要人を守るSPに扮したドライバーが迎えてくれる「SP風タクシー」や、忍者に扮した「忍者でタクシー」、さらにはタクシーでめぐる心霊ツアーまで……横浜を拠点とする三和交通がユニークな企画を次々と打ち出しています。背景には、ある切実な思いがありました。

正直、あまり注文がなかった…

 横浜を中心に、東京、神奈川、埼玉でタクシー事業を展開する三和交通(横浜市港北区)で、ドライバーが様々なものに扮したタクシーを導入しています。


ドライバーがSPに扮した「SP風タクシー」のイメージ(画像:三和交通)。

 たとえば、要人警護のSPに扮した「SP風タクシー」。黒いスーツにサングラス姿、小脇に拳銃(水鉄砲)を忍ばせ、左耳に“それっぽい”インカムのイヤホン(じつはどこにもつながっていない)を装着したドライバーが、基本的にポーカーフェイスで接客するというもの。2018年8月下旬にはツイッター上で話題にもなりました。

 さらには、ドライバーが忍者に扮し、基本的に「忍者言葉」で接客する「忍者でタクシー」や、黒子に扮し、基本的に一切しゃべらずカンペでの筆談という「黒子のタクシー」も運行。これらのサービスについて、三和交通に話を聞きました。

――ドライバーが「SP風」「忍者」「黒子」に扮するタクシーは、それぞれどのように運行されているのでしょうか?

 東京、神奈川、埼玉の当社8営業所すべてで実施しています。各営業所にそれぞれの担当者が2名ほど、全営業所で15名ほどが在籍しています。ご用命は当社ウェブサイトからの予約のみで(編集部注:これらのタクシーを指定する場合、指定料金として1000円が必要)、「流し」での対応は出来かねます。

――それぞれ、どのような人が利用されていますでしょうか?

 通常のタクシー利用でのご注文はなく、飲み会や結婚式の二次会などで利用を検討されるケースが多いようです。正直に申しますと、「SP風」「忍者」はそれぞれ2018年6月に運行開始を発表してから、あまりご注文がありませんでしたが、(8月下旬に)SNSで話題になって以降、10件前後ご注文が入ってきています。

まだまだあるユニーク企画! 取り組みで得た大きな手ごたえ

 三和交通のユニークな取り組みはこれだけではありません。エイプリルフールには、どこかで見たことのあるタイムマシンのような装置をタクシー車両に搭載した「超脱臭!! 絶対クサくないTAXI」(2018年)や、「クラウン」のタクシーをもとにした二足歩行ロボット「ロボットのタクシー」(2017年)といったジョークコンテンツを本気で製作しています。また、タクシードライバーが案内する心霊スポット巡礼ツアーが様々なメディアに取り上げられるなど、次々に企画を打ち出しています。

 三和交通によると、これら企画の8割がたは、代表取締役社長である吉川永一さんが発案しているそうです。そのきっかけは、2013年に実施した「タートルタクシー」とのこと。

「タートルタクシー」は、前席シートの背面に「ゆっくり」と書かれたボタンを搭載し、乗客がこれを押すと、いつもよりブレーキや発進がやわらかく体に負担のかからないエコドライブを提供するというものです。タクシーは「いつも急いでいる」というイメージがあるなか、「早く走ってほしくないときもあるけど、なかなか言えない」といった乗客アンケートの声に着目したサービスで、現在も運行されているといいます。


「タートルタクシー」の車内。乗客がボタンを押すと音がなり、ゆっくりとした運転が提供される(画像:三和交通)。

「じつは『タートルタクシー』は、カンヌライオンズ(毎年6月にフランスで開催される広告クリエイティブの祭典)に出品するためのコンテンツ製作を目的とした取り組みでした。こうしたブランディングによって採用がうまくいくことを聞きつけた代表 吉川の発案です。これで大きな反響を得たことから、翌年には広報部を設立し、会社のブランディングを強化しています」(三和交通)

 ユニークな企画を次々に打ち出すのも、「すべては採用のためです」と同社は話します。タクシー業界は高齢化が進み、今後の人材確保が最重要視されているなか、ブランディングを強化することで会社を知ってもらい、興味を持ってもらう狙いがあるそうです。実際に効果が出ており、こうした企画発表後に新卒入社数が例年の6倍以上になった年もあるのだとか。

「当社はSNSや動画投稿、生放送配信なども行っていますが、こうしたメディアは若者が特に敏感です。広報だけでなく現場を巻き込んで様々なコンテンツを発信し、明るくワイワイやっている感じが、社風のイメージにつながっています」(三和交通)

 三和交通ではこうした取り組みもあって、若者が増え、社内の雰囲気も以前と大きく変わってきているといいます。