ローカル線を中心に客と貨物を一緒に運ぶ「貨客混載事業」が徐々に広がっています。トラックによる貨物輸送とローカル線が抱える問題を解決する手段として注目されていますが、実際にどのようなメリットがあるのでしょうか。

客と一緒に宅配荷物や農産物を運ぶ

 ローカル線の旅客列車で客だけでなく貨物も一緒に運ぼうという「貨客混載事業」が徐々に広がりをみせています。


宅配荷物を旅客列車に積み込んでいる北越急行ほくほく線の貨客混載事業。写真は2017年の事業初日の様子(2017年4月、草町義和撮影)。

 JR北海道と佐川急便は2018年10月、旅客列車で宅配便の宅配荷物を運ぶ貨客混載事業に共同で取り組んでいくことで合意しました。合意内容によると、佐川急便の稚内事業所から幌延町内のエリアまで配達する宅配荷物が対象です。

 稚内営業所から専用ボックスに載せた宅配荷物をトラックで稚内駅まで運び、ここから幌延駅まで宗谷本線の旅客列車で運びます。列車が幌延駅に到着後、配達担当者が専用ボックスを取り降ろし、町内の事務所や民家などに配達します。JRの旅客会社が宅配便の貨客混載事業に取り組む方向で合意したのは、これが初めてです。

 これに先立つ2017年4月、ほくほく線(新潟県)を運営する北越急行が佐川急便と提携して貨客混載事業を開始。平日夜間に六日町〜うらがわら間で宅配荷物を運んでいます。2018年には和歌山電鐵も宅配荷物の貨客混載事業を開始しました。

 宅配荷物ではありませんが、会津鉄道(福島県)と京都丹後鉄道では農産物を運ぶ貨客混載事業が行われています。2018年10月にはJR東日本が只見線(福島県)で農産物輸送の実証実験を始めました。

 鉄道だけではありません。地方の路線バスでは十勝バス(北海道)や岩手県北バス、宮崎交通などで宅配荷物の混載輸送を実施。ジェイアール四国バスは日本郵便と提携して高知県内で郵便物を運んでいます。タクシー会社の山城ヤサカ交通(京都府京田辺市)も佐川急便と提携し、客と一緒に宅配荷物を運ぶほか、運行の合間に戸別宅配や集荷作業も行っています。

貨客混載が地方を中心に広がる事情

 貨物の量にもよりますが、鉄道の旅客車両内に貨物を載せる場合、貨物が振動などで倒れて客にぶつかることがないよう、安全対策を徹底しなければなりません。


北越急行ほくほく線で行われた貨客混載の試験運転の様子。110km/hの速度域から非常ブレーキをかけてもボックスは動かなかった(2016年11月、草町義和撮影)。

 北越急行の場合、宅配荷物専用ボックスをベルトで固定するための装置を設置。記者(草町)が2016年11月に取材した試験運転では、110km/hの速度から非常ブレーキをかけて列車を意図的に揺らし、ボックスが転倒しないかどうかチェックしていました。

 こうした対策に手間やお金がかかるにも関わらず、なぜ貨客混載が地方の鉄道路線で広がりを見せているのでしょうか。大きな理由としては3点挙げられます。

 ひとつ目はトラックの「運転手不足」です。国土交通省と厚生労働省が2015年にまとめた資料によると、「道路貨物運送業就業者は全産業の平均に比べ若手就業者の割合が低く、その差は拡大傾向」「中長期的に、高年齢就業者の割合が急速に高まる一方、若手・中堅層が極端に少ないといった年齢構成の歪みが顕著になる懸念」があるといいます。

 現状のまま推移すれば、そのうちトラックを比較的長く運転できる人がいなくなってしまいます。そこで鉄道などで運ぶ距離を少しでも増やし、トラック運転手の負担を少なくしようというわけです。

 しかし、貨物を運ぶために貨物列車を新たに運行したりすると、相当な費用がかかります。そこで出てくるふたつ目の理由が「余力活用」。ローカル線の場合は沿線人口が大幅に減り、ローカル線を走る旅客列車の車内もスペースに余裕があります。空いたスペースに貨物を載せれば、列車を増やすことなく貨物を運ぶことができるのです。鉄道会社には貨物の運賃が入りますから、経営が厳しいローカル線の維持にも役立ちます。

収入はどのくらい増えた?

 3点目は「環境負荷の軽減」。鉄道は自動車に比べて少ないエネルギーで走ることができ、二酸化炭素(CO2)の排出量も自動車より少ないという利点があります。トラックから鉄道に置き換える距離が長くなればなるほど省エネルギー化が進み、ガスの排出量も少なくなるのです。


貨客混載に取り組むことが決まった宗谷本線の普通列車(2017年10月、草町義和撮影)。

 こうしたメリットがあることから、鉄道をはじめとした公共交通の貨客混載が徐々に広がっていますが、実際にどのくらいの量の貨物を運んでいるのでしょうか。

 貨客混載事業を始めて1年半以上が経過した北越急行に取材したところ、「宅配荷物の量ではなく、貨客混載を行った回数でカウントしています。2017年度は貨客混載輸送を187回(1回=1日1往復)実施しました」(運輸部)と話しました。

 事業開始前の2017年4月1〜17日と土曜・休日を除いた平日の日数は約230日ですから、輸送する宅配荷物がゼロの日もあったことになります。ローカル線の場合は沿線人口が少ないため、宅配荷物の量もそれほど多くはないのです。

 量が少ないということは、運賃収入も大きくはありません。北越急行運輸部は「収入の詳細は非公開ですが、全体としては微々たる金額で、経営に大きく影響するほどではありません」と話し、単独ではローカル線の経営改善の決定打になっていないことをうかがわせます。

 その一方で「輸送の余力を生かして少しでも収入を増やそうという観点から、貨客混載に取り組んでいます」とも話しました。大きな設備投資を行わずに一定の収入が得られることは確か。複数ある経営改善策のひとつとして貨客混載事業を導入するというのが、これからのローカル線経営のスタンダードになるかもしれません。

【写真】客の脇に「鎮座」する宅配荷物


北越急行ほくほく線の貨客混載列車の車内。座席の脇に宅配荷物のボックスが置かれている(2017年4月、草町義和撮影)。