岡田監督が提唱する"接近"に戸惑う選手達<br>【photo by B.O.S.】

写真拡大

 チリ戦翌日のスポーツ新聞は、数紙を並べて読んだ。同じ試合を論じているにも関わらず、各紙の論調の違いが愉快だった。ある新聞は「オシム流継承」と書き、ある新聞では「オシム流放棄」と書いている。誰もが新代表のキャッチフレーズ探しに躍起になっていることだけは共通している。もちろんその最右翼は「接近、展開、連続」となるが、岡田監督が掲げたテーマに対して、様々な考え方が飛び交っているのも事実だ。

 ラグビーではこの言葉は攻撃のことを意味していた。その結果、攻撃でのテーマだと認識する記者も多かった。しかし、チリ戦で発売されていたプログラム内でのインタビューで指揮官は「守備の方法」として、この3つのフレーズを説明している。そして、選手たちの認識といえば、「守備のことなの?」と目を丸くする選手もいるし、守備のことだと認識している選手もいる。

「まあ、守備でも大事なことだよね。相手に接近してボールを奪う……ということはよく監督から言われているからね」と遠藤保仁。しかし、彼ら攻撃陣の選手たちは、攻撃時の“接近”に戸惑いを隠せないようだ。「オシムさんのときに比べたら、選手間の距離を短くなる。その感覚を体現するのが難しい。頭の中ではわかっていてもコンディションが万全じゃないから、身体が動かないということもあるし」と遠藤が続ける。

 オシム監督が実戦しようとしたサッカーは、何も特別なことではなかった。サッカーの基本であった。「ボールも人も走る」というのは、ブラジルなど特別な国以外では当たり前のテーマだ。日本クラスの国が世界の強い国と戦うために必要なことのひとつである。それが、岡田監督も引き継いでいく語っている「日本人の特徴を生かしたサッカー」というコンセプトとなる。

 両監督の違いを明確にする必要があるのか?

 変化の兆しを明確に伝えたいと望むマスコミ。その求めに代表が応じる必要もないのではないか?突貫工事で城を作り上げても意味がない。もちろん、ワールドカップ予選初戦までには時間はないが、予選は長く続くのだから。

 チリ戦を終えて、選手間でのコミュニケーションは深まっている。それぞれが抱く疑問をぶつけて、解決策を探ろうとしているようだ。だから遠藤は言う。

 「チリ戦は初戦ということで、すべてが上手く行くとは思ってはいなかった。悪い点が出てきてもしょうがないと思っていた。そういうものが出て、それを修正して、次のボスニア・ヘルツェゴビナ戦に挑めばいいと。だから、明日の試合は、手ごたえを感じられる試合にしなくちゃいけない。チリ戦では守備面での確認ができた。今度は攻撃に繋がる守備をしていきたい」

 選手たちだけは焦らず、自分たちのペースでチームを進化されることに集中してほしい。

―― text by 寺野典子 ――