阪急電鉄が60年近く前に計画したものの、進展がないまま幻に終わったはずの「新大阪連絡線」が、一部の区間だけ復活の兆しを見せています。新大阪連絡線ができると、阪急の鉄道ネットワークはどう変わるのでしょうか。

東海道新幹線の建設決定を機に計画

 関西大手私鉄のうち、東海道・山陽新幹線のターミナルである新大阪駅に最も近いところを通るのが阪急電鉄です。「キタ」と呼ばれる大阪北部の繁華街・梅田にターミナルがあるだけでなく、日本の大動脈である新幹線のターミナルにも近いという地の利のよさがあります。


十三駅に入る阪急の電車。ここから新大阪駅に伸びる新線の計画がある(2015年12月、草町義和撮影)。

 ただし、阪急の路線自体は新大阪駅には乗り入れておらず、一番近い場所でも約800m離れています。京都線方面からは、南方駅でOsaka Metro(大阪メトロ)の御堂筋線に乗り換えなければ新大阪駅にアクセスできません。神戸線方面や宝塚線方面からになると、これに加えて十三駅でも乗り換える必要があります。阪急の沿線住民は「すぐ近くを通っているのに直接行けないとは……」と、もどかしさを感じているかもしれません。

 ただ、阪急は新大阪駅につながる新線「新大阪連絡線」を計画しています。さまざまな問題があって計画は凍結状態でしたが、ここに来て復活の兆しが見えてきました。

 阪急は東海道新幹線の建設決定に伴い、阪急各線と新大阪駅を結ぶ新大阪連絡線の建設を計画。1961(昭和36)年12月、淡路〜新大阪〜十三間4.0kmと新大阪〜神崎川間3.0kmの営業許可を国から受けました。

 これを受けて阪急は建設用地の買収を進め、国鉄も東海道・山陽新幹線の高架橋の下に新大阪連絡線を通すための空間を確保するなどの準備を進めました。しかし、新大阪駅周辺の開発が進まなかったことや、ルートの一部で用地買収が難航したこともあり、新大阪連絡線は本格的な工事に着手することができなかったのです。

 阪急は2003(平成15)年、淡路〜新大阪間と新大阪〜神崎川間の計画を正式に中止します。このとき、用地買収がほぼ完了していた新大阪〜十三間2.3kmは「今後十三駅、新大阪駅での諸計画の動向を踏まえつつ、整合性を取りながら整備方針を決定していきます」(阪急)として計画が維持されましたが、その後も具体的な進展がないまま時が過ぎていきました。実質的には「幻の鉄道」と化していたのです。

関空アクセス新線の具体化で再浮上

 転機を迎えたのは2017年です。新大阪〜北梅田(仮称)〜JR難波、新今宮間を結ぶJR西日本と南海電鉄の新線構想「なにわ筋線」について関係各者の協議が進み、早ければ2031年春にも実現の見通しとなりました。これに伴い、なにわ筋線の支線構想として十三〜北梅田間を結ぶ「なにわ筋連絡線」も構想も浮上したのです。


北梅田駅は大阪駅の北側にある貨物駅跡の再開発エリアに建設される(2016年10月、草町義和撮影)。

 なにわ筋線の現在の計画では、JR西日本と南海電鉄の2社が、なにわ筋線経由の関西空港アクセス列車を走らせることになっています。これに加えてなにわ筋連絡線も建設されると、阪急各線の分岐点である十三駅からも、大阪駅の北側にある北梅田の再開発地区や「ミナミ」と繁華街の難波、そして関西空港まで直通する列車を運転できることになります。

 そこで考えられたのが、なにわ筋連絡線と同様に十三駅に乗り入れる新大阪連絡線を整備し、なにわ筋線の建設効果をさらに広げること。阪急阪神グループも2017年5月にまとめた長期計画で、これまで計画を維持してきた新大阪〜十三間の整備を盛り込みました。

 実際に新大阪連絡線が建設されると、阪急のネットワークはどのように変わるのでしょうか。計画区間や周辺の環境が変わったため、1961(昭和36)年時点の計画でそのまま建設されることはありません。列車の運行体系も当初の計画から大きく変わるのは確実です。

 線路の規格など詳細な検討はこれからになるため、列車の運行区間や本数、運賃などは何も決まっていません。ただ、これまでの検討結果などから、新大阪連絡線となにわ筋連絡線の新大阪〜十三〜北梅田間を一体的に建設。北梅田駅でなにわ筋線の線路に接続させることになりそうです。

 つまり、新大阪〜関西空港間の空港アクセス列車は、現在考えられている「JRルート」(新大阪〜北梅田〜JR難波〜関西空港)と「南海ルート」(新大阪〜北梅田〜新今宮〜関西空港)に、「阪急ルート」(新大阪〜十三〜北梅田〜関西空港)も加わることになります。阪急が営業範囲を大阪南部に拡大し、関空アクセス輸送にも参入できるわけです。

現在の路線からの直通は?

 阪急ルートにどのような車両が導入されるかは分かりませんが、阪急の鉄道車両といえば「マルーン」と呼ばれる茶色に近い色で塗装されていることで有名。マルーン色の空港アクセス特急が運転されるかもしれません。


新大阪駅の博多寄りにある新大阪連絡線の建設スペース。現在はバスやレンタカーの駐車場として使われている(2015年12月、草町義和撮影)。

 いっぽう、阪急のほかの路線から新大阪連絡線に乗り入れる列車は運転されないと見られます。というのも、なにわ筋線の2本のレール幅(軌間)は、JR在来線と南海にあわせた1067mmにすることが事実上決まっています。なにわ筋線に乗り入れるなら1067mm軌間で建設しなければならず、新幹線と同じ1435mm軌間を採用している阪急各線の線路を接続させることができないのです。

 このため、阪急各線から新大阪駅に向かう場合、十三駅での乗り換えが必要になりそうです。ただ、御堂筋線に乗り換える現在のルートに比べれば、神戸線方面や宝塚線方面からは乗り換えの回数が1回減ります。十三駅を乗り換えしやすい構造で整備できれば、新大阪駅までの所要時間が短縮されそうです。

 もちろん、新しい鉄道路線を建設する大規模プロジェクトですから、すぐに実現するというわけではありません。

 新大阪連絡線となにわ筋連絡線を整備してなにわ筋線に乗り入れる列車を運行するなら、なにわ筋線を先に整備するか、同時に整備しなければ意味がありません。なにわ筋線の計画にめどを付けてから、新大阪連絡線となにわ筋連絡線の検討を深める必要があるのです。

 なにわ筋線は2031年春の開業予定とされており、新大阪連絡線となにわ筋連絡線の開業は、これよりさらに遅くなるとみられます。建設費もなにわ筋線だけで約3300億円とされており、これに新大阪連絡線となにわ筋連絡線の建設費を加えれば約4600億円になるとみられます。膨大な額の建設費をどうするかという検討も必要です。

 阪急の「幻の鉄道」が復活するのは、まだまだ先の話になりそうです。

【地図】新大阪連絡線と周辺の鉄道構想


新大阪連絡線と周辺の鉄道構想の位置関係。新大阪連絡線となにわ筋連絡線でなにわ筋線につなげれば、阪急も新大阪〜関西空港間の空港アクセス輸送に参入できる(国土地理院の地図を加工)。