写真右から筆者、正田郁仁(法政大学経営学部2年)、神谷菜月(明治大学経営学部3年)、須田孝徳(早稲田大学大学院商学研究科修士1年)、牧之段直也(早稲田大学政治経済学部3年)、樋川怜奈(早稲田大学教育学部3年)(写真:筆者提供)

日本生産性本部が今年6月21日に発表した新入社員アンケートによると、「働き方は人並みで十分」と答えた新人が、過去最高の61.6%にのぼりました。人より猛烈に働いて秀でたい、平均よりたくさんお金を稼いで贅沢したいという若者は減っているのでしょうか? 『若者わからん! ―「ミレニアル世代」はこう動かせ―』を著した博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんが、そんな話を若者たちに振ってみました。
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「仕事は人並みでいい」?

原田:君たち若者研究所のメンバーは、こういうプロジェクトに進んで参加していることからも、一般的な大学生の平均に比べれば「人よりたくさん働きたい」という意識が高いと思うのだけど、友達の話も交えてそのあたりを聞かせてくれるかな。

山切:バイト先の同級生が東大生で女性なんですが、東大に入ったくらいだからものすごいハングリーな子かと思ったら、そうでもないんですよ。彼氏はいるけど結婚願望はないし、年に1回海外旅行に行きたいみたいな希望もないから、そんなにお金はいらない。会社は完全週休2日で残業なしが希望、人より秀でなくてもいいと言ってました。

原田:昔から欲が少ない東大生はいるんだよね。「単に勉強が好きだから勉強していたら、結果東大に入っちゃいました。でも、そんなガツガツ働きたくありません」って人もいるにはいた。そんな感じの人の割合が、今はかなり増えているんだろうね。事実、最近は東大や早慶など高学歴女子の中で総合職ではなく一般職を志望する子がかなり増えていて、企業側が大変驚いてしまったり、一般職を狙っている女子大出身の学生が困っている、なんて話が出てきている。それに通じる話だね。

樋川:同じ早稲田の仲のいい友人女性がいま就職活動中なんですけど、商社の一般職と弁護士事務所の事務職しか受けてないんですよ。結婚したらさっさと仕事を辞めて、専業主婦になって、毎日ゴロゴロしながら子育てしたいって。

原田:ゴロゴロしながら子育てはできないと思うけど……。とにかく、「チル(くつろぐ、まったりする)」が大切になっているミレニアル世代の君らにとっては、高学歴だからといって上昇志向や労働意欲が強いとは限らなくなっている。それがわりと当たり前なんだね。ノブレス・オブリージュ(仏: noblesse oblige)、つまり「身分の高い者は、それに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務がある」という欧米的な考え方は、今の日本の若者たちには関係ないんだね。

牧之段:僕と同じ早稲田の友達も無欲ですよ。服はお母さんに買ってもらってるし、財布の中身もお母さんが管理してるやつなんですけど(笑)。平和な暮らしさえできればいいから、大きい家もいらないし、仕事で競争もしたくないって言ってます。にもかかわらずサークルの幹事長をやってるので、理由を聞いたら「先輩から言われたから」だそうで。役職を担って誇らしいとか満足してるみたいな気分は、まったくないそうです。

原田:牧之段くん自身はどうなの?

牧之段:少しは人より秀でたいですよ。

原田:じゃなくてさ、プライベートジェットを持ちたいとか、それくらいの秀で方はないの? ホリエモンみたいな。

牧之段:今のままでも満足なので……。逆に聞きたいんですけど、なんで昔の人たちはそんなビッグドリームを抱いてたんですか?

原田:だって、お金がたくさんあればどこにでも行けるし、買いたいものが買えるし、おいしいものだってたくさん食べられる。そんなに働かなくてもいいから、時間を好きなことに使えるじゃない。君たちがカラオケでよく歌うDA PUMPの『USA』という歌でも、ドリームがたくさん歌われているじゃない?

一同:(シーン)

牧之段:確かにそうですけど……。この歌は「ダサかっこいい」と言われているとおり、僕らにバッチリ歌詞がはまっているわけではないですし。……お金をそんなに得るためには、ものすごく本気で取り組んで、いろんなものを捨ててまで頑張らなきゃいけないじゃないですか。そこまでの覚悟はないです。

原田:ワーク・ライフ・バランス世代は、バランスを崩してまで得られるお金はいらないんだね。今年の初め、北欧で現地の若者たちに調査したんだけど、北欧の職場は全体的にかなりワーク・ライフ・バランスが保たれているから、皆あまり仕事に対する不満がない、と若者たちが口々に言っていた。多くの日本企業は、北欧型の労働スタイルや職場環境を参考にする必要が出てきているかもしれないね。

近くに金持ちがいれば、金持ちになりたくなる?

樋川:私は稼ぎたいです。いい服を着たいし、旅行にも行きたい。ただ、プライベートジェットって話ではないかな。年収1000万円くらい。これだって、女性だとなかなか行けないレベルですよね。

原田:そうだね。日本のサラリーマンの平均年収が400万円くらいだし、女性の正社員の給料は男性の正社員の7割程度だと言われているから。でもさ、どうしてそんなにお金が欲しいの?

樋川:人に誇示したいわけじゃないんです。自分のものも欲しいけど、将来のことを考えたとき、家族に充てるお金が潤沢に欲しいなって。

須田:今の若者がかつてのヒルズ族みたいな生活にあこがれないのは、ヒルズ族みたいな金持ちが近くにいないからだと思います。いないから想像できない、想像できないからその世界に行ってみたいと思わない。

原田:須田くんは金持ちにあこがれない?

須田:僕はわりと金持ちになりたいと思ってますけど、高校までは人並みでいいという意識でした。どうして意識が変わったかというと、大学に入ったときにお父さんの年収が3、4000万円の子が近くにいたんです。彼はやっぱりたたずまいが違ってたんで、それを見て自分もそのレベルにいけたらいいなあと。

樋川:私が稼ぎたい志向なのもそうです。おじいちゃんが官僚かなにかの男の子が、クラブでシャンパンを2000万円分入れてて(笑)。そういう存在を近くで見ちゃってると、ああ、お金あったほうが絶対いいじゃんって思ってしまうんですよ。

原田:クラブで2000万円のシャンパンを開ける学生って……。絶対ろくな大人にならないよ(笑)。昔の官僚は今と違って稼げたみたいだけど、彼のおじいちゃんも、まさかそんな使われ方をすると思っていなかったんじゃないかな。でもさ、それこそ身の丈以上の消費の仕方だから、現実的な君らはそこまでの消費にあこがれないんじゃないの? 年収1000万円じゃ2000万円のシャンパンを開けられないよ?

樋川:私はそこまでは求めませんけど、すごいとは思うし、触発はされます。

須田:ただ、今の学生って親がすごく金持ちでも、本人はユニクロを着てる人も多い。だから金を持ってる人間のなんたるかを想像しにくいかもしれません。僕、大学に入学していちばん最初に話しかけた女の子が、某超大企業の会長のお孫さんだったんですが(笑)、格好は普通だし、格別お金を使ってるようにも見えませんでした。

原田:以前、日本の富裕層研究をやって、『黒リッチってなんですか?』(集英社)という本を共著で書いたんだけど、成り上がりではない、祖父母や両親が金持ちの日本のクラシカルなリッチは、きちんとした教育を受けているケースが多い。彼らは自分たちの金持ちぶりを見せびらかしたりはしないんだよね。金持ちが日本社会であまり顕在化しないのも、若者が金持ちを目指さない理由のひとつかもしれない。

40歳では「早く帰って子どもの顔を見たい」

原田:じゃあ自分が40歳になったらどんな働き方をしていたいか、どういうワーク・ライフ・バランスでありたいかを聞かせてくれるかな。まずは男性から。

須田:40歳では夜7時か8時には帰宅したいです。理由は子どもとの時間を取りたいから。うちの親は僕が小さい頃からずっと毎日夜7時に帰ってきてくれていて、それがすごくうれしかったんですよ。30代前半には結婚して、40歳時点では子どもをふたり欲しいです。


写真右から3人目が吉川歩花(慶應義塾大学総合政策学部1年)、4人目が山切萌香 (明治大学経営学部3年) (写真:筆者提供)

正田:僕も40歳で子どもをふたり欲しいですが、子どもが寝る前に顔が見られる程度の時間に帰れればいいかな。うちの父は出張で年間300日以上家にいない人だったので、僕は遊びたくても遊べなかったんです。だから僕は、子どもとはしっかり触れ合いたい。20代では猛烈に働いて、40歳ではある程度落ち着きたいです。

原田:昭和のサラリーマンは家庭を顧みない人が多かったけど、ミレニアル世代の男性は家庭を顧みない人が減るかもしれないね。君らは自分の親とも仲良しな人が多いから、きっと子どもとも仲が良さそうだし。家でチルってるのも大好きだから、外で浮気する人も減りそうだ。

須田:僕は仕事の内容に関して言えば、40歳で管理職であることも予想しつつ、別のスキルも得たいです。たとえば働きながら大学でも教えるとか。そういった意味で、会社員でありながらメディアに出られたりと、いろいろな活動をしている原田さんの働き方は理想です(笑)。

原田:「二刀流、三刀流」の大谷翔平選手を出すのはあまりに偉大すぎるけど、最近はたくさんの名刺を持つことや副業が奨励される風潮がある。いろんなことやるって本当に大変だと個人的には思うけどね。

共働きでしっかり稼ぎたい

牧之段:僕は20代のうちに結婚して、奥さんと共働きでしっかり稼ぎたいです。そのお金で家事代行サービスを活用します。30代でふたりのキャリアがいい感じになってきたら、子どもを作りたいです。

原田:ミレニアル世代は共働きが当たり前の世代だから、大学生男子なのに、奥さんのキャリアイメージや産み時イメージも持っているんだね。

牧之段:ワーク・ライフ・バランスでいうと、40歳は20代より穏やかな働き方でありたいですけど、家に早く帰れなくても構いません。深夜12時帰宅とかでもいいです。

原田:これだけ「働き方改革」が叫ばれている世の中を生きてきたのに、結構労働意欲があるんだね。まあ、体力の落ちてきた40代で深夜帰りっていうイメージが、まだあまり湧かないというのもあるかもしれないけど。でも、もし君と奥さんがともに毎日深夜12時帰宅だと、子どもを育てるのは難しいかもしれないよ。子どもの年齢にもよるだろうけど。

牧之段:じゃあ、子どもが産まれたら、奥さんに早く帰ってもらって……。

原田:そこは牧之段くんじゃなくて、無条件に奥さんが仕事を減らす発想になるんだね。

牧之段:ああ……。

原田:まあ、これは難しいよね。今、子どものいる家庭の女性の7割は働く時代になったんだけど、日本の場合は無条件に女性が仕事をセーブするケースが多いんだと思う。でも、どちらが仕事を減らすのかは、きっと多くの共働き家庭が悩んでいるよ。それにしても、君のような無条件に奥さんが仕事を減らす発想を目の当たりにすると、専業主夫が日本でがんがん増えるようになるのは、まだ君たち世代でも難しいかもしれないな。

子どもをシッターさんに預けてバリバリ働く

原田:女性の皆さんはどう?

吉川:私はバリバリ働きたいので、何よりも仕事優先の40歳になっていると思います。ただ20代のときよりはある程度穏やかな働き方をしていたいかな。子どもは……老後にお世話してもらうことを考えると(笑)、ふたりくらい欲しいですね。ただ、作る時期に関して言うと、産めるギリギリの年齢まで延ばしちゃうと思います。

原田:最近では、早く結婚して早く子どもを産んで……と考える女性も少し増えてきてる、なんて話もあるけどね(25歳前後で「早婚する女子」たちの実態と本音)。

山切:私はそうです。20代後半から30歳くらいで結婚して早めに子どもを産み、40歳ではガンガン働いてると思います。20代後半から30歳くらいで結婚して早めに子どもを産みたいんですが、40歳の時点では子どもがある程度大きくなって、それほど手がかからなくなっているでしょうし、私の職場でのポジションも上がっていると思うので、思う存分働けるはず。私の母が昔も今もガンガン働いていて、私は3歳からシッターさんに見てもらっていたので、母はひとつのロールモデル。だから産休と育休がちゃんと取れて、家族のために休みがしっかり取れる会社に就職したいです。

神谷:私もガンガン働きたいです。子どもはどっちでもいいですけど、結婚したら家事は旦那さんになるべく任せたい。家事をやってもらうぶん私が稼ぎますから、旦那さんは時短勤務でも構いません。

原田:さっきの牧之段君とはうって変わった意見だけど、将来的には日本男性の間で専業主夫や一般職に就く人は増えるのかな。

樋川:私は今、メーカーか広告業界への就職を考えているんですが、40歳になったら仕事を辞めたいです。


原田:どうして?

樋川:理想すぎて頭が沸いてる人みたいで恥ずかしいんですけど(笑)、カフェを開きたいんですよ。結婚は20代のうちにして、子どもはシッターさんに預けて30代まではしっかり働いてカフェ開店のためのお金を貯めます。ただ、結婚相手がもし海外赴任するような人だったら、40歳を待たずに仕事を辞めて、どこの国にでもついて行きたいですね。

原田:その場合、カフェはどうするの?

樋川:それは悩んでるんです。海外でちっちゃい店をオープンするかな……。子どもはもう大きくなってると思うので、海外の高校にポイッと入れちゃって、私はカフェに専念します(笑)。

原田:妄想は自由だからね。でも、最近は妄想する若者が減って現実的に考える人が増えてきているから、不思議となんだか頼もしいよ(笑)。

(構成:稲田豊史)