日本バスケットボール界期待の星、渡邊雄太がNBAデビューに近づいている。

 7月にメンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約(注)をかわした渡邊は 、10月12日(日本時間13日)まで行なわれたプレシーズンゲーム(オープン戦)の4試合に出場。中でも10月6日(同7日)のインディアナ・ペイサーズ戦では、21分間をプレーして11得点、 3リバウンド、1ブロックを挙げる活躍で存在感をアピールした。

(注)2ウェイ契約は昨季から採用された新制度。基本はNBAチーム傘下のGリーグチームでプレイするが、1シーズンに45日間だけNBAでロースター登録が許される。各チームは2人と2ウェイ契約を結ぶことできる。これによってロースターに登録できる選手数は15人から17人になった。

 そしてプレシーズンゲームが終わって間もなく、NBA開幕ロースター入りが発表された。レギュラーシーズンは10月16日(同17日)に開幕するが、田臥勇太以来となる日本人史上2人目のNBAプレイヤー誕生はもう目前に迫っている。

 10月10日(同11日)にアムウェイセンターで行なわれたオーランド・マジック戦の前後に、渡邊に話を聞いた。アウェーのゲームとあって、当日午前中のシュートアラウンドに足を運んだ日本人記者は筆者のみ。コートサイドに腰を下ろした渡邊は、カレッジ時代と変わらず、丁寧にNBAライフと自身の現在地について語ってくれた。


ペイサーズとのプレシーズンゲーム後にインタビューを受ける渡邊

――まだプレシーズンですが、NBAプレーヤーとしての日々はいかがですか?

「かなり充実しています。凄く楽しいなと毎日感じながらやっています」

――ペイサーズ戦での活躍は現地メディアでも大きく取り上げられましたが、ゲーム後は周囲からの反響も大きかったのではないですか?

「いいプレーだったと言われましたし、みんな凄く喜んでくれました。ただ、まだプレシーズンですし、正直、あれくらいではまったく満足していません。今後も自分のやるべきことをしっかりやって、アピールしていきたいですね」

――確かにまだプレシーズンゲームですが、ペイサーズ戦では評価の高いディフェンスやシュートだけでなく、ドライブ、ダンクも含め、さまざまな形でいいプレーができたことは自信になったのでは?

「そうですね。それまでは、プレーする環境のレベルがかなり上がったことで、自分のバスケットボールがどれだけ通用するのかがわかっていなかった状態でした。そんな中であれだけできたことで、自分が今までやってきたことは間違っていなかったと感じられましたし、すごく自信にもつながりました」

――カレッジとNBAで最も大きな違いを感じるのはどの点ですか? 

「うーん、言ってしまえば本当に全部が違うので……カレッジの中の本当に上の選手だけしかここには来られないですからね。プレーのレベル、試合中の賢さ、身体の強さ、そのすべてにおいてカレッジとはレベルが違うなと感じます」

――ジョージ・ワシントン大時代から何度も聞いてきたことですが、現時点での課題は?

「今まではガードとマッチアップすることが多かったのであまり気にしていなかったんですけど、現在はパワーフォワード(PF)で出ることが多いんですが、PFではゴール周辺でボックスアウト(リバウンドを取るための好位置を保つために、相手をブロックすること)をやり切れていない。ボックスアウトを試みても、結局は後ろから押されてリバウンドを取り損ねてしまうことが何回もありました。そこはしっかり相手を抑え、リバウンドを取れるようにしないといけないと思っています」

――コーチから言われている役割は?

「実は、今の段階で役割は何も言われていないんです。でも自分としては、短い時間の中でもとにかくオフェンス、ディフェンスを一生懸命やる。速攻になったら先頭を走り、あとはディフェンスである程度抑えられるということをアピールしていきたい。試合中、主力選手を休ませなければいけない時間帯で、5分でも『ユウタを出しておこう』という考え方を(コーチ陣に)持ってもらえれば、自分としては成功かなと。まずはそういう役割をもらえるようにしなければいけません」

――ペイサーズ戦で活躍したことで、日本のファンも「早くNBAでプレーしているのが見たい」と期待を高めていると思います。開幕ベンチ入りに対するこだわりは渡邊選手の中にもあるのでしょうか?

「当然、入れたら入りたいです。ただ、ここまでチーム内に大きなケガ人も出ていないですし、(プレシーズンゲームの)残り2試合で活躍したとしても、今の段階でロースターの15人を差し置いて僕を入れようということにはならないと思っています。だから、そこだけにこだわってはいません。チャンスはシーズン中に必ずあると思うので、そのときに向けてしっかりと準備しなければいけないな、という感じです」

――焦らないで長い目でやっていきたい、というところでしょうか。

「そうですね、プレシーズンが終わったらGリーグ(マイナーリーグ)もすぐに始まります。そっちはそっちでしっかりと活躍して、アピールしていかなければいけません」

――ヘッドコーチのBJ・ビッカースタッフは”アンセルフィッシュ(献身的な姿勢)”という言葉を好んで使うように思えるのですが、選手に重視させているのもその部分ですか?

「コーチが常にチームに伝えているのは、”Competitive(競い合う)”と”Unselfish(献身的な姿勢)”という言葉です。相手としっかりと競い合うことと、アンセルフィッシュなプレー。その2つは自分が一番大事にしている部分でもあります。そういった意味でも、このチームの特徴に自分はきっと合っていますし、本当にいいチームに入れたなと思っています」

――ところで、トレーニングキャンプ中に披露し、動画が出回った鮮やかなダンスの反響は今でも凄いんじゃないですか?

「いや、もう忘れてくださいよ(笑)。本当にそろそろあれは……」

――あのパフォーマンスでチームメートの心も掴んだのではないかと(笑) 。

「確かに仲良くはなってますね。ダンスだけではないですけど、ああいったことがきっかけになって、みんなと近づいた感じはあります。:特に同じルーキーで、Gリーグで一緒にやるドラル(・ムーア)や、マーケル(・クロフォード)とは仲良くさせてもらってます」

――グリズリーズというと、マイク・コンリー、マルク・ガソルといったスター選手たちがいますが、彼らとの関係はどうですか? 

「彼ら2人は特に面倒見がいい選手たちですね。僕だけでなく、他のルーキーにもかなり声をかけてくれます。僕のイメージとしては、NBAのスーパースターたちは自分のやるべきことをやるだけという感じなのかな、と思っていたんですけど、彼らは本当に違うんです。チームの中心としてみんなをまとめてくれているので、素晴らしい選手だなとあらためて感じています」

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 グリズリーズの開幕戦は、10月17日(日本時間18日)に行なわれるペイサーズ戦。限られたチャンスで結果を残し、ロースターに定着することを期待したい。