一部の路線バスで、「V型」などと呼ばれるつり革が使われています。ひとつの「輪」が2本のベルトで吊り下げられているこのつり革、メリットはあるものの「バス車内の変化」にともない、新規採用は少なくなっています。

揺れが少ない「V型つり革」

 鉄道やバスで見られる一般的なつり革は、1本のベルトに「〇」や五角形の手掛けが吊り下げられていますが、ひとつの手掛けに対し、このベルトが2本使われている場合があります。


東武バスセントラルの路線バス車両で使われている「V型つり革」(中島洋平撮影)。

 一部のバスで見られるこのつり革。丸い手掛けの上方からベルトが2本、Vの字を描くように取り付けられていることから、「V型つり革」などと呼ばれます。対して、1本のベルトで吊られている通常のつり革は「I型」です。たとえば首都圏では、東武バスグループの一般路線バスでV型つり革が使われています。

 関西では、神戸市交通局が神戸市営バスで2004(平成16)年から導入。「つり革が車両の前後方向へ揺れるのを抑えられるという局員の意見から、試験を実施したうえで採用を決めました。まだ一部、I型のつり革を使っている車両も残っていますが、『I型は揺れが激しいのでV型にしてほしい』というお客様の声もあります」とのこと。

 V型をより古くから採用しているのが仙台市交通局。時期は定かではないものの、平成になったころには、仙台市営バスにおける標準仕様のひとつになっていたといいます。やはり前後方向の揺れが抑えられることから導入したそうですが、「V型にするとつり革の数が減ってしまったり、(車両の進行方向に対して)左右方向の揺れは抑えられなかったりと、異論もあるのも事実です」とのこと。周辺の事業者でV型の採用は見られないといいます。

主婦のアイデアで誕生!

 V型つり革は、バスの内装品などを手掛ける稲垣工業(東京都大田区)が、1980(昭和55)年に初めて商品化しました。同社では「ダブルベルト」と呼んでいるとのこと。

「そもそもは、札幌にお住まいだった一般主婦の方のアイデアです。その方が実採用に向けてバス事業者などにあたるなか、当時北海道にあった当社の営業所へ相談に来られ、商品化に至りました。おそらく、当社のダブルベルトを初めて採用されたのは仙台市交通局さんでしょう」(稲垣工業)

 北海道新聞の1980(昭和55)年1月24日夕刊に、V型つり革が誕生した経緯が主婦の写真付きで紹介されています。それによると、主婦が市電に乗っていたとき、乗客が2本のつり革をまとめて握っているのを見てひらめいたアイデアだそうです。記事では、「車が悪路やカーブに差し掛かるたびに、つり手につかまっていた乗客は、体ごと振り回されることがあったが、こうしたことが少なくなり、車内事故の防止にもつながる」としています。

 稲垣工業によると現在、V型つり革はコミュニティバスの小型車両でも使われるケースがあるものの、新規採用はそう多くはないとのこと。

「いま路線バスで主流のノンステップバス(乗降口付近の段差をなくしたバス)は、車内後方の床が高くなっています(編注:床下にエンジンなどがあるため)。この高くなった部分の上につり革をつけると、立っている人の頭に当たりやすいため、ノンステップバスでは基本的に、車内中ほどから前寄りにかけての低い部分にのみ、つり革がつけられます。つまり、昔と比べて車内のつり革が少なくなっているのですが、そこでダブルベルトを採用すると、さらに減ってしまうのです」(稲垣工業)


おにぎり形の手掛けと、長方形の広告を貼る部分が一体となった「広告付手掛」。ベルトを短くでき、それが1本でも揺れが比較的少ないという(画像:三上化工材)。

 前出の仙台市交通局は、今後もV型つり革を使っていくそうですが、東武バスグループでは2016年4月以降に導入した車両から、I型に変更しているといいます。

 ちなみに、つり革メーカーである三上化工材(大阪市西淀川区)によると、V型ではないつり革でその揺れを少なくする方法としては、ベルトを短くすることなどが考えられるとのこと。おにぎり形の手掛けと、長方形の広告を貼る部分が一体となった「広告付手掛」などは、ベルト1本でも短くできるそうです。

【画像】見られたらラッキー? 「ハートのつり革」


広島圏のバス事業者14社がそれぞれ、少数台運行している「幸せのハートのつり革バス」。電車やバスでイベントのひとつとして、このようなハート型のつり革を採用する例がある(画像:広島県バス協会)。