羊の世話をする堰合さん(中)と小泉さん(右)(青森県階上町で)

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 羊肉が全国的に大ブームとなり、農家らが飼育に挑戦する動きが出てきた。独自のおいしさやヘルシーさを求めて、女性を中心に需要はうなぎ上り。「超品薄状態。供給が需要に追い付かない」(羊齧=ひつじかじり=協会)ほどだ。需要増を受けて、農家らが新たな所得の一助や地域おこしを目指して羊飼育に挑戦。部会を立ち上げたJAもある。牛豚鶏以外の「第四の肉」に、商機が見えてきた。

ラム高値、規模拡大へ 青森県階上町


 青森県階上町で餌を待つ40頭の羊。農家の堰合勝美さん(75)の畜舎で、小泉雅也さん(44)が餌やりをする。2001年に羊の飼育を始めた堰合さん。町の祭りで人気が高く話題も集めたが、後継者がいないことから飼育をやめようと思っていた。そこで、仕事の一つにしようと障害者就労継続支援をする事業所「ここロード」が16年に継業。現在は堰合さんに教わりながら、小泉さんや会員が飼育を担う。

 出荷先は町の祭りや道の駅が中心だが、今後は各地から問い合わせがあることを踏まえ規模拡大に乗り出す。同事業所は南部ほうき作りやニンニクのしょうゆ漬けなどで収入を得るが、将来的には羊を経営の柱にしたい考えだ。「羊はかわいい。貴重な収入源の一つでもある」と小泉さん。

 10月半ばに自然交配で妊娠し、年明けに出産する羊。特に1年未満のラム肉が高値で取引される。堰合さんは「温厚な羊だが、出産シーズンは過敏になる。需要は相当あるので、飼育は簡単ではないが、できるだけ協力したい」と見守る。

 同町では同事業所以外にも若者らが羊の飼育に挑戦し、町は羊による地域おこしを狙う。

JAが部会 新規も続々 飼養増へ機運


 需要増を受け、農山村で羊の増産や新たに産地化を目指す動きが出てきた。岩手県JA江刺は、16年12月にJAひつじ部会を立ち上げた。現在、部会の農家は14人で繁殖雌羊と種雄羊86頭を飼育し、遊休農地に放牧する。東京の焼き肉店と奥州市にあるJAの産直市に出荷。「草刈りとして活躍するが、今後羊ブームに乗ることができたらうれしい」とJA畜産課の後藤功賢担当は期待する。

 北海道では、今春からニュージーランドと協力し飼養頭数を増やすプロジェクトが始動。この他、宮城県や福島県でも農家の参入がある。暑さに弱い羊は西日本では飼育実績が少ないが、羊齧協会によると西日本でも産地化を目指す動きがある。

 ただ、まだ“点”での機運にとどまる。1959年の羊肉の輸入自由化などを経て、減っていた羊農家。農水省によると、ここ数年の飼養頭数は1万7000頭前後で推移する。菊池代表は「ジンギスカン人気ではなく、現在の羊肉ブームは食材の一種として流通にまで入り込んでいるので、人気は定着する可能性が高い。新規就農者の参入もあり、今後農山村で少しずつ広がっていく」と見据える。

豪州で生産減、中韓は需要増


 12年に羊を愛する消費者らが設立した羊齧協会によると「臭い、硬いといった従来のイメージがなくなり、ここ1年で羊は大ブーム」という。イオンリテールが昨年5月にラム肉の売り場面積を396店舗で2、3倍に拡充すると発表した。羊専用のバイヤーを置くスーパーもある。同協会の会員も、発足時34倍の1700人に激増。今秋には首都圏に羊専門の飲食店が複数、開業した。

 同協会の菊池一弘代表は「オーストラリアが干ばつで輸入が少ない上に、中国や韓国でも需要が高まっている。国産も輸入も圧倒的に品薄だ」と説明する。