインでボールをゆっくりと回すシーンを、何度目撃したことか。先制点を取った北朝鮮が、多少引き気味に構えているからとはいえ、いまどきのサッカーにアレはないだろう。ボールを奪うや、間髪入れずにビルドアップを図るのがリードされている側の常識というものだ。

 それができない理由は何か。闘争心が欠けているように映る理由は何か。パスの出し所がないからに他ならない。攻めに明確な形がないからだ。守備的MFに起用された鈴木の展開能力のなさも悪循環に輪を掛ける。すると、どういう事が起きるか。高い位置で構えていなければならないはずの遠藤が、パス回しにリズムをつけようと、最終ライン近くまで下がってきてビルドアップ役に回るのだ。自ずと、前線は人数不足に陥る。MF陣に幅も欠落する。

 左サイドバックに、本来右サイドバックを務める加地が起用されたこともその一因だ。岡田サンにとってはテストの一環なのだろう。左右のサイドバックを、内田、駒野、加地の3人で回せれば、効率が良いと考えたのだろうが、それは、タレントに限りがあるクラブチームの考え方だ。ポジションの適正が、見るからになさそうな選手に、敢えて任せるくらいなら、新しいメンバーを呼んだ方がよっぽどいい。ワールドカップの大会期間中に、怪我で左サイドバックを失ったわけではないのだ。「本番」までは2年と数ヶ月もある。時間はたっぷりあるのだから、テストもそれに則したやり方で行われるべきである。

 加地の左サイドバック起用には、誰が考えても楽々突破できそうな3次予選を本番と見なしているような余裕のなさを感じる。いまは、畑を耕す時期。この段階でのテストには、何より泰然自若さが求められている。実質5枠もある最終予選にも、そうしたノリで臨むくらいの余裕がないと「本番」でのベスト16入りは狙えない。4年という歳月の使い方を、岡田サンは心得ていない様子だ。

 日本の左サイドの流れは、よって完全に滞った。遠藤、羽生、山岸の中盤も、サイドに開いて構える気はないので、高い位置に幅は全くできなかった。よって、オープン攻撃は利かない。マークを背負っている真ん中の選手には、パスが出しにくいので、バックラインの選手は出し所に困り、そこでパス交換を繰り返すことになる。前時代的なサッカーに陥ってしまうわけだ。

 流れに変化が見えたのは、後半20分、安田を投入した後だった。安田が入ったポジションは4−1−「3」−2の「3」の左。岡田サンは、彼を本来のポジションより、1列高い位置で起用したわけだ。以前、駒野の前で三都主を使ったオシム采配と同じ発想が、結果的に功を奏すことになった。24分に前田が決めた同点ゴールは、左サイドを抜けた安田のセンタリングから生まれた。

 そこで思うのは、なぜ安田を最初から左サイドバックで起用しなかったかという点だ。なぜ、先発は加地だったのか。それは当初から、安田を途中交替で「3」に起用する思惑があったからに他ならない。しかし その結果、岡田ジャパンは立ち上がりから60分間、バランスの悪い戦いを余儀なくされた。

 僕は、現代サッカーにおいて両サイドバックと両サイドハーフの円滑な関係ほど大切なものはないと考えている。この「四角」のフレーミングを、しっかりさせることが、チーム作りの基本だと考えるが、日本には残念ながらサイドハーフの概念が定着してない。イングランド的な、文字通りの4−4−2の文化が欠落しているのだ。

 安田のようなタイプが、スタメンからサイドハーフとして出場するのは当たり前。その活躍で同点ゴールが生まれたシーンを目の当たりにすると、改めてそう思う。すると今度は、右サイドの縦攻撃の弱さに目が向く。

 内田を安田のように高い位置で使うアイディアはないのか。右サイドバックには加地もいれば駒野もいる。縦に強い内田を、わざわざ「激戦区」で使う必要はない。

 右サイドバックもこなせば、右サイドハーフもこなす選手、つまり、アーセナルのエブエのような選手こそが、僕は現代サッカーの申し子だと考えている。そして内田と安田にはエブエになれる可能性があると思う。「かつての早稲田ラグビーをを彷彿させるサッカーを」と、岡田サンが言うのなら、サイドの高い位置に決め手のある選手を据えるべし。中盤でグチャグチャ繋ぐサッカーより、よっぽど効率的だと僕は思う。