「地域を活性化したい」と言って、他の成功地域を視察する「視察病」が地方を滅ぼす(写真:うげい/アフロ)

地域での取り組みにおいて重要なのは、常に「プロセス」(過程)です。地域の事業も、最初の計画どおりに事が運ぶことなど、ありません。紆余曲折を乗り越えて、その結果として素晴らしい成果が生まれます。「その時」「その場所」で、その人達が取り組むからこそ成果が出るのであって、後から成果だけをパクったところで、何の役にもたちません。

地方を視察するだけの「招かれざるヒマ人」が多すぎる


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しかしながら、さまざまな地域や政府の関係者に、成功しつつあるまちについて、その改革のプロセスや、そこでの事業の仕掛けの考え方などをお話すると、必ず多くの人たちから出てくるのは「ほかに見に行くべき、いい事例はありませんか?」という質問です。「それ知って、どうするんですか」と聞くと、「いやぁ、だって現地にいって見てみないと分からないじゃないですか」といった具合です。その後、そういう人が正しくプロセスを踏まえて実践したという話を聞いたことがありません。

この手の人達は、東であれが流行ったといえばそこに視察に行き、西であれが流行ってとなればそこに行き、アメリカで、ヨーロッパで、中国で……と年がら年中、世界中を視察し続けて、じゃあ「何やったんだ?」といえば、何もやらないわけです。やらなくていいのです。見に行くのが仕事だと思っているからです。

しかし、現場はたまったものではありません。適当に視察して回るような人々に多大なる時間を費やすことになるからです。このような、注意すべき「招かれざる客」は大きく3つに分かれます。

1.表敬訪問 (1時間以内)

一定の成果を上げている地域には多数の問い合わせが来ます。その中でも正体不明なのが「ご挨拶をしたい」「表敬訪問をさせていただきたい」といったたぐいのものです。この手の人たちの目的は何もありません。「一度行って顔を拝みたい」といった具合で、わざわざ飛行機や新幹線を乗り継いで、1時間くらい何の中身もない時間を過ごすために来てしまう人たちです。

2.情報交換(2時間以内)

二つ目。さらにもうひとつあるのは、関係者数名を引き連れて「情報交換をお願いしたい」といった問い合わせです。「やっている取り組みについて詳しく質問させていただきたい」、「新しい部署の担当になった」とか、「新しい政策担当者になって何をやっていいかわからないため、情報交換をさせていただきたい」といったものです。

「情報交換」ではなく、実態は「情報強奪」

しかし、「情報交換」とは名ばかりで、有益な情報はほとんどなく「情報強奪」に近いものばかりです。日々の取り組みで得た情報、知見などをタダでもらった上で、「大変勉強になりました」と言って去っていく…。しかも、それが何か所属先で有益な形になったという報告など聞いたことがないのは言うまでもありません。

3.視察見学(2時間以上)

さらに活性化している地方の現場で多発しているのは、視察見学の要請です。「ニュースをみました!」「本を読みました!」と刺激を受け、「ぜひ現場を説明して回ってほしい!」といった依頼が先進地と言われるところに押し寄せます。

結局、事例などというものは「その時に」「そのチームが」「その場所で」奮闘し続けて実現した結果に過ぎず、それが答えでもなんでもないわけですが、「一定数、他人の成功をパクれば自分たちも成功する」という基本法則を持っているため、この視察見学が多数出てきます。

もっと悪質な動機としては毎年視察見学予算があるから、毎年どこかに「行かなくてはならない」から行く、というものです。別にどこでもいいけど、団体旅行気分で視察見学に行くのです。地方議会の議員団などが時々やり玉にあがっていますが「先進地域の視察」といえば許される土壌があり、大変困ったものです。

このような暇な人々は半ば永遠に視察を繰り返すわけですが、それによって時間や労力など、各地の膨大な現場のリソース(資源)を消耗します。そのため、現場側の対策が不可欠になります。


私は高校時代に関わっていた東京・早稲田商店会の時代から視察見学は、有料にしています。表敬訪問については明確な目的を、情報交換では期待する情報とこちらに提供してもらえる情報を、お聞きするという設定、流れ(フロー)にしています。

これだけで相当数の無駄な申請がなくなります。つまりは、目的は特になく、単に来るだけという人々が断念するからです。

ただし、この場合、多くは「相手は誰でも良い」ので、頑張っている別の人などにその視察オファーが行ってしまうことがあり、心苦しいのですが、やはりヒマ人のオファーは安易に受けてはいけません。

「ゴリ押し」を不可能にして「現場の消耗」を防げ

さらに、視察見学については、最近ではインターネットでの申し込みシステムを採用し、受付業務などの手間を可能な限り削減し、無駄な値下げ交渉や無理な変更などについて「ゴリ押し」が不可能な体制にしています。

人の担当者をつけると電話口で「俺はあいつと知り合いだからタダにしろ!」、とか、恫喝まがいの交渉をされることもあります。そのようなコストを可能な限りゼロにするためにも行うべきです。また、逆に有料なのですから、案内して欲しい人などもオプションで選べて(もちろんフィーは加算)、見積もりがその場で出るようにしています。

こうすることで現場の担当者の「工数」は最小限にとどまり、精神的疲労も小さくなり、いいことばかりです。さらに、案内するコースを分けて、案内人を分散させて一部の人の現場リソースだけが削がれないように設定しています。このように、可能な限りの効率化と事前の「露払い」によって、現場の消耗を防がなくてはなりません。

一方で、訪ねる側の中にも「心ある人」が0.01%程度はいることは、経験からわかっています。つまり、1万人に1人くらいですね(笑)。

貴重な話を聞いたら、自分の地域に戻って実践を

そのような「心ある人」にはぜひとも心がけていただきたいのは、話を聞きに行って終わりではなく、小さくとも実践するという覚悟をもって行き、必ず自分の関係する現場に戻ったら実践することです。

そして、その成果を訪ねた地域の人に報告してほしいのです。何より、単に視察するだけではお金と時間の無駄遣いをしていて、自分のいる地元をさらに衰退たらしめることになっていることを認識しなくてはならないのです。無駄な視察ばかりしていては、活性化に近づいているどころか、逆に遠のいているのです。


実は、筆者も2003年、学生時代にアメリカ・ニューヨークのタイムズスクエアのマネジメントオフィスに訪ねたときに「日本人はよく来るのだが、話した内容がどう実践されたのか、全くフィードバックがない」ということを厳しく言われたことがあります。

日本人は国内だけでなく、海外でもそのような無責任な視察をしているのかと思ったのと同時に大変恥ずかしくもなりました。戻ってから自分の営んでいた事業会社で広告事業や、ビル管理合理化によるエリアマネジメントを立ち上げて今があるのも、そんな話に刺激を受けたからでした。

また早稲田商店会の時に環境まちづくりを視察に来られた、福岡市新天町の商店街さんは、同じように実践肌でした。視察から戻ってすぐに生ゴミ処理機を商店街で導入し、商店街内の飲食店から廃棄される生ゴミ処理を開始、地域の人々にできたコンポスト(堆肥)を配る取り組みを始められたりしました。こういう実践をすぐにする人たちの視察であれば大歓迎、むしろ実践する現場にも励みになります。

他の地域でその成功のプロセスを学ぶためには、成果をただ見に行っても仕方ありません。その人達がどのような紆余曲折を経て素晴らしい成果をあげたのか、幾度も訪れた危機を「どういう考え方で乗り越えたのか」といった根本的かつ論理的な考え方を聞けるかどうかです。また「どうしてそこから逃げなかったのか」という、ある意味ではメンタル的な生き方であったり、「どうして、今までにない発想ができたのか」という、生き方から学ぶことだったりするのです。

招かるざるヒマ人が来ないように、そして自分が他地域から招かれざるヒマ人にならぬようにすることが地域に活力を生み出す上でも大切なことでもあります。